輸血用血液及び細胞療法の安全性に関する研究

文献情報

文献番号
200637077A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血用血液及び細胞療法の安全性に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H18-医薬-一般-032
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
藤井 康彦(山口大学 医学部附属病院輸血部)
研究分担者(所属機関)
  • 浅井 隆善(静岡赤十字血液センター)
  • 佐竹正博(東京都赤十字血液センター)
  • 塩原信太郎(金沢大学医学部附属病院輸血部)
  • 甲斐俊朗(兵庫医科大学附属病院輸血部)
  • 前川 平(京都大学医学部附属病院輸血部)
  • 浜口 功(国立感染症研究所血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
英国では重篤な輸血副作用の監視機構 (Serious Hazards of Transfusion, SHOT)を中心として、輸血製剤に特化した体制が構築されている。一方、米国では造血幹細胞移植、再生医療までも包含する安全監視機構(バイオビジランス)の構築が模索されている。本研究は、我が国でのヘモビジランス、バイオビジランスの基礎的な検討を行うことを目的とした。
研究方法
本研究班の輸血用血液の安全性に関する研究チームが、ヘモビジランスの基礎的な検討を行い、細胞療法の安全性に関する研究チームが、バイオビジランスの基礎的な検討を行った。ヘモビジランスの基礎的な検討では、輸血・細胞治療学会、輸血関連厚生労働省研究班、全国大学病院輸血部会議副作用ワーキングと連携し、調査研究を実施した。また特定機能病院を中心とした50施設による共同調査は、日本赤十字血液センターとの連携のもと実施した。バイオビジランスの基礎的な検討では、輸血・細胞治療学会の細胞治療委員会、造血幹細胞移植学会と共同で研究を行った。
結果と考察
ヘモビジランスの構築については、SHOT研究をモデルとし、総合的な検討を行った。ABO式血液型不適合輸血調査の全国調査を実施し、5年前に実施された同様の調査と比較して、今回の調査では報告件数そのものは減少したにも関わらず、死亡例の減少が見られないことを明らかにした。調査結果により予防対策を提案した。急性輸血副作用に関する多施設共同研究を実施し、2例の輸血細菌感染症確定例等の副作用を同定した。多くの回収されたバッグは空であり、原因製剤回収の限界が明らかとなり、改善提案を行った。さらに、調査結果に基づき副作用原因検索の標準化案を作成した。
バイオビジランスを実現するための基礎的検討として、同種細胞治療のドナーの安全管理のための定点観察、造血幹細胞の安価で、正確な細胞療法に用いる細胞の新しいウイルス検出システムの開発、細胞プロセッシングの安全管理のための指針作成、同種細胞療法の安全性と効果に関する調査研究を行なった。研究結果よりこれらは、当研究班の枠組みを大きく超えた組織での検討が必要な事項であることが明らかとなり、バイオビジランスの概念の必要性を大きく浮かび上がらせた。 
結論
我が国での、ヘモビジランス、バイオビジランスの構築が、輸血医療の安全性の向上に止まらず、広く医療全体の安全性の向上に不可欠であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2009-04-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200637077C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ABO型不適合輸血調査の全国調査を実施し、5年前に実施された同様の調査と比較して、今回の調査では報告件数は減少したにも関わらず、死亡例の減少が見られないことを明らかにした。結果を輸血細胞治療学会のホームページに掲載した。急性輸血副作用に関する多施設共同研究を実施し、2例の輸血細菌感染症確定例等の副作用を同定した。造血幹細胞の安価で、正確な新しいウイルス検出システムの開発を行なった。同種細胞移植では、HLA抗原以外のマイナー抗原はGVLに関与し長期生存に有利であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
ABO型不適合輸血の予防対策として、緊急時O型赤球製剤の使用の普及、患者・血液製剤の照合時のIT技術の利用促進、輸血当直を担当検査技師の教育の強化を重点課題として提唱した。副作用の原因製剤回収の限界が明らかとなり輸血細菌感染症、輸血関連急性肺障害(TRALI)の原因究明のために「セグメントのシール方法の変更」、「血液センターでの白血球抗体検査用血清保管」等の提案を行った。細胞治療のドナー安全に関しては、「顆粒球ドナー」の安全監視が脱落していたことを指摘した。
ガイドライン等の開発
急性輸血副作用に関する多施設共同研究の調査結果に基づき、輸血副作用の原因検索の標準化のために、副作用調査体制の整備、原因製剤回収の具体的手順、急性輸血副作用対応手順書、英国Serious Hazards of Transfusion (SHOT)に準拠した輸血副作用の原因検索リストを作成した。これらは、我が国において、ヘモビジランス体制を確立する上で、極めて重要である。また、造血細胞移植学会のガイドライン委員会と共同で細胞分離・処理・凍結保存のガイドラインの作成を行った
その他行政的観点からの成果
研究結果に基づき「輸血療法の実施に関する指針(改定版)」、「血液製剤の使用指針(改定版)」の再改定について必要な事項の報告を行った(2006/12)。ヘモビジランスに関して、日本版SHOT機構の必要性及び、病院内の輸血副作用調査体制を充実することの必要性を明らかにし、基盤となるデータを提供した。米国で提唱された造血幹細胞移植、再生医療までも包含する安全監視機構(バイオビジランス)の概念を初めて導入し、その必要性を明らかにした。
その他のインパクト
じほう社、Japan Medicine 2007/2/7:No.1080号に、当研究班が解析を担当した「ABO型不適合輸血調査結果」の取材が掲載された。メディカルトリビューン社、Medical Tribune 2006/7/13:Vol.39, No.28号に当研究班が作成した「輸血副作用の原因検索リスト」が掲載された。全国大学病院輸血部会議メーリングリストにより、研究成果を全国に配信した(2007/3)。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
下平滋隆、藤井康彦、枡屋正浩、他
全国国立大学附属病院における輸血副作用調査体制‐輸血副作用の原因製剤回収・保管についての調査報告
日本輸血細胞治療学会誌 , 52 (6) , 711-716  (2006)
原著論文2
藤井康彦、下平滋隆、面川進、他
全国国立大学附属病院輸血部会議副作用ワーキング報告-呼吸不全を認めた輸血副作用症例の解析-輸血関連急性肺障害(TRALI)について
日本輸血細胞治療学会誌 , 53 (1) , 26-32  (2007)
原著論文3
Katagiri T, Shiobara S, Nakao S, et al.
Mismatch of minor histocompatibility antigen contributes to a graft-versus-leukemia effect rather than to acute GVHD, resulting in long-term survival after HLA-identical stem cell transplantation in Japan
Bone Marrow Transplant , 38 (10) , 681-686  (2006)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-