保健医療福祉に関する地域指標の総合的開発と応用に関する研究

文献情報

文献番号
199700267A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療福祉に関する地域指標の総合的開発と応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮尾克(名古屋大学)
  • 近藤正英(ロンドン大学)
  • 橋本修二(東京大学大学院医学系研究科)
  • 林正幸(国立公衆衛生院保健統計人口学部)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健医療福祉などに関わる対策には、都道府県、二次医療圏、市町村などの地域単位に立案・実施・実施されるものも多く、地域への情報提供は統計情報の総合的利用という観点からきわめて重要な課題といえる。地域への情報提供としては、生データから高度に加工した指標(地域指標)という形態まであるが、特に、地域指標は対策立案に直結するばかりでなく、現対策の見直しや新対策の促進にもつながるものである。本研究の目的は、地域指標候補の総覧、地域ニードの把握、地域指標の精度の吟味、新指標の考案、指標の総合化などを通して、地域指標を総合的に開発することにある。同時に、地域指標を地域差に応用して、その評価基準の作成を試みる。医療システムの経営パフォーマンスに今日は関心が高まっている。
研究方法
1.地域比較指標
分析のレベルは主として都道府県とした。早死の指標としては都道府県の全死亡数、65歳未満死亡率、年齢調整死亡率、標準化死亡比、0歳平均余命、40歳平均余命、PYLL、YLLを選び、その相関やそれによる都道府県別順位を分析した。死亡数は人口動態統計の1980、1990年の都道府県別死亡数を抽出した。死因としては全死因、癌、循環器病疾患を選んだ。生活の質の指標としては、都道府県別の老齢人口に占める寝たきり者率、寝たきり者に占める在宅者数の割合を指標とした。公平性の指標としてはPYLLや年齢調整死亡率の都道府県単位のロレンツ曲線を作成し、Gini係数の1980年から1990年への変化をみた。
2.地域総合指標
地域指標の開発の流れとして、地域指標の概念規定、地域区分の選定、指標構造の決定を行い、検討の枠組みを設定した。統計調査の総覧と主な指標の一覧を通して、地域指標候補の選定を行い、検討対象を設定した。指標の検討としては、基本的・統計的・実際的の3側面から行った。特に実際的側面では、都道府県・政令市と保健所を対象にする指標ニーズ調査を行った (回収率92%)。最後に、新たな指標の開発と指標の総合化を経て、地域指標の提案を行った。
結果と考察
1.地域比較指標
1)早死指標:年齢調整死亡率や標準化死亡比は他の指標とも比較的相関がよかったが、PYLLと死亡数との相関は悪く、かつ年齢調整死亡率との相関もわずかであった。事実、年齢調整死亡率による都道府県別順位ではPYLLによる順位とは全く異なっていた。
2)寝たきり者率:寝たきり発生率と在宅者率とは負の相関を示し、寝たきりの低い県は在宅者率が高く、寝たきり者率の高い県は低かった。
3)医療費:PYLLと医療費の相関は大きく分散しており、高知の場合は若人の医療費が高めでPYLLも大変高く、逆に京都の場合は医療費、PYLL共に低くなっている。
4)公平性の分析:Gini係数を用いた分析では、全疾患で1980年から1990年に向け、男女ともわずかに増加しており、都道府県別のばらつきが増加していることがわかる。
5)医療資源:医師数、病床数共に西高東低の傾向を示し病床は北海道は例外ではあった。
2.地域総合指標
1)検討の枠組みと対象の設定:地域指標とは、地域に対して統計情報を提供するものと概念規定し、地域の保健医療福祉に関わる対策立案の直接的支援、現対策の見直しや新対策の促進を図ることにねらいがある。地域区分は塗装府県、保健所と市町村を基本と定めた。また地域指標の構造としては、保健医療福祉分野を細分した分野(母子保健、健康増進、成人保健、老人保健、老人福祉、その他)毎に、少数個の指標とその総合指標からなるものとした。個々の指標には高低評価を付けるものとし、それは地域特性を表現するものとし、地域指標の候補として、情報の存在と専門家の判断に基づいて、6分野、都道府県・保健所・市町村毎に、水準を表す指標と対策実施状況を表す指標を定めた。
2)指標の基本的・統計的・実際的側面:基本的側面として、指標一般の性質、指標の型とその性格、指標系と総合指標の留意点を明確にした。統計的側面として、指標の精度と地域間差を示すと共に、判定基準を設定した。実際的側面として、地域の指標のニーズ調査結果に基づいて、個々の指標について、地域の判断による重要性を把握した。
3)指標の開発、総合化と提案:新たな指標として、都道府県内の市町村間差と要介護者割合を提示した。地域指標候補について、これまでの検討成績を総括し、5視点(情報の存在、専門家の判断、指標の精度、地域間差、地域の重要性の判断)の判定を行い、地域指標を構成する指標を選定した。総合指標として、3候補を取り上げ、個々の指標との相関が比較的一様な重み付き平均を選んだ。重み付き平均としては、分野を構成する指標について、指標の標準偏差の逆数を重みとする平均とした。地域指標の表示方法を検討した上で、地域指標を具体的に提案した。分野別指標数は母子保健6、健康増進6、成人保健7、老人保健7、老人福祉8、その他6であった。この地域指標を都道府県、保健所、市町村のそれぞれ1地域に適用し、保健医療福祉分野におけるその地域の指標値の特徴を示した。
考察=1.地域比較指標:早死の指標は様々なものが考えられ、年齢調整死亡率、標準化死亡比とPYLLは異なった情報をもたらしてくれる。従って、目的に応じて指標を選ぶべきであるが、早死を減らすという時代の要請からはPYLLが有用と考えられる。障害率と在宅者寝たきり率は負の相関を示し、これは各県の努力を意味するのか、一般に在宅の受け入れ能力に限界を示しているのか解釈の分かれるところであろう。医療費の分析では様々な結果が現れており、各県、あるいは各2次医療圏、市町村毎の努力の可能性を示唆している。公平性の指標については今後さらに検討する必要があろうかと思われる。資源の偏りについてはGISによる地図情報の展開が極めて有用と考えられた。これらの指標を公開し展開するには、一般的な数字以外にGISやレーダーチャート等がわかりやすいと思われる。
2.地域総合指標:多くの統計調査に基づいて多岐に渡る検討を行った上で、地域指標を提案した。しかし、地域指標の検討を解したところであり、容易に最終結論を導くことはできない。提案した地域指標の算定方法・評価方法は1つの案であり、確固としたものとはいえない。検討課題としては、国民栄養調査などの指標の追加、指標の年次的安定性、地域指標を構成する個々の指標間の関連性、地域を対象とする地域指標の妥当性調査などが残されている。今後、これらの課題の検討により、地域指標の算定方法・評価方法の標準化が達成され、地域への情報提供方法の1つとして確立されることを期待したい。
結論
1.地域比較指標:年齢調整死亡率と従来の指標を比較して、新たな指標に基づく分析では、以前の指標の評価とは異なって受け取ることができる。また公平性や効率性の新たな指標による分析では新たな印象を得た。これらの指標は作成可能でもあり、改善の目標としても使うことができると考えられる。分析結果の提示には工夫が必要である。
2.地域総合指標:地域指標の開発として、概念規定からはじめ、指標の基本的・統計的・実際的側面の検討、新たな指標の開発、指標の総合化を経て、地域指標の具体的提案と事例への適用を行った。本検討成績に基づいて、地域指標の算定・評価方法の標準化と妥当性を検討することが今後の課題である。

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