社会生活の時間・空間的分析とその技法の開発

文献情報

文献番号
199700268A
報告書区分
総括
研究課題名
社会生活の時間・空間的分析とその技法の開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
馬場 康維(統計数理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋隆裕(統計数理研究所)
  • 岩永琢磨(一橋大学経済研究所)
  • 大瀧慈(広島大学原爆放射能医学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
調査結果の単純な集計結果の提供に加え、より質の高い高度の統計情報の提供は高度情報化時代の社会的な要請である。本研究は厚生省によって実施されている国民生活基礎調査を主たる分析の対象として社会生活の時間・空間的な分析を行い、併せてその技法を開発することを目的として計画したものである。
高度な分析を行うにあたり、データの持つ質と量および精度が問題となる。分析の対象としている国民生活基礎調査は、保健、医療、年金、福祉、所得等、国民生活の基礎的事項を調査するもので、約25万世帯を調査客体としており量的には十分なものである。この調査が時間・空間的な分析に必要な精度を確保するための標本設計、推定方式についても検討課題の一つに加えた。
研究の目標は下記に大別される。
1)健康指標の構成法の研究
2)国民生活基礎調査の推計方法の検討
3)統計情報の地図による視覚化の研究
研究方法
上記の3項目について下記の方法を用いた。
1)健康指標の構成法の研究
・国民生活基礎調査の世帯票、健康票、所得票、貯蓄票を用いた。
・上記調査にある44項目の自覚症状に対して数量化法を適用して1次元尺度を構成した。用いたデータは個票から無作為抽出した約2,000票である。
・関連するプログラムの開発と整備をした。
2)国民生活基礎調査の推計方法の検討
・国民生活基礎調査の世帯票、健康票を用いた。
・都道府県・指定都市別の人口をベンチマークとし、世帯員数を補助変量とした現行の比推定方式(方式Aと呼ぶ)で地域別世帯業態別世帯数の推計値を求めた。
・標本の抽出率を復元倍率として用いる方式(方式Bと呼ぶ)によるシミュレーションを行い地域別世帯業態別世帯数の推計値を求めた。
・方式Aと方式Bとを比較した。
・未回収率を考慮した補正法を検討した。
3)統計情報の地図による視覚化の研究
・地理情報を含む統計情報の視覚化のコンピュータソフトウエアの整備を行った。
・ソフトウエアの応用として1975年、1995年の日本全国の男女別市区町村別高齢者人口割合について地図上で比較した。
結果と考察
上記の3項目について下記の結果を得た。
1)健康指標の構成法の研究
数量化法の適用により44項目の健康関連質問が不定愁訴と何らかの病気に関連する項目に分類できることが判明した。この結果は、不定愁訴を表す1次元尺度と病気関連の尺度が構成できることを示しており、そこから個人に関する健康関連指標が作成できることを暗示している。この指標と所得、貯蓄高、世帯類型、年齢等、個人属性との関連を探り新しい指標を開発することが次の課題である。
2)国民生活基礎調査の推計方法の検討
従来の比推定(方式A)と抽出率の逆数を用いる方法(方式B)の比較の結果、現行の比推定による方式は標準誤差を小さくする効果はないことが分かった。また、2つの推計値の大きさの比較から、未回収の影響があることを想定しそれを補正する方式を考案した。しかし、個票データには調査区別の回収率の情報が存在していないので、この方式による再集計はできなかった。今後の検討課題である。
3)統計情報の地図による視覚化の研究
ソフトウエアの応用例として1975年、1995年の日本全国の男女別市区町村別高齢者人口割合について地図上で比較した。その結果、1995年の方が1975年に比べて人口の高齢化が全国的に起きていること、その傾向が特に西日本の山間部で著しいことが視覚的に認識できた。
このソフトウエアは、Windows95/NT上で動作し、会話型、バッチ型のいずれでも動作可能であり、1)項の研究で開発された指標の地域的な分布等を視覚的に表現することに威力を発揮するものである。今後、他の統計情報と健康関連指標との視覚化、関連づけのために利用することを考えている。
結論
この研究では、3つの柱をたてた。これらの関連は下記の通りである。1)の研究による健康指標の開発の結果を3)の研究による地図を用いて視覚的に表現し、地域的な分析を行う。そのためには精度の高い情報の獲得が必要であり、2)の研究による標本設計、推計方式の検討が必要となる。
これらの個別研究の結果、下記の結論を得た。
1)国民生活基礎調査の健康票から、数量化法により健康に関する尺度構成ができる。したがって、個票を再集計することによって各種属性を含んだ健康指標の構成が可能である。
2)地理情報と健康指標のリンクにより、健康指標の大域的な分布の視覚化が可能になる。
3)国民生活基礎調査については、未回収を考慮した補正法の検討も必要である。
上記の結論は、単年度の分析から得た結論であり、時間的な要素も考慮した研究は今後の重要な課題である。

公開日・更新日

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