化学物質による子どもへの健康影響に関する研究―恒常性維持機構発達の過渡特性に立脚したリスク評価研究―

文献情報

文献番号
200638006A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による子どもへの健康影響に関する研究―恒常性維持機構発達の過渡特性に立脚したリスク評価研究―
課題番号
H17-化学-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
江馬 眞(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 欽一(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・動物代謝調節学講座・分子神経分化制御学分野)
  • 種村 健太郎(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
  • 竹田 潔(九州大学・生体防御医学研究所・発生工学分野)
  • 渡邉 肇(自然科学研究機構・基礎生物学研究所・岡崎統合バイオサイエンスセンター・生命環境)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
  • 田上 昭人(国立生育医療研究センター・薬剤治療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
56,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「子どもは小さな大人ではない」との考えのもと、離乳や性成熟などの外的・内的な大変動を経て成人に至る過程で子どもが経験する高次恒常性維持機構の過渡的アンバランスの特性を踏まえた化学物質の有害作用発現の子どもとしての特異性を解明する。
研究方法
「恒常性維持機構発達解析」として神経・免疫・内分泌系の発生成長の解析、「外挿問題解析」として大人の評価を子どもへ、及び実験動物の評価をヒトへ外挿する研究を実施する。
結果と考察
「恒常性維持機構発達解析」:(1)紫外線吸収剤HDBBの成獣投与(ラット)では毒性に性差が生じるが、新生児期投与では生じないこと、(2)グルタミン酸受容体刺激物質のドーモイ酸は成体に記憶障害を誘発するが、妊娠期暴露ではさらに情動行動の変化及び情報処理能力の低下を誘発すること。その際、大脳皮質神経細胞の軸索発達障害が認められること、を明らかにした。(3)A)神経幹細胞分化の検討によりレチノイン酸のES細胞早期アストロサイト分化誘導時の特異的遺伝子の脱メチル化、B)その過程へのヒストンメチル化酵素の関与、C)脊髄損傷モデルでのバルプロ酸の移植神経幹細胞由来ニューロンの突起伸長促進作用、を見出した。4)自然免疫系が成長に応じて発達するか否かを検討するため2週齢と8週齢のマウス腹腔マクロファージを解析した。その結果、サイトカイン産生に差はないがアポトーシス細胞や大腸菌の貪食能は2週齢で有意に低かった。5)新生児期エストロゲン暴露による雌性生殖器の不可逆的影響誘発に関与する遺伝子群の候補を抽出した。「外挿問題解析」:1)ドーモイ酸の子ども期暴露による脳での影響を網羅的に解析した結果、Junb, Fos, Arc等のグルタミン酸受容体下流遺伝子の発現が子ども期投与により成体期に上昇していることが明らかになった。バルプロ酸の細胞毒性、神経分化への影響をマウスES細胞、及び神経芽腫由来細胞を用いて解析し、前者では内胚葉系、中胚葉系分化抑制、外胚葉系分化促進が、後者ではGadd45a遺伝子を介した神経分化促進が確認された。
結論
以上、子どもの発達に伴う反応性の詳細が神経・内分泌・免疫系のいくつかの新しい項目について明らかにされた。特に、本年度のトピックは、自然免疫系が成長に応じて発達することが示された点にある。今後もさらに基礎研究を進め、子どもの健康影響評価の基盤となる知見を集積する。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
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