カドミウムを含む食品の安全性に関する研究

文献情報

文献番号
200636004A
報告書区分
総括
研究課題名
カドミウムを含む食品の安全性に関する研究
課題番号
H16-食品-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
香山 不二雄(自治医科大学 地域医療学センター、環境医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 堀口 兵剛(自治医科大学 地域医療学センター 環境医学部門)
  • 中井 里史(横浜国立大学大学院環境情報研究院環境疫学)
  • 池田 正之((財)京都工場保健会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
33,963,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)食品から摂取するカドミウム(以下、Cdとする)の健康影響を調べるために、農家女性の腎機能、骨密度について追跡調査を行(香山不二雄)
2)国内基準及び国際基準の検討に資するCdに関する精緻な曝露評価を行う。(中井里史)
3)一般人口に見られる程度の尿中α1-ミクログロブリン(以下α1-MG)、β2-ミクログロブリン(以下β2-MG)上昇がなおCd曝露に特異的か否か検討する。(池田正之)
研究方法
1)地域Eおよび地域Fとの同県内で同緯度にある類似した地域Gおよび隣接する地域Hにて、農家女性の調査を行った。また、地域Eで5年後の追跡調査を行った。栄養調査、生活歴、現病歴、疾病罹患率の調査、骨密度調査、腎機能検査を実施した。骨粗鬆症に関連のある遺伝子の中からエストロゲン受容体β(ER2)の19のSNPs多型に関して調査を行い骨密度の地域差の原因を解明する。
3)5年間の国民栄養調査結果と農林水産省の実施した農作物および魚介類のCd汚染実態調査結果を用いてモンテカルロ・シュミレーションを用いて曝露評価を行ったが、平成18年度は大豆の種々の基準値を設定し、調理加工による減衰量を計算に入れ、曝露量に関するシュミレーションを行う。
4)全1,000検体ではα1-MG、β2-MGの値は尿中CdのみならずCuによっても尿濃淡補正の有無にかかわらず有意に上昇し、上昇への寄与はCdよりもCuの方がより顕著であるとの所見を得た。
結果と考察
1)腎近位尿細管機能低下は、加齢が常に最も大きな要因であり、Cd曝露指標は統計学的に明らかな有意な相関は示さなかった。Cd曝露の高い群で加齢による腎機能低下が増悪する可能性について確認した。
2)大豆のCd基準を設けた場合と、設けなかった場合と比較したところ、大豆からのCd曝露量および全食品からの曝露量ともに、ほとんど差は認められなかった。全般的に大豆の摂取量そのものが精米等に比べると必ずしも多くないことに起因すると考えられる。
3)非曝露者集団の尿中α1-MG・β2-MGの決定因子としてはCuがCdよりも強い影響力を有するとの結論を再確認することが出来た。
結論
1)調査10地域の中で、曝露の高い地域と対照地域を比較すると、Cd曝露による腎機能の低下はなかった。
2)日本人のCd曝露量推計の大豆の寄与について、曝露量推計シミュレーションを行った結果、大豆Cd基準のあるなしで、大豆からのCd曝露量お曝露量に差はなかった。
3)尿中α1-MG、β2-MGの上昇への寄与は尿中CdよりもCuの方がより顕著である。

公開日・更新日

公開日
2008-09-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200636004B
報告書区分
総合
研究課題名
カドミウムを含む食品の安全性に関する研究
課題番号
H16-食品-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
香山 不二雄(自治医科大学 地域医療学センター、環境医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 堀口 兵剛(自治医科大学 地域医療学センター 環境医学部門)
  • 佐々木 敏(東京大学大学院医学研究科公共健康医学専攻疫学保健学講座)
  • 中井 里史(横浜国立大学大学院環境情報研究院環境疫学)
  • 宇野 秀之(自治医科大学 知己医療学センター、環境医学部門)
  • 池田 正之((財)京都工場保健会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成16年度からは、「カドミウムを含む食品の安全性に関わる研究(研究代表者 香山不二雄)」で引き続き調査を継続している。これまでの調査で最もCd曝露の高かった地区Fで平成15年度に引き続き同様の集団で追加調査を行い、地域Fの被験者数を合計約422名とした。最もCd曝露が高かった地域Fで、198名の追加調査を平成16年度に行った。この集団はFAO/WHO JECFAのカドミウム(Cd)の暫定耐容週間摂取量Provisional Tolerable Weekly Intake (PTWI)を越えるCd曝露を受けている被験者が半数近く含まれる集団で、腎機能障害、骨粗鬆症などの健康影響を調査し、より正確な摂取許容量算定に有用なデータを得ることを目的とした。
研究方法
平成16年度の地域Fでは農家女性198名が健診に参加した。平成17年度は、骨代謝に関連する遺伝子の中でも新たにestrogen receptor 2(ESR2)に着目し、農家女性の末梢血、富山県Cd汚染地域におけるCd腎症並びにイタイイタイ病患者からの末梢血の9種類のER2のSNPのタイピングを行った。平成18年度には、地域Eおよび地域Fと同県内同緯度地域の地域Gと地域Fとで、同様の条件で調査を行った。地域Gにて125名、地域Hで117名の調査協力者を得て、合計242名の被験者であるが、解析に交絡因子を有する被験者を除き、最終的な解析対象者は223名となった。この地域G&H 223人と地域E846名および地域F362名と比較した。
結果と考察
地域G&Fの被験者と比較して、地域Eおよび地域Fのカドミウム曝露は高く、特に高齢になると有意に高いことを示していた。現在の腎機能検査の平均値で比較すると尿中α1-ミクログロブリンおよびβ2-ミクログロブリン濃度はF地域ではE地域より高くはなく、特に対照群の地域G&Hと比較しても大きな差は見られなかった。この結果から、平均的にはF地域はE地域より高い曝露を長年受けていたにもかかわらず、加齢による変化を調整すれば、明らかな腎機能障害はない結果となった。
結論
日本国内で現時点でのカドミウムの経口摂取量が最も高いと思われる集団、すなわち、自家保有米をこれまでの20年以上食べてきた農家女性の腎機能障害、および骨密度の低下などの健康影響は、現時点では見られないと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200636004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成15年より継続して調査し、8地域の合計で2,000名弱となり、コホートとして追跡調査するには適切な母集団となると考えられる。これまでの断面的調査により、Cd摂取による健康への悪影響の根拠は見出だせなった。
臨床的観点からの成果
臨床的には、腎機能および骨密度に関して、高度の影響を受けている個人は見られなかった。
ガイドライン等の開発
薬事食品衛生審議会 毒性部会 
その他行政的観点からの成果
これまで研究データが限られていたCdの摂取量を求めるために、トータルダイエット・スタディーおよび陰膳法の調査を行った。さらに、汚染地域でのCd曝露量をより精密に評価するために、モンテカルロ推定法を用いて曝露評価研究を行い、2005年2月第64回JECFAに資料として提出し、Codex Committee on Food Additives and Contaminants (CCFAC)での米中のCd許容濃度基準作成に貢献することができた。
その他のインパクト
日本薬学会のトキシコロジーフォーラムで報告した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Horiguchi H, Oguma E, Nomoto S et al
Acute exposure to cobalt induces transient methemoglobinuria in rats.
Toxicol Lett. , 151 (3) , 459-466  (2004)
原著論文2
Horiguchi H, Oguma E, Sasaki S, et al.
Dietary exposure to cadmium at close to the current provisional tolerable weekly intake does not affect renal function among female Japanese farmers.
Environ Res.  , 95 (1) , 20-31  (2004)
原著論文3
Horiguchi H, Oguma E, Sasaki S et al.
Comprehensive study of the effects of age, iron deficiency, diabetes mellitus, and cadmium burden on dietary cadmium absorption in cadmium-exposed female Japanese farmers.
Toxicol Appl Pharmacol. , 196 (1) , 114-123  (2004)
原著論文4
Horiguchi H, Oguma E, Sasaki S et al.
Environmental exposure to cadmium at a level insufficient to induce renal tubular dysfunction does not affect bone density among female Japanese farmers.
Environ Res. , 97 (1) , 83-92  (2005)
原著論文5
Horiguchi H, Oguma E, Kayama F.
The effects of iron deficiency on estradiol-induced suppression of erythropoietin induction in rats: implications of pregnancy-related anemia.
Blood , 106 (1) , 67-74  (2005)
原著論文6
Horiguchi H, Oguma E, Kayama F
Cadmium and cisplatin damage erythropoietin-producing proximal renal tubular cells
Arch Toxicol. , 80 (10) , 680-686  (2006)
原著論文7
Murakami K, Sasaki S, Takahashi Y, et al.
Dietary glycemic index and load in relation to metabolic risk facors in Japanese female farmers with traditional dietary habits.
Am J Clini Nutr , 83 , 1189-1192  (2006)
原著論文8
Ikeda M, Ezaki T, Tsukahara T, et al
Dietary cadmium intake in polluted and non-polluted areas in Japan in the past and in the present.
Int. Arch. Occup. Environ. Health , 77 , 227-234  (2004)
原著論文9
Ikeda M, Ezaki T, Moriguchi J, Fukui Y,
The threshold cadmium level that causes a substantial increase inβ2-microglobulin in urine of general populations.
Tohoku J. Exp. Med , 205 , 247-261  (2005)
原著論文10
Ikeda M, Ezaki T, Tsukahara T, et al.
Reproducibility of urinary cadmium, α1-microglobulin and β2-microglobulin levels in health-screening of general population.
Arch. Environ. Contam. Toxicol. , 48 , 135-140  (2005)
原著論文11
Ikeda M, Moriguchi J, Ezaki T, et al.
Smoking-induced increase in urinary cadmium levels among Japanese women.
Int Arch Occup Environ Health, , 78 , 533-540  (2005)
原著論文12
Ikeda M, Shimbo S, Watanabe T, et al.
Correlation among cadmium levels in river sediment, in rice, in daily foods and in urine of residents in 11 prefectures in Japan.
Int Arch Occup Environ Health , 79 , 365-370  (2006)
原著論文13
Ikeda M, Ezaki T, Moriguchi J.
No meaningful increase in urinary tubular dysfunction markers in a population with 3 μg cadmium/g creatinine in urine.
Biol. Trace Elem. Res. , 113 , 35-44  (2006)
原著論文14
Moriguchi J, Ezaki T, Tsukahara T, et al.
α1-Microglobulin as a promising marker of cadmium-induced tubular dysfunction, possibly better than β2-microglobulin.
Toxicol. Lett. , 148 , 11-20  (2004)
原著論文15
Moriguchi J, Ezaki T, Tsukahara T, et al.
Decrease in urine specific gravity and urinary creatinine in elderly women.
Int. Arch. Occup. Environ. Health , 78 , 446-451  (2005)
原著論文16
Yamagami T, Ezaki T, Moriguchi J,
Low-level cadmium exposure in Toyama City and its surroundings in Toyama prefecture, Japan, with references to possible contribution of shellfish intake to increased urinary cadmium levels.
Sci. Total Environ. , 362 , 56-67  (2006)
原著論文17
Moriguchi J, Ezaki T, Tsukahara T, et al.
α1-Microglobulin levels and correlation with cadmium and other metals in urine of non-smoking women in general populations in Japan.
Toxicol. Environ. Chem. , 87 , 119-133  (2005)
原著論文18
Moriguchi J, Ezaki T, Tsukahara T, et al.
ecrease in urine specific gravity and urinary creatinine in elderly women.
Int. Arch. Occup. Environ. Health , 78 , 446-451  (2005)
原著論文19
Tsukahara T, Ezaki T, Moriguchi J,
No effects of hematuria and proteinuria in school days, and probably current pregnancy and current lactation also, as risk factors of cadmium-induced renal tubular dysfunction among adult women in general populations in Japan.
Arch. Environ. Contam. Toxicol., , 46 , 413-418  (2004)
原著論文20
Watanabe T, Shimbo S, Nakatsuka H, et al.
Gender-related difference, geographical variation and time trend in dietary cadmium intake in Japan.
Sci. Total Environ. , 329 , 17-27  (2004)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-