高次神経機能障害者・児の日常生活におけるハンディキャップの調査と社会福祉のあり方についての研究

文献情報

文献番号
199700275A
報告書区分
総括
研究課題名
高次神経機能障害者・児の日常生活におけるハンディキャップの調査と社会福祉のあり方についての研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
宇野 彰(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加我牧子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 加我君孝(東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 障害者等保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳血管障害による死亡者はガンや心臓病に比べて年々減少していってはいるが、後遺症を有する障害者は決して少なくない。大脳優位半球の損傷によって生じる失語症者は約30万人いるといわれ(日本失語症学会調査)、劣位半球損傷例もほぼ同数と考えられている。また、学習障害児は小学生児童の約4%(神奈川県学習障害教育研究協会調査)という報告である。この様な局在性の大脳損傷による失語症、聴覚失認、視覚失認、半側無視および記憶障害や局在性の大脳機能障害と考えられる学習障害を有する障害者・児が取得できる身体障害福祉法における等級は、唯一取得可能な失語症でも3、4級にとどまるばかりではなく、他の障害では身体障害福祉法が適用されない。そのため上述の高次神経機能障害者・児は、身体障害者や視力障害者、聴力障害者に比べて福祉の恩恵に浴しにくい現状にある。本研究では(1)知的には正常である高次神経機能障害者・児を対象として、日常生活におけるハンディキャップの実態を調査し、(2)身体障害者福祉法において妥当に評価されているか否かを検討し、福祉のあり方について考察することを目的とした。
研究方法
本研究では予備的に、高次神経機能障害児者の診療にたずさわっている代表的施設18カ所に、局在性大脳機能損傷成人例の調査を依頼した。調査対象は、聴覚失認や失語症などのコミュニケーション障害群と、視覚失認、半側無視、記憶障害などの結果生じる行動障害群および学童である学習障害群の3群に分けた。コミュニケーション障害群の対照群として聴力障害群、行動障害群の対照群として運動(麻痺)障害群と視力障害群にも調査を行なった。症例は全例、他の障害によって身体障害者福祉法が適用されず、かつ知的低下を認めない例を選択した。調査内容は、コミュニケーション障害群では、実用コミュニケーション能力検査(Communicative Abilities in Daily Living:CADL)と最近1年間のニュースに関する知識問題を用いた。行動障害群では、日常生活行動評価(1982)と加齢者用聴こえのハンディキャップ質問紙(1991)を障害のタイプ別に用語を変更したハンディキャップ質問紙を用い、実際の行動評価と心理的問題について検討した。学習障害児については「全国LD親の会」会長の御協力を得て、47の各地「LD親の会」会長に現状のハンディキャップと期待する福祉の援助について記述式のアンケートにて情報を収集した。
結果と考察
合計201例分のアンケートの回答を得た。83例の失語症、18例の聴覚失認、11例の半側無視、10例の視覚失認、43例の記憶障害に加えて36人の学習障害児の親御さんからの協力が得られた。また、対照群としての聴力障害9例、視力障害10例からアンケートの回答を得た。
その結果、失語症や聴覚失認例などのコミュニケーション障害群では、聴力障害群に比べCADL得点が有意に低下していた。また、最近1年間のニュースの知識において学歴が両群等しくなるように設定しても障害群の方が正答率が有意に低下していた。視覚失認、半側無視、記憶障害などの行動障害群では、視力障害群や運動障害群に比べて得点が有意に低下し、ハンディキャップを強く感じれば高い得点であらわされるハンディキャップ質問紙においては有意に高い得点を示した。
学習障害児の親による回答では、ほぼ全例が学校教育の中で学習だけでなく他の側面においてもハンディキャップを感じており、児童が就職する場合の社会的不利を心配していた。また、ほぼ全員が何らかの福祉法の適用を望んでいた。
本調査から、学習障害も含めた高次神経機能障害を有する障害児・者の多くは日常生活でのハンディキャップに関して不利な状態にあるだけでなく、心理的にも社会的不利を感じていると思われた。少なくとも、身体障害者や視力障害者、聴力障害者と同様かそれ以上の社会的不利に対応した社会的福祉のあり方が望まれるのではないかと思われる。
どのような援助が高次神経機能障害者・児に求められているのかについては今回の調査だけでは不十分であった。引き続き今後の検討が必要と思われる。
結論
知的能力は正常でありながら局在性の大脳病変を有する高次大脳機能障害例のうち、聴覚失認例、視覚失認例、半側無視例、記憶障害例らは、現行の身体障害福祉法では身体障害福祉手帳を持つことができない。しかし、日常生活上のハンディキャップや心理的問題は身体障害者福祉手帳1級から2級に相当すると思われた。また、すでに身体障害福祉法が適用されている失語症例については、現行ではもっとも重篤な症例でも3級にとどまっている。日常生活上でのコミュニケーションの実用性と社会的情報の入手という点では1級や2級に相当する障害例がたくさん存在した。局在性の大脳機能障害を有する学習障害児のほとんどの親は、就職の心配をしており何らかの社会福祉の援助を希望していた。
高次神経機能障害者への身体障害福祉法の適用、失語症に関しては障害程度等級の見直しが必要であり、1級から2級がふさわしいと思われる。学習障害児に関しても、現行の身体障害福祉法の適用、もしくは何らかの新たな社会福祉的援助が必要であると思われた。

公開日・更新日

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