厚生科学の基盤技術開発に係る政策に関する研究

文献情報

文献番号
199700264A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生科学の基盤技術開発に係る政策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
寺尾 允男(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学基盤技術政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、このような状況の中において、医薬品、医療機器等の開発研究における国の役割、基盤研の機能、研究体制、基盤研の研究開発に係る社会的なニ-ズ、研究成果の活用等、基盤研のあり方について調査し、まとめることにある。
研究方法
本年度発足した国立厚生科学基盤技術開発研究所整備構想検討委員会(以下、「整備構想検討委員会」という。)の意見を参考にするとともに、ヒュ-マンサイエンス振興財団(以下、「HS財団」という。)に依頼してアンケ-ト調査により国内関係者の意見を聞くとともに、国立医薬品食品衛生研究所のホ-ムペ-ジを通じて広く意見を求め参考とした。
結果と考察
医薬品、医療機器の開発は、本質的に企業の責任により行われるものであるが、基礎から開発までの全ての研究を企業が行うことは、人的にも経済的にも大きな負担となる。特に、基礎的研究は多分にリスクを伴うもので、企業が十分な投資をするのは困難である。このような研究は本来、国の責任において行うべきものである。厚生省においても、厚生科学の推進に必要な基盤技術等を研究開発する目的で基盤研を設置し、既存の厚生省試験研究機関と知的、技術的、人的連携を深め、汎用性の高い基礎的・基盤技術開発研究等を進めることが望まれる。
厚生科学基盤技術開発研究の推進については、これまでも、 ? 画期的な医薬品や人工臓器の開発等の基盤となる研究の推進、 ? 遺伝子、細胞、動物等の研究資源の開発などに関する研究及びそれらのデ-タベ-スの整備、? 受託業務の実施、など様々な意見が出されてきた。そこで、本研究班では基盤研の機能及び研究内容について、さらに広く関係者から意見を求めるためHS財団にアンケ-ト調査を依頼するとともに、インタ-ネットを通じて広く一般の意見を求め参考とした。即ち、基盤研の機能として、(1)厚生科学を世界的レベルに先導するプロジェクトの実施、(2)汎用性の高い最先端技術の開発、(3)厚生科学に係る研究基盤の整備、が最も期待されるものであった。また、(4)産官学に開かれた共同利用施設としての性格を持たせること、(5)研究コ-ディネ-タ-としての役割産業社会への波及を目指した研究成果の積極的公開、(7)国際的に評価される独創的な研究者の育成、(8)民間の研究開発活動の促進を図るための支援機能の充実など、産官学連携による研究推進と技術移転及び人材育成機能への期待も高いものがあった。研究内容に関しては、医薬品開発に関連し「創薬シ-ズ発見のための生体機能解明に必要とされる基盤研究」 、「ゲノム情報を創薬に活用するための基盤技術」、「疾患モデル動物作成に関する技術」、「医薬品分子設計のための基盤技術」、「リ-ド化合物のスクリ-ニング系確立のための技術」、「遺伝子治療の技術」、「医薬品の安全性評価のための技術」 、「医薬品の有効性の予測及び評価のための技術」を指摘する意見が多かった。同様に医療機器開発に関連して「人工心臓」、「人工肝臓」及び「人工膵臓」の開発技術に関する意見が多かった。以上の意見を総合すると、基盤研では医薬品や医療機器の開発に必要な基礎的、基盤的研究を中心とした機能を持ち、基礎、基盤研究の推進手段としての共同利用施設の位置づけを与え、共同研究を積極的に進めることが望まれるこのため、単独の機関で備えることは不経済であり、使用頻度は高くはないが研究に不可欠な高額な機器等を産学官の共同利用機器として設置することが望ましい。これにより官学の基礎研究から産の開発研究まで一連の研究を連続して行える環境を整備することができる。
基盤研における研究体制のあり方としては、わが国の国研あるいは大学で通常みられるような固定的な研究室体制の他に、研究目的により機関を区切り研究グル-プを形成するプロジェクト制が考えられる。両者にはそれぞれ長所、短所があるが、基盤研の目的が厚生科学に関連する基盤技術の開発という明確な研究目的がある以上、急速に進歩する科学技術に対応するためにはプロジェクト研究体制の方が適した場合もあると考えられる。しかし、研究資源開発のような一部の研究においては、知識や技術の蓄積の必要性等からプロジェクト研究は必ずしも馴染むものではない。基盤研における研究体制は画一的に全てプロジェクト研究型とするのではなく、目的に応じてプロジェクト研究型と固定的な研究型のものを併用することが望ましい。
研究結果活用促進に関するアンケ-ト調査では、 ?「特許化の促進と技術移転の迅速化」、?「民間からの研究者の受け入れ」及び ?「共同開発研究」の3点が基盤研の研究成果を民間における研究開発に活かしていくための中心課題であることを示している。この課題には国の研究機関である基盤研の研究成果を特定の企業の独占としないという公平の立場と、企業側の可能な限り占有したいという希望とをどのように折り合いをつけていくかという問題が含まれており、今後、研究成果の活用促進に対する考え方を明確にしていく必要がある。
研究資源は現在、開発研究及びマスタ-バンクの管理は国の機関が、頒布事業は財団が行っているが、このような業務の仕分けは将来も維持していくことが望ましい。基盤研においてはバンク運営に必須な基盤的研究を中心に実施し、新たに創薬研究や組織工学、遺伝子治療等に必須な新しい研究資源の開発に取り組む研究体制を確立することが望まれる。基盤研で取り扱う研究資源として、ヒトの疾病の研究に関連する遺伝子、細胞等について広い視野に立って保有する資源の数とそれらの資源に関する情報を充実させていく必要があろう。厚生省において医薬品の安全性あるいは人工臓器の開発研究にボランティアから提供されたヒトの組織を使用することの是非の議論が進められているが、もし、ヒト組織をこのような目的に用いることが認められた場合、ヒト組織のバンクも視野に入れておく必要があろう。現在、わが国にはいくつかの省庁に細胞バンクがあり、それぞれの目的に応じて特色を出して運営されている。基盤研のバンクとしてはヒトの疾病の原因解明や医薬品、人工臓器の開発など、厚生省独自の目的にあったバンクとすべきである。
結論
整備構想検討委員会の意見及びHS財団アンケ-ト調査等の結果を踏まえると、国立厚生科学基盤技術開発研究所の全体像及び基盤研設立時における厚生科学研究に係る資源バンクの全体像は以下のようなものが考えられる。下記の2.研究機能では今回の調査で明らかとなった様々な研究課題を列挙してあるが、限られた人的資源及び研究費を使用し、最大の効果を上げるために、研究の優先順位をつけて順位の高いものから研究を進めることが必要である。しかし、順位は常に研究の進展に伴い変化するものであるので、基盤研の具体的案ができあがるときに最終的に議論する必要がある。
基盤研の機能と研究体制
1. 施設等の性格
a) 施設及び機器類は産学官の共同利用
b) 産官学共同研究の推進
2. 研究機能
1) 医薬品開発に資する基礎的基盤的技術開発研究(プロジェクト研究など)
a) 創薬シ-ズ発見のための生体機能解明に必要とされる基盤研究
b) ゲノム情報を創薬に活用するための基盤研究
c) 疾患モデル動物作成に関する基盤技術
d) 医薬品分子設計のための基盤技術
e) リ-ド化合物のスクリ-ニング系確立のための基盤技術
f) オ-ファンレセプタ-等、レセプタ-のリガンド解析のための基盤研究
g) 遺伝子治療薬開発のための基盤技術
h) その他
2) 医療機器開発に資する基礎的基盤的技術開発研究(プロジェクト研究など)
a) 人工心臓開発のための基盤研究開発研究
b) 人工肝臓開発のための基盤技術開発研究
c) 人工膵臓開発のための基盤技術開発研究
d) その他
3) 研究資源バンクに資する開発研究 (JCRB の固定的研究室など)
a) 新規研究資源の研究開発
b) 品質管理技術の研究開発
c) 遺伝子及び細胞機能に関する研究
d) 情報管理システムの研究開発
3. サ-ビス機能
1) 研究資源に関する情報の提供
2) 高度な研究情報の収集と提供
なお、基盤研設立時における厚生科学研究に係る資源バンクの全体像は次のようになることが考えられる。
基盤研研究資源バンク(JCRB)
1. 研究開発業務
a) 上記、研究機能3. 研究資源バンクに資する開発研究に同じ第3者機関(HSR RBなど)により実施
1. 分譲業務
a) 分譲アンプル作成
b) 経理等の事務管理
2. マスタ-バンク業務
a) シ-ド細胞の培養・凍結・保存・品質管理
b) 情報管理、加工、公開、維持

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