幹細胞を利用した分化誘導培養による人工血液の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200637024A
報告書区分
総括
研究課題名
幹細胞を利用した分化誘導培養による人工血液の開発に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H16-医薬-一般-032
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 滋(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 隆浩(東京大学 医学部附属病院)
  • 熊野 恵城(東京大学 医学部附属病院)
  • 原口 京子(東京大学 医学部附属病院)
  • 増田 茂夫(東京大学 医学部附属病院)
  • 高橋 孝喜(東京大学 医学部附属病院)
  • 高梨 美乃子(東京都赤十字血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
29,999,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト体性造血幹細胞および胚性幹(ES)細胞からの体外血球産生法を開発する。本年度は、ヒト臍帯血由来造血幹細胞の体外増幅効率を上げること、ヒトES細胞からの好中球産生と機能解析、抗血栓性材料の開発、研究者への臍帯血供給システムの研究を目的とする。
研究方法
1)Delta1-Fcをコーティングしたハイドロキシアパタイト(D1-HA)ビーズ存在下でヒト臍帯血由来CD133陽性細胞を培養し、コロニー形成細胞数を評価した。
2)ヒトES細胞株KhES-3から分化させた胚様体(EB)形成細胞を各種サイトカインとOP-9ストローマ細胞の存在下で培養して好中球を産生し、機能を評価した。
3)フッ化ダイアモンドライクカーボン(F-DLC)でポリカーボネイト基盤上に膜を作製して基盤として用い、白血球と血漿蛋白質の付着との関連を解析した。
4)研究用譲渡を希望し予め承認された研究者に対して、臍帯血が研究用と判断した時点で連絡し供給した。
結果と考察
1)D1-HAビーズによりヒト臍帯血CD133陽性細胞由来混合コロニー形成細胞(CFU-mix)の割合は増加したが、絶対数は不変だった。現状では培養皿へのDelta1-Fcコーティング法が最良である。
2)ヒトES細胞由来好中球の絶対数はEB形成細胞培養開始から11-14日目にピーク(比率70%以上)となった。貪食・殺菌能、遊走能とも、正常人末梢血由来好中球とほぼ同等だった。ヒトES細胞由来好中球機能解析は過去報告がない。より大量の好中球を得る方法を確立し動物実験を行うことが望まれる。
3)F-DLC膜によりポリカーボネイト基盤への好中球付着が阻害された。機序の一つはフィブリノーゲン吸着抑制作用だった。体内外の血液接触性機器の表面コーティングとして有望と考えられる。
4)受入臍帯血単位中約30%が研究用に譲渡された。妊産婦の意思尊重や産科スタッフのモチベーションの為にも、保存基準に満たない臍帯血の有効活用を図るべきである。
結論
1)ヒト臍帯血CD133陽性細胞中の造血幹細胞体外増幅には、Delta1-Fcを培養皿にコーティングする方法が最良である。
2)ヒトES細胞から高純度の好中球を産生した。健常人末梢血好中球と比べ全く遜色ない機能を有することが確認された。
3) F-DLC膜は、血小板だけでなく好中球の基盤への接着も抑制し、医療材料としての有用性が示された。
4) 臍帯血バンクの受入臍帯血の中で、全受入数の30%を研究者に譲渡した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200637024B
報告書区分
総合
研究課題名
幹細胞を利用した分化誘導培養による人工血液の開発に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H16-医薬-一般-032
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 滋(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 誠司(東京大学 医学部附属病院)
  • 黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
  • 神田 善伸(東京大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 隆浩(東京大学 医学部附属病院)
  • 熊野 恵城(東京大学 医学部附属病院)
  • 増田 茂夫(東京大学 医学部附属病院)
  • 原口 京子(東京大学 医学部附属病院)
  • 高橋 孝喜(東京大学 医学部附属病院)
  • 湯尾 明(国立国際医療センター)
  • 十字 猛夫(日本赤十字社血液研究所)
  • 高梨 美乃子(東京都赤十字血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の輸血医療は、量的質的な供給の不安定性、感染の危険性など克服の容易ならざる問題を残している。本研究ではヒト臍帯血や骨髄に存在する体性造血幹細胞、およびヒト胚性幹(ES)細胞の自己複製能と多分化能を利用して、体外で血球細胞の分化・増殖による人工血液産生法の開発を行い、供血者に依存する輸血医療を再構築することを目指す。
研究方法
ヒト臍帯血からの造血幹細胞分離法として、CD34陽性細胞分離法とCD133陽性細胞分離法とを直接比較した。ヒト臍帯血CD133陽性細胞を可溶型NotchリガンドであるDelta1-Fc存在下無血清・無フィーダー条件で各種サイトカイン存在下で培養し、CFU-mixおよびSCID-repopulating cell (SRC)の増幅効率を限界希釈法で評価した。ヒトES細胞から胚様体(EB)形成を経、EB形成細胞をOP-9ストローマ細胞上で培養して好中球産生効率を検討し、得られた好中球の機能を評価した。抗血栓性の高い生体医療用材料の開発をめざし、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)およびフッ素添加DLC(F-DLC)膜による基盤への血小板、好中球の付着抑制を検討した。移植のための細胞数基準に至らない場合、臍帯血の研究用利用支援システムの運営について検討した。
結果と考察
CD133陽性細胞選択法を用いることで、CD34陽性細胞選択法に比べ約5倍数のSRC収集が可能であった。ヒト臍帯血CD133陽性細胞を培養する際、Delta1-Fcを培養皿にコーティングし無血清・無フィーダーで化学組成の明らかな培養液を用いることにより、SRCを約6倍に増幅することに成功した。この方法を取り入れ臍帯血移植の臨床試験に進むべきである。ヒトES細胞から、過去に報告のないレベルの高純度で好中球を得ることに成功した。ヒトES細胞から得られた好中球は、末梢血から分離した好中球と比べ遜色ない機能を示した。F-DLC膜により素材への血小板および白血球の接着が抑制された。新たな医療材料開発につながる成果である。臍帯血バンクにおいて、全体の約30%の臍帯血ユニットが研究用に譲渡され有効活用された。
結論
臨床応用可能な方法によるヒト臍帯血由来造血幹細胞の体外増幅に成功した。また、ヒトES細胞から高純度で正常機能好中球の産生をはじめて示した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200637024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト臍帯血CD133陽性細胞を、可溶型NotchリガンドであるDelta1-Fcを用いて無血清・無フィーダー条件で培養することにより、免疫不全マウスで長期造血可能な造血幹細胞を約6倍に増幅することができた。臨床応用可能な方法による造血幹細胞増幅の成果としては最高レベルである。一方、ヒト胚性幹(ES)細胞を培養し、過去の報告に比べ高純度で好中球に分化させ、機能解析までを行い、正常人末梢血好中球と比べほぼ同等の機能を有することを示した。
臨床的観点からの成果
1ユニット臍帯血中の造血幹細胞数が少ないことが、臍帯血移植の限界の一つを規定している。本研究では、臍帯血中の造血幹細胞を増幅する技術の開発に成功した。この技術の臨床応用により、普及が進む臍帯血移植の適応を一相広げたり、安全性を向上させたりすることが期待される。一方、ヒト胚性幹(ES)細胞から高純度で機能的な好中球を産生させることに成功した。将来期待される好中球輸血などの臨床応用に向けた重要なステップが築かれたといえる。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発には寄与していない。
その他行政的観点からの成果
審議会等で参考にされたり、行政施策に反映されたりするなどの成果にはつながっていない。
その他のインパクト
日本語の科学解説雑誌からヒトES細胞に関するインタビューを受け、インタビュー記事が当該雑誌に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Crcarevaa A, Saito T, Kunisato A, et al.
Hematopoietic stem cells expanded by fibroblast hematopoietic stem cell fate
Experimental Hematology , 33 (12) , 1459-1469  (2005)
原著論文2
Suzuki T, Yokoyama Y, Kumano K, et al.
Highly efficient ex vivo expansion of human peripheral blood is a practical indicator for mobilization of CD34+ cells
Stem Cells , 24 (11) , 2456-2465  (2006)
原著論文3
Nakagawa M, Ichikawa M, Kumano K, et al.
AML1/Runx1 rescues Notch1-null mutation-induced deficiency of para-aortic splanchnopleural hematopoiesis
Blood , 108 (10) , 3329-3334  (2006)
原著論文4
Chiba S
Notch signaling in stem cell systems
Stem Cells , 24 (11) , 2437-2447  (2006)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-