文献情報
文献番号
199700280A
報告書区分
総括
研究課題名
脳性麻痺の運動特性---移動の運動解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
君塚 葵(心身障害児総合医療療育センタ-)
研究分担者(所属機関)
- 三輪隆(心身障害児総合医療療育センタ-)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
発達早期の脳障害による運動機能障害の生体力学的特徴を各種の運動解析装置をもちいて、客観的なデ-タ-として把握し、それに基づいて治療対応を再検討あるいは確立する。
研究方法
床反力、三次元動作解析、筋電計、Gyroからなる現在用いられている動作解析の基本方法により、脳性麻痺例の動作解析の総合的な解析をおこなう。1)反力計による膝歩きをふくめた移動での時間距離因子・三次元での力積・ベクトルなどの測定、歩行時の下肢の複数の筋活動を記録し臨床像と比較検討をおこなう。2)歩行開始時の床反力計による測定も同時におこなう。 3)表面電極を左右の中殿筋・股関節内転筋・大腿四頭筋・膝内側屈筋・前脛骨筋・下腿三頭筋などの筋腹のほぼ中央と思われる位置に張り付け、さらに銅板製のfoot switch を踵と中足骨頭部にとりつけた足底板を靴の中に敷かせて、接地時にスイッチが入るようにして、全体を送信機としてのジャンクションボックスにつないで同期させ、これをtelemeter として受信機に送り、脳波記録計にて記録した。 歩行サイクルでの遊脚期・立脚期での各金の活動をとらえ、正常例と比較した。 一部では上肢に表面電極を張り、連合運動の側面も計測した。 4)下肢の立位アライメントについての特徴と手術前後の比較も加えた。5)従来上肢使用時の下肢の連合運動を計測した筋電図での差異による検討や座圧分布の報告等があるが、三次元の動作解析により、座位保持装置の効果を大きくする条件はどのようなものかを検討した。試験方法はアニマ社製の三次元動作解析装置(Locus)にて4台のカメラを用いて、頭頂・耳朶・肩峰・肘・手首にLEDのマ-カ-を取り付けた。 透明な採型用工房椅子に楽な姿勢で座らせ、口答指示にて両上肢を肩より高く挙上させる動作を解析した。 座面角度を数通り設定し、さらにそれぞれ股パッドの有無による条件設定にて測定した。
結果と考察
最初に脳性麻痺の運動機能のまとめをおこない、同時に歩行および下肢特に足部の生体力学の知見をまとめ、脳性麻痺の運動特性の研究の基盤とした。脳性麻痺のタイプ別、年齢別さらには重度別に対象を設定選択して脳性麻痺例においてその運動特徴を多面的に把握できた。 脳性麻痺の痙直型でのいわゆるcrouching gait あるいはscissoring gaitを体幹あるいは股関節機能に絞り込んでの膝歩き歩行での特徴が床反力計より、時間距離因子において把握できた。 歩行と膝歩行の床反力・三次元動作解析での検討を行い、まず、健常群の膝歩行の特徴が明らかになった。 成人についてこれを要約すると歩調に歩行との差はないが歩幅・歩行速度はほぼ半分で、長い立脚期比率(歩行で67%、膝歩行で83%)、歩隔の増大(13cmと18cm)であり、これは左右のバランスをとるために歩隔が大きくなり、重心移動に時間がかかり立脚期比率が大きくなると考えられた。 床反力垂直成分では抜重現象が小さく、double knee lock がないことのみによるのではなく、脚長の小ささと歩幅のちいさいことによると考えられた。前後成分では力積でみると制動が1/4、駆動が1/5であり、ともに小さく制動から駆動に早期に移っている。 側方成分での力積は1.7倍で距骨下関節での回旋による柔軟さがなくなり、接地時の衝撃と離床時の効率の悪さを伴って側方動揺の大きなことを示している。 歩行と膝歩行との垂直成分の制動期と駆動期の合計は健常者では変化がない(歩行34.5、膝歩行35.3)のに対し、両麻痺型では膝歩行で9.9と16.8と1.7倍に増加し、片麻痺型では健側・患側とも0.9倍と少し減少していた。両麻痺型で大きくなっていたのは特に駆動期の力積の増大によるものであった。制動期と駆動期との力積比
は健常者では制動期・駆動期が50%づつであるのに対し、両麻痺型・片麻痺型とも駆動に比較して制動での力積が小さくなり、それが膝歩行でより明らかであった)。 片麻痺群での健側と患側との間にも同様な傾向が見られるが、その差は小さく健側にも同じ傾向がみられた。 膝歩行の前後成分のピ-ク値X2は体重比で健常者で4.6%、両麻痺型で4.4%,片麻痺型健側で4.5%、患側で4.0%とと差は見られなかった。 しかし、そのピ-ク時間TX2は有為なさが見られ、健常者では立脚期後半に出現していたのに対し、両麻痺型では早期に出現していた。 側方分力でのピ-ク値Y1は健常者でもっとも小さく、ついで両麻痺型、片麻痺型の順となっていた。 ピ-ク値出現時間TY1はいずれも立脚前半にあるが、両麻痺型でもっとも早く出現していた脳性麻痺例の歩行時筋電図では片麻痺型と両麻痺型での差違がみられ、重症例と軽症例での差さらには下肢の筋のうち異常放電しやすい筋が把握できた。 歩行開始時の運動特性を調べて、歩行の特徴の一面を脳性麻痺じにおいて検討した。開始開始時に健常成人の足圧中心軌跡が逆動と後退を示すが、5歳の子どもが成人よりも大きな逆動を示し3歳と5歳の子どもの後退がほぼ同じであり、3歳の子どもと成人の逆動がほぼ同じであること等をみると、3歳も移行期に入ることが示唆されるた。 動揺の検討を脳性麻痺時においても行い、脳性麻痺児では足圧中心軌跡の推移がスム-ズでなく遅れ、荷重量も小さいことが見られていて、早期の歩行訓練に示唆を与えるものであった。歩行時下肢の筋電図の研究は治療と結びつきやすいもので、脳性麻痺の種々の治療に当たっての選択に示唆を与えるものである点、臨床応用のしやすいものである。診察では把握できない、筋の活動状態を脳性麻痺に於いて検討し、23例について個別に検討しその特徴を把握した。 重症度・病型による大まかな傾向が見られたが、千差万別であり、パタ-ン化は困難であった。 しかし、crouch gait の程度との関連・片麻痺での特徴が成人の片麻痺と似た傾向を持つことが判明した。立位アライメントについてはsacrofemoral angle をレントゲンにて計測し、大腿骨の傾斜角度・腰椎の前弯度を測定して歩行能力あるいは歩行速度によってそれらの因子との相関のあることを知ることができた。 術後全例で改善を見ているが、屈曲姿勢が再発してきたものもあった。 SFAは術前-16゜より43゜の平均22±10゜で平均3年後では25±11゜で、統計的な有意差は見られなかった 明らかな改善が6例、悪化が5例で(、症例数の少ないこともあって手術時年齢や術前のSFAの大きさとの関連も窺われなかった。 一方、術式でみると股関節と膝関節の屈筋を解離した群では22.8±11.8゜が17.9±9.1゜と改善を示さずしかし足部を含む手術例では平均18.4±12.2゜が29.6±14゜と有意に改善していた。 これは尖足矯正により体幹の前傾が取れたためと考えられる。膝の過伸展を生じたものはなく、股関節の拘縮がとれても立位での股関節伸展の弱さが見られるものもあり、股関節伸展を得ることの難しさが改めて認識された歩行速度を計測できた12例では歩行速度とSFAとの間には少しの相関が見られた。座位保持装置はいくつもの大きな役割を持ち、その使用について十分な認識のもとに個々に応じたきめ細かな配慮・工夫をおこなうことが必要である。基本原則に沿わないものあるいは外見が優れていても適切でないことがある。 三次元動作解析で座位保持装置の有効性が客観的に評価できた。
は健常者では制動期・駆動期が50%づつであるのに対し、両麻痺型・片麻痺型とも駆動に比較して制動での力積が小さくなり、それが膝歩行でより明らかであった)。 片麻痺群での健側と患側との間にも同様な傾向が見られるが、その差は小さく健側にも同じ傾向がみられた。 膝歩行の前後成分のピ-ク値X2は体重比で健常者で4.6%、両麻痺型で4.4%,片麻痺型健側で4.5%、患側で4.0%とと差は見られなかった。 しかし、そのピ-ク時間TX2は有為なさが見られ、健常者では立脚期後半に出現していたのに対し、両麻痺型では早期に出現していた。 側方分力でのピ-ク値Y1は健常者でもっとも小さく、ついで両麻痺型、片麻痺型の順となっていた。 ピ-ク値出現時間TY1はいずれも立脚前半にあるが、両麻痺型でもっとも早く出現していた脳性麻痺例の歩行時筋電図では片麻痺型と両麻痺型での差違がみられ、重症例と軽症例での差さらには下肢の筋のうち異常放電しやすい筋が把握できた。 歩行開始時の運動特性を調べて、歩行の特徴の一面を脳性麻痺じにおいて検討した。開始開始時に健常成人の足圧中心軌跡が逆動と後退を示すが、5歳の子どもが成人よりも大きな逆動を示し3歳と5歳の子どもの後退がほぼ同じであり、3歳の子どもと成人の逆動がほぼ同じであること等をみると、3歳も移行期に入ることが示唆されるた。 動揺の検討を脳性麻痺時においても行い、脳性麻痺児では足圧中心軌跡の推移がスム-ズでなく遅れ、荷重量も小さいことが見られていて、早期の歩行訓練に示唆を与えるものであった。歩行時下肢の筋電図の研究は治療と結びつきやすいもので、脳性麻痺の種々の治療に当たっての選択に示唆を与えるものである点、臨床応用のしやすいものである。診察では把握できない、筋の活動状態を脳性麻痺に於いて検討し、23例について個別に検討しその特徴を把握した。 重症度・病型による大まかな傾向が見られたが、千差万別であり、パタ-ン化は困難であった。 しかし、crouch gait の程度との関連・片麻痺での特徴が成人の片麻痺と似た傾向を持つことが判明した。立位アライメントについてはsacrofemoral angle をレントゲンにて計測し、大腿骨の傾斜角度・腰椎の前弯度を測定して歩行能力あるいは歩行速度によってそれらの因子との相関のあることを知ることができた。 術後全例で改善を見ているが、屈曲姿勢が再発してきたものもあった。 SFAは術前-16゜より43゜の平均22±10゜で平均3年後では25±11゜で、統計的な有意差は見られなかった 明らかな改善が6例、悪化が5例で(、症例数の少ないこともあって手術時年齢や術前のSFAの大きさとの関連も窺われなかった。 一方、術式でみると股関節と膝関節の屈筋を解離した群では22.8±11.8゜が17.9±9.1゜と改善を示さずしかし足部を含む手術例では平均18.4±12.2゜が29.6±14゜と有意に改善していた。 これは尖足矯正により体幹の前傾が取れたためと考えられる。膝の過伸展を生じたものはなく、股関節の拘縮がとれても立位での股関節伸展の弱さが見られるものもあり、股関節伸展を得ることの難しさが改めて認識された歩行速度を計測できた12例では歩行速度とSFAとの間には少しの相関が見られた。座位保持装置はいくつもの大きな役割を持ち、その使用について十分な認識のもとに個々に応じたきめ細かな配慮・工夫をおこなうことが必要である。基本原則に沿わないものあるいは外見が優れていても適切でないことがある。 三次元動作解析で座位保持装置の有効性が客観的に評価できた。
結論
経験に頼りがちな従来の方法をこえて、床反力計・三次元動作解析装置・筋電計などにより、基本的な動作解析により伝達可能な知識化や情報の客観化がおこなえた。装置の精度および使いやすさにおいて不十分であったり、センサ-を体にとりつける固定方法や測定誤差の改善を高めながらその内容を充実させる工夫と試行錯誤が残されている。今後脳性麻痺の動作パタ-ンの類型化や治療との関連の下に、手術前後、訓練前後、装具の装着の有無による変化を比較することおよび運動効率の面からの運動時酸素消費の課題が残されている。
公開日・更新日
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