頸髄損傷者の排泄処理システム開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700277A
報告書区分
総括
研究課題名
頸髄損傷者の排泄処理システム開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中山 剛(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 横田恒一(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高位の頸損者は重度の肢体不自由を伴っているため、排泄の処理を介助者が紙で拭き取ることによって行っている場合がほとんどである。現在、紙を使用しない排泄処理の機器として温水洗浄便座が市販されている。これとシャワーチェアと呼ばれる排泄専用の車いすを用いれば頸損者でも自力で排泄の処理が可能となると考えられる。そこで、高位頸髄損傷者の排泄処理の自立支援及び介助者の負担軽減を目的として、頸髄損傷者が自力でも操作可能な排泄処理システムを開発することを本研究の目的とする。そのために本年度は以下の3点を目的とする。?頸髄損傷者を対象とした排泄動作に関するアンケートを行い、頸髄損傷者の排泄動作の現状把握及び本システムのニーズを調査する。?シャワーチェア、温水洗浄便座、CCDカメラ等より本システムを構築し、昨年度の課題であった軟便・下痢の際の洗浄に関する評価実験を行う。?本システムを頸髄損傷者の自宅トイレに設置して実用性を評価する。
研究方法
全国頸髄損傷者連絡会東京支部の会員108名を対象として、排泄に関する質問事項の書かれてある質問用紙と回答用紙を郵便配布、回答用紙を郵便回収にてアンケート調査を実施する。そして、回収した回答用紙を基に頸髄損傷者の排泄処理に関するニーズを分析する。次に本年度新たに選択したシャワーチェア及び温水洗浄便座、CCDカメラ、液晶モニタ、パーソナルコンピュータ、音声認識ソフトウェア、小型マイクロフォン、リモートコントローラ等から排泄処理システムを構築する。次に頸髄損傷者の臀部をかたどった人体臀部模型を利用して本システムの洗浄実験を行う。軟便・下痢を想定して臀部模型に塗布した絵の具を昨年度のシステムでは洗浄できない場合があり、課題となっていた。昨年度と同様にして、本年度のシステムによる洗浄実験を行い、課題が解決されたかどうかを検証する。その後、本システムを頸髄損傷者の自宅トイレに設置して、頸髄損傷者(C4、不全麻痺)を被験者としたフィールドテストを行い、実用性を評価する。
結果と考察
アンケート送付数108通の内、回収数53通、回収率49%であった。要介助者の内、排泄動作の自立を希望する割合は74%であった。これより、頸髄損傷者にとって排泄は負担が大きい動作の一つであると推測できる。温水洗浄便座を使用する頸髄損傷者のうち56%が「洗浄液がうまく当たらない」ことを不便に感じる点として挙げた。また、温水洗浄便座を「使用したことがない」人のうち48%が使用を希望していた。加えて、従来の押しボタン入力式のリモコンによる温水洗浄便座の操作が困難であるなどの意見もあるなど排泄処理システムに対するニーズは高いと考えられる。また、以下の各々の動作を行っている回答者に対する要介助者の割合は、移動20%、便器移乗31%、払拭44%、更衣54%、座薬・浣腸57%、摘便92%であった。つまり、移動や移乗等の大まかな動作よりも、払拭や摘便等の細かな動作の方が要介助の割合が高いことが分かる。この結果は本システムに対するニーズの高さを裏付けていると考えられる。
昨年度使用した東陶機器製シャワーチェアは座面が硬く、褥創の危険性もあり、頸髄損傷者にあまり向いていないと判断した。そこで、本研究の被験者と共にシャワーチェアの選定を行った結果、本年度は日本アビリティーズ社製シャワーチェアを使用することとした。現在市販されている温水洗浄便座には通常着座スイッチと呼ばれるセンサが備わっており、使用者が便座に座って初めて温水洗浄便座が動作するようになっている。本研究では、頸髄損傷者はシャワーチェアを使用することを想定しており、直接便座に座らない。そのため、この着座センサを解除する必要がある。昨年度は、東陶機器製の温水洗浄便座の着座センサを解除する着座センサ解除ユニットを使用していた。しかし、当ユニットは昨年度使用した東陶機器製シャワーチェアでしか使用できず、本年度採択した日本アビリティーズ社製シャワーチェアでは使用できない。そこで、本年度は新たに松下電器産業製の温水洗浄便座を選び、同社の了解を得て着座センサを解除する改造を行った。その上で、シャワーチェア、温水洗浄便座、CCDカメラ、液晶モニタ、パーソナルコンピュータ、音声認識ソフトウェア、小型マイクロフォン、リモートコントローラ等から本年度の排泄処理システムを構築した。
頸髄損傷者の臀部をかたどった模型に絵の具を軟便・下痢の場合を想定して塗布し、本システムによる洗浄実験を5回行った結果、いずれの場合も完全に洗浄可能であった。軟便・下痢を想定した場合、昨年度のシステムでは洗浄できなかった。しかし、本年度のシステムでは洗浄可能となっており、適用範囲がより広まったと言える。実際に頸髄損傷者の使用を想定しても、殆どの場合問題なく洗浄可能であると考えられる。
本システムを頸髄損傷者の自宅トイレに設置してフィールドテストを行った結果、頸髄損傷者が自力で殆ど問題なく本システムを操作できた。ごく稀に本システムの入力方式である音声の誤認識が生じた。しかし、その場合再度音声による入力を行うことで、その誤認識を打ち消すことができるため、特に問題とはならなかった。以上、本システムの操作などの使用上における実用性を確認した。
排便に長時間を要する頸髄損傷者は多く、中には3時間を超す頸髄損傷者もいる。本システムの場合パーソナルコンピュータは居間に設置している。そのため、本システムの専用機ではなく、普段使用しているパーソナルコンピュータで代用が可能である。また、頸髄損傷者の中にはその時間を有効に活用するため、テレビをトイレに持ち込んでいる方もいる。本システムではモニタをテレビとしても使用できるところから、頸髄損傷者の排泄に要する長い時間を有効に活用する際に役に立つと考えられる。加えて、本研究では頸髄損傷者のための特殊機器を用いておらず、できる限り市販製品を利用している。すなわち、頸髄損傷者の家族は本システムを通常の温水洗浄便座として使用でき、いわゆる共用品として使用できる。このことからも本システムの実用性は高いと考えられる。
結論
高位の頸髄損傷者の自立支援及び介助者の負担軽減を目的として、頸損者が自力でも操作可能な排泄処理システムの開発に関する研究を行った。はじめに頸損者の排泄処理に関する現状把握を目的としたアンケート調査を行い、排泄処理システムのニーズを確認した。頸髄損傷者の臀部をかたどった模型を用いて洗浄実験を行った結果、昨年度の課題であった軟便・下痢を想定した場合でも本年度のシステムでは洗浄可能であることを確認した。その後、市販の温水洗浄便座、シャワーチェア、CCDカメラ、液晶モニタ、音声認識装置、パーソナルコンピュータなどにより排泄処理システムを構築し、頸損者の自宅トイレに設置し、フィールドテストを行った。その結果、頸損者が自力で特に問題なく使用できるなど本システムの実用性が確認できた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)