国民のQOL向上の推移を評価できる健康寿命等の総合指標の開発

文献情報

文献番号
199700265A
報告書区分
総括
研究課題名
国民のQOL向上の推移を評価できる健康寿命等の総合指標の開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶応義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日の高齢社会に対応するための我が国の健康政策に活用できる生活の質を考慮に入れた新しい健康に係わる総合指標を開発する。
研究方法
WHO、欧米先進諸国等においてActive Life Expectancy、QALE(Quality Adjusted Life Expectancy)、DALY(Disability Adjusted Life Years)等の指標が開発され、保健医療政策の立案、公衆衛生活動の評価、最適な治療技術の選択支援等に適用されている。研究班を組織し2年計画でこれ等の健康寿命に関する指標の開発及び適用状況について調査し、総合的健康指標として我が国におけるその適用の可能性について研究する。研究班員が分担してこれらの指標についてわが国のデータを使用して試算すると共に問題点を明らかにし、また不足するデータがあればそれを補う方法を検討する。
結果と考察
1)Active Life Expectancy(活動的平均余命)
長野県佐久市在住の60歳以上の全住民を対象に自記式アンケートにてADL及びIADLを調査したコホート研究のデータを使用して、ADLまたはIADLの各項目が自立状態にあった者の1年間の変化から活動的平均余命を計算した。ADLでは65歳の男性16.8年、女性19.4年である。しかし活動的平均余命が平均余命に占める割合は、男女とも全年齢でほとんど同じである。一方IADLでは65歳で男性13.6年、女性14.9年であるが、男性のIADLの活動的平均余命は76歳で女性と等しくなり、その後は女性の方がわずかに短くなる。さらにその平均余命に占める割合では全ての年齢で女性の方が少なく、生活環境、慣習等の社会的要因により規定されている可能性が示唆される。
2)QALE
京都府のデータをもとに推計を試みた。京都市左京区の地域住民のEuroQolデータと京都府の患者調査の入院患者数からHRQOLを換算し、さらに京都府の生命表を用いQALEを推計した。20歳の男性51.93年、女性54.97年となり、それぞれ平均余命の90.8%と87.7%となった。この割合は年齢の上昇と共に低下傾向を示す。またQALEの男女差は平均余命の差よりも小さい。女性は余命は長いが男性より生活の質が低いことが示唆される。
3)DALY
Global Burden of Disease Study(GBD)において用いられた健康指標であり、早死損失年数(YLL:Years of Life Lost)と障害共存年数(YLD:Years of Life Lived with Disability)から構成される。GBDの成果及びわが国の人口動態統計を用いてわが国のDALYの算出を簡便法により行い、有用性を検討した。今回の対象疾患(107)は1990年死亡者総数の95.3%を占め、死亡者数順位とYLL順位はきわめて相関が高い。またYLD順位とは中程度の相関を示す。またDALY順位とも高い相関を示す。DALYは死亡者数のみでは反映されない、早死および障害の程度も加味した健康指標として一定の意義があると考えられるが、先進国で使用する場合問題もある。
4)PYLL(Potential Years of Life Lost)
PYLLは若年死亡損失の指標であり、死亡を余命損失により重みづけした健康結果の評価方法である。65歳をend pointとして1950-1995年の悪性新生物のPYLLを計算し、その推移を比較した。悪性新生物によるPYLLは全体として減少傾向にあるが、その種類により増減がある。また悪性新生物の65歳以下の医療費を推計し、PYLLと医療費の推移について検討した。PYLLの減少に反して医療費は増加していたが、個別の癌ではその傾向は必ずしも一様でない。
5)新しい指標の開発
疾病特異的重篤度(DSSW:Disease Specific Severity Weight)についての指標の開発の可能性を検討している。大動脈疾患術後患者の健康状態を例にとり、臨床現場のエキスパートオピニオンによりDSSWを定量評価できるか検討するとともに、DSSWが一般人によるQOLの調査値とどのように相関しているか研究を進めている。
結論
平均寿命に代わる総合的健康指標のわが国における適用の可能性と問題点を明らかにすべく、わが国のデータを使用し試算した。解決すべき問題点も多いが、平成10年度においてはさらに既存データを幅広く活用してこれ等の試算を継続すると共に、実現性のある指標開発に向けて具体的提案を行いたい。

公開日・更新日

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