慢性在宅精神障害者の自立と社会参加意識を強化する諸条件に関する調査研究

文献情報

文献番号
199700281A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性在宅精神障害者の自立と社会参加意識を強化する諸条件に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岡上 和雄(中央大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 在宅精神障害者の意識・行動が変化し、援助者側の期待もまた変化しつつあることに着目し、障害者福祉一般の原則(自立、選択等)に近づけるために、今求められている支援策を実態・ニーズ調査によって順次明らかにしようとする。
研究方法
 無作為に抽出され、かつ、調査に同意した240作業所に通所中の精神障害者計2018名に書面調査を行い、同時に、病名、障害の評価等についてスタッフの調査を行った(1998年2月初現在)。
結果と考察
研究結果=
対象のプロフィール:1947年~1974年生まれが74.3%、男女比68.4対31.6、初回受診年齢24.2歳、入院歴のない者12.2%、この1年に入院しなかった者76.6%であった。年金受給者は60.4%、精神保健福祉手帳の保持者は51.9%であった。日常生活の障害(6項目)の認知については、既存調査(後記)より「できる回答」が高く、仕事遂行上の障害(4項目)については、「できる回答」が低い結果を得た。
医療:薬物については、学習会などに参加したいと回答した者が41.5%を占めた。一方、病名については、「知っている」と回答した者が79.9を占め、うち、分裂病圏としての認知する者は73.7%であった。病名を知る方がよい者は88.7%、さらに、症状への対処法を知る方がよい者は84.2%であった。医師患者関係のうち、治療の説明、制度の説明を受けていないと答えた者が、それぞれ37.7%、44.6%あった。また、両者の関係の改善手だてについての希望では、医師自身の勉強会を求める回答が最大(46.0%)であった。
次に再発については、「兆しがわかる」49.8%、「場合によりわかる(わからない)」28.5%、「わからない」13.0%、「どちらでもない」8.6%であった。悪化時に「自分で対処できる・なんとかなる」56.5%に対し、「他者の援助がいる」20.8%、「できない・わからない」14.1%、「どちらともいえない」8.6%であった。対処が困難な理由は、「わかっても方法がわからない」50.6%、「悪化自体がわからない」48.2%などであった。
生活支援:日常生活中の食事項目では、日常の食事を「自分でつくる」あるいは「外食する」と答えた者は34.0%であった。施策としては、「料理教室」の開催を希望する者が38.0%、「弁当の配達」を希望する者が26.9%、「仲間といっしょに食べられる場」を希望する者が27.1%であった。さらに「夕食の場」への期待では、「利用したい」が61.2%に達していた。社会生活面では、それを妨げる要因として金銭的な逼迫に次いで、「交際する人がいない」(36.2%)、「同行する人がいない」(36.9%)という回答が示された。就労への希望では、「体調に合わせて休みや通院時間などが自由にとれる制度」を求める回答が39.8%と他の選択肢とは飛び離れた高い値を示していた。
考察=
概況:全国レベルの大規模当事者調査には、「精神障害者および家族に関する調査研究」((財)全家連:日本の精神障害者と家族の生活実態白書、1986.以下86年調査)と、「第二次全国精神障害者・家族福祉ニーズ調査研究・地域生活本人編」(同上:精神障害者・家族の生活と福祉ニーズ'93,?.以下92年調査)がある。今回調査の特徴は、対象者を作業所通所者に絞り、医療と生活支援に焦点を合わせてやや詳細に調査した点にある。
基礎項目:年齢、男女比は、3調査とも類似の傾向を示すが、全体の受療状況を反映し、今回調査では入院経験なしの者と(86年2.1%、92年7.2%、今回12.2%)、全入院期間1年未満の者が(86年22.0%、92年21.7%、今回調査29.6%)増加していた。
障害(10項目)の認知:日常生活の障害では、食事づくり項目(38.2%→34.6%)を除き92年調査より「できる者」が多く、仕事遂行上の障害では、逆に「できる者」が減っていた。なお、スタッフの障害の認知は、8時間働くことについて評価(29.9%→17.9%)がさらに低い(13.3%)ほかは本人の評価との間に大きなズレがない点に注目したい。
医療問題:「説明や合意」にとって重要な要素となる投薬内容を知ることについては、阪神大震災の教訓を受けてか、処方記載メモ等を持つ者が18.3%おり、薬についての学習会があれば参加したい者が41.4%を占めた。消極派も一定数(40.4%)に及ぶとはいえ、積極派(59.7%)の存在は、医療側の説明責任が増していることを示す。病名の認知も、86年の74.6%、92年の71.0%より今回調査(79.9%)がやや高い。病名を分裂病圏として認知する者も86年の45.5%、92年の46.6%より今回(58.9%)が高い(ただし、スタッフの分裂病認知度は73.9%)。関連事項では、病名を知る方がよい者が88.7%、症状等への対処法を知っておく方がよいとする者が84.2%に及ぶ点も注目される。
医療の中で最重要課題の一つである再発問題については、「場合によりわかる=を半分わかる」と仮定すると、「わかる」が65.4%、「わからない」が34.6%となる。予防策や対処策、生活に密着した要因探索が関係者間で相談・実施されてよい時代といってよいであろう。この問題では対象者の関心も高く、再発の兆しを知る方がよいと答えた者が86.5%に及んでいた。さらにそれを周囲や作業所、保健所等のスタッフに知ってもらう方がよいとする者も84.7%に達している。施策策定が当事者と共有できる可能性がある。加えて、対象者とスタッフによる予めの確認手続きを肯定した者も49.2%おり、救急医療への期待度の高さ(76.6%)と共に、問題意識が具体的次元に降りつつあることを感じさせる。
生活支援:食事について「自炊」「外食」の計が34.0%に及んだことを反映して、「夕食の場」があれば利用したいという者が61.2%に達していた。食事の問題は地域生活の維持にとって、きわめて大きな問題といってよいように思う。
社会での活動性を妨げる要因としては、金銭の逼迫に続いて、「交際相手がいない」が36.2%、「同行者がいない」という回答が36.9%あった。この数値は今後の施策を模索する上で見逃せない。また、単身・仲間うちの居住が25.1%存在するものの、親との同居が依然として63.6%に及ぶことは、長期的には問題である。ただし、親との同居者の半数が宿泊体験の場があれば利用したい(53.2%)と答えている。施策の手がかりの一つと考える。職の問題はまだまだ困難を極めている印象が強い。
結論
 日常生活では食事づくりが、仕事では8時間拘束が、対象者にとっての困難要因であることを再確認した。医療面では、薬の知識を得たい者が59.7%に達し、症状への対処法を知りたい者は84.2%に及んだ。他方、再発の兆しを学びたい者も86.5%に達した。施策の展開に当たって当事者との問題の共有化も期待できそうな結果を得た。生活支援問題の中では、地域生活の維持にとって食事問題が大きな課題であること。

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