地方衛生研究所の機能強化に関する研究

文献情報

文献番号
199700262A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所の機能強化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森良一(福岡県保健環境研究所)
  • 鈴木重任(東京都立衛生研究所)
  • 五明田李(島根県衛生公害研究所)
  • 荻野武雄(広島市衛生研究所)
  • 長谷川修司(千葉市環境保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
29,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「地方衛生研究所(以下地研と略)は、地域保健対策を効果的に推進し、公衆衛生の向上及び増進を図るため、都道府県又は指定都市における科学的かつ技術的中核として、関係行政部局、保健所等と緊密な連携の下に、調査研究、試験検査、研修指導及び公衆衛生情報等の収集・解析・提供を行うことを目的とする」(地研設置要綱、平成 9年 3月14日、厚生省発健政第26号)とされている。地域保健が対応すべき課題は、量質共に増加しており、地域における全ての課題を一つの地方衛生研究所だけでカバ-することは不可能に近い。新たな地域保健体系の中で、保健所との緊密な連携と併せて地研相互間、国立試験研究機関(以下国研と略)の連携等、タテヨコにに連携して、一つ一つの課題に科学的かつ技術的に対応していく体制を整備していくことが喫緊の課題となっている。本研究の目的は、問題意識を共有する地研相互の連携を中心として、地研の機能強化のための課題や解決策を検討するためのモデル的、実践的な調査研究事業を展開することにある。
研究方法
地研設置要綱に明記されている調査研究、試験検査、研修指導、公衆衛生情報等の収集・解析・提供(情報関連業務)の機能強化及び保健所との連携による相互の機能強化の 5つ研究課題について、分担研究者及び全国 6ブロックの支部長推薦による研究班員 6人からなる研究チ-ムを編成し、班毎に会議の開催やアンケ-ト調査の企画・集計・考察、情報交換等を通じて調査研究を行った。研究班会議は 3回(平成9年7月28日;地研全国協議会役員を含む23人参加、平成10年 2月16日;12人、 3月16日;10人)、さらに、各分担研究班相互の連絡調整、総括的討議のために、研究班全体会議を開催した(平成9年10月14日;51人参加)。
結果と考察
1)地研のもつ知的・人的・物的資産を有効活用した調査研究機能の強化のためには、地研業績集のシステム開発、職員の資質向上、企画調整機能の強化が必要と思われた。海外での調査研究情報の収集については、インタ-ネットを用いた国際機関別(WHO,CDC,NIH,FAD,EPS) の検索先リストを作成した。また、地研間の連携による共同研究をモデル的に行い、腸管出血性大腸菌O26 について、ラムノ-ス分解能に着目した効率的且つ明瞭・簡便な検出法を新たに開発した。2)食品衛生検査における地研の GLP対応の実態を調査した結果、予算、人員不足、業務量の増加が推進の障害となっており、研修会等で共通認識の形成をはかり、標準モデルを作成してその対応策を推進する;高度検査機能の確保・整備では、地研のもつ技術力と意欲の活用;レファレンス機能では、標準品や技術提供、緊急時の情報提供及び連携、検査技術やデ-タの提供、緊急検査時の情報提供;さらに精度管理システム確立等、地研間の連携が必要であることが分かった。3)各地研の受け入れ可能な研修課題を調査し、全体で178課題(1地研平均 2.3課題)について研修生の受け入れができる結果を得た。相互研修を実施するためには、地研の研修システムの確立(研修担当部門の設置、カリキュラム編成、関連情報、講師陣等)と財源確保が求められている。また、相互連携による支部ブロック別のモデル研修が試行され、実体験や実物観察ができる等高い評価を得た。4)何らかの形で情報部門が設置されている41地研の業務としては、研究所発行の刊行物の編集や図書整理、情報関連の調査研究、情報の解析提供及び情報機器の運営管理、サ-ベイランスなどの行政事業の運営、システム開発、所内情報化計画と多岐にわたっていた。DBMSや統計ソフト、さらに所内LAN 等ソ
フト・ハ-ド両面の実態が明らかになった。また地研間の総合的な情報ネットワ-クとしては、WISH-NETはとインタ-ネットの併用が有効と考えられた。地研と保健所における公衆衛生情報業務の実態が明らかになり、連携の必要性及び方向性が明らかになった。5)地研と保健所の連携による相互の機能強化については、7 題の事例研究を実施した。地研と保健所との行政連携の見直し(GLP 導入の課題解決、広域県と保健所少数県における連携)による機能強化では、組織改正や新たな業務連携システムに関する検討が行われた。O157やクリプトスポリジウム等感染症危機管理対応時の連携では、日常的な連絡ネットワ-クの標準化の検討が必要であることが指摘された。保健衛生情報システムの機能強化では、地研、保健所、本庁、市町村の情報の共有化が課題であり、システムの操作の簡便性、提供情報のわかりやすさ、日常業務への汎用性等が指摘された。
都道府県及び指定都市等の設置する地研には、 2,800人強の研究職員がおり、その研究業績は年間約 2,700件(国内学会発表37%、研究所報30%、和文専門誌14%、英文専門誌7%、国外学会発表3%)となっている。こうした地研の知的、人的、物的資産をより有効に活用するためには、現行の地研業績集を発展させて新たなデ-タベ-スの構築が必要となっており、厚生科学研究費報告書のデ-タベ-スとのリンケ-ジ等も含めて、地研業績集の新たなフォ-マットの検討が開始された。また、社会的要請の強い、行政施策の科学的な推進を確保するための研究の展開にあたって、テ-マの発掘をはじめ、資質向上のための研修システムの拡充、企画調整機能を持つ組織的な整備も不可欠な条件である。地研間の連携による共同研究では、最近問題となっているNon-O157、特に O26がラムノ-スを糖として利用しない事実に着目し、地研 6支部の研究所が、自分のところで分離したベロ毒素産生株を用いて糞便からの検出法を検討した結果,O26の効率的、明瞭簡便な分離法の開発に成功したことは特筆に値する。こうした地研間の連携による機能強化は、試験検査の分野でも、 GLPの対応や精度管理、さらに高度検査機能やレファレンスセンタ-機能における技術的な連携やその強化策に極めて有効であることが確認された。研修部門では、73地研それぞれが受け入れ可能な研修課題が 178課題もあり、国等による研修に匹敵する技術研修が地研レベルでも可能であることが明らかとなった。この相互研修をいかに制度化し、そのシステムを一般化するかが今後の課題となっている。情報関連機能でも、WISH-NETとインタ-ネットの使い分けをどうしていくかを中心に研究が進められたが、保健所との連携も含めて「業務」としての情報活動が極めて重要となってきており、そうした意味でも地研の組織的な取り組みが必要となっている。対人保健分野を中心に従来疎遠であった保健所との連携は、今回の研究で積極的に取り組まれ、業務連絡をはじめ保健衛生情報の共有化等、本庁を含めて連絡ネットワ―クの構築が不可欠であると指摘された。地域保健推進のパ-トナ-として、さらに具体的な対応策を各地域毎に展開すべきであろう。
結論
地研は、「科学的根拠に基づく」地域保健対策を効果的に推進していくための科学的かつ技術的中核機関として機能することが示されている。全国73地方衛生研究所の参加を得て、地研相互の連携を中心に機能強化に関する具体的方策を検討した。地研業績集のシステム改革や職員の資質向上、企画調整機能の強化、共同研究による細菌検出法の開発; GLP推進の標準モデルの作成、高度検査機能に関する調査、精度管理実施方法の検討やレファレンスセンタ―機能の強化策;受け入れ可能な課題や研修体制等相互研修に関する調査、ブロック別モデル研修の実施;公衆衛生情報の種類と範囲及び情報活動の基盤に関する調査、地研間の総合的な情報ネットワ-クの構築に関する検討;地研と保健所の行政連携の見直し、感染症危機管理、保健衛生情報システムについての事例研究の実施等;地研の相互連携による機能強化のための課題や問題点、その対応策等を各機能別に具体的に明らかにした。地研相互間の緊密な連携・協力体制を整備し、このシステムを活用して各業務を積極的に推進していくことが、地研の機能強化には極めて有効な方策と思われる。

公開日・更新日

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