市町村保健サービスの充実強化に関する研究

文献情報

文献番号
199700260A
報告書区分
総括
研究課題名
市町村保健サービスの充実強化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 啓(宮城大学)
研究分担者(所属機関)
  • 太田壽城(国立健康・栄養研究所)
  • 猫田泰敏(東京都立医療技術短期大学)
  • 小野寺伸夫(武蔵丘短期大学)
  • 豊川裕之(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
市町村における保健サービスの充実強化は地域保健法において中心的な役割を担うものである。しかしながら、従来から市町村保健事業の総合的かつ体系的な分析および評価はほとんどなされていない状況である。また、市町村における保健活動は地域特性および多様性に富むことから本調査研究のような多面的なアプローチが求めらる。この研究によって以下の点が明かとなる。1)市町村保健センターが地域住民医療費に与える効果においての研究では、医療費に影響を与える市町村保健センターの保健事業状況、設置条件、即ち施設規模、予算、職員数等の要因のいずれが最も影響を与えるかを解明し(工藤担当)、2)総合的な地域保健対策における民間健康増進施設の有効利用のための研究では、有効利用のためのシステムの解明および経済的な評価を行い(太田担当)、3)健康増進事業の評価方法に関する研究では、健康増進事業の企画・実施・評価を有効に進めるための社会工学的な手法による評価方法の標準化を検討し(猫田担当)、4)地域保健活動に必要なマンパワーの能力開発および組織活性化に関する研究では、地域保健法における栄養指導及び健康指導に従事する担当者の新たな活動指針及び人材育成環境の基本条件を解明し(小野寺担当)、5)地域保健マンパワー育成に関する地誌的研究では、特に従来から保健活動への参加が低率な男性を対象に地域小集団活動の組織化を検討した(豊川担当)。これらの研究成果達成は、いずれも市町村保健サービスの充実強化に総合的かつ実践的に資するものである。
研究方法
研究計画および方法は以下のような分担で行った。1)市町村保健センターが地域住民の医療費に与える研究に関しては、分担研究者工藤が既に平成6年度に担当した日本公衆衛生協会編「全国市町村保健センター事例集」をデータベース化し、この各市町村保健センターの事業状況と社会保険研究所の「地域医療費総覧96」の市町村別医療費とのデータリンケージを行い多変量解析等を用いて分析した、2)民間健康増進施設との連携研究については分担研究者太田が、全国の民間健康増進施設と市町村との提携ニードを調査し、モデル事例の検討、運用システムの提案、実際の運用およびそのコストベネフィットの観点からの評価を行った、3)健康増進事業の評価方法の標準化については、分担研究者猫田が内外の文献検討と地域で行われる健康教育の実態調査を行い、保健婦(士)主務者を対象として評価基準づくりの基礎的検討を行いパソコン上で評価ソフトの作成を試みた、4)マンパワーの能力開発および組織活性化については、分担研究者小野寺が21世紀型地域健康社会の構築に向けて基本指針を提示、研究骨子策定、文献情報収集及び課題要因調査票により体系的解析、実証調査を行った、5)地域小集団についての地誌的研究に関しては、分担研究者豊川が主に山梨県にて無作為抽出により地域小集団「無尽」へアンケート調査を試み、「無尽」を将来的に自主的健康づくり集団として再組織化する基礎的検討を行った。以上の5つの課題の総括的研究を主任研究者が行った。
結果と考察
1)市町村保健センターが地域住民の医療費に与える研究では、市町村コードをマーカーに801ヶ所の市町村保健センターの事業状況のデータと医療費(外来、入院別の一般、老人医療費)のデータのリンケージが可能であった。このリンケージ結果をもとに分析すると、市町村保健センターの事業については予防医学的な事業、即ち医療費抑制効果の期待できる事業と、疾病発症後のフォローやケアに関する事業、即ち医療費抑制効果の期待できない事業のあることが明らかとなった
。また、外来、入院別の一般、老人医療費ごとに医療費抑制効果のある事業とそうでない事業項目が異なることが明確になり、医療費抑制的な市町村保健センターの事業や設置条件については十分に考量する必要が示唆された。さらに、市町村保健センターは一般に保健所と比較すると設置期間が短期であり、長期的な効果を含めて多面的な分析が今後も必要であると考えられた。
2)民間健康増進施設との連携研究については、市町村と民間健康増進施設の連携ニーズは相互に極めて高い結果となったが、実際の連携については少数であり(連携内容は運動指導、体力測定、指導者研修、健康教育に大別された)、その背景には市町村と民間健康増進施設間の情報交流の不足があげられた。そこで、民間健康増進施設の機能、連携内容、コスト、アクセスルートをデータベース化し、将来的にはインターネットを用いて市町村からも簡便にアクセスできる相互情報交流システムを作成した。医学的な活用事例として民間健康増進施設を利用した生活習慣改善事業で血圧異常者の30%、脂質代謝異常者の5%、糖代謝異常者の55%の改善をみ、国保医療費の増加を抑制する市町村事例について調査が進行中である。
3)健康増進事業の評価方法の標準化については、市町村の健康増進事業の評価を標準化するためPlan-Do-Seeの基本に沿った「成人・老人保健における健康教育評価チェックリスト」を作成した。このチェックリストは評価領域を企画に関する評価、実施に関する評価、効果に関する評価の3段階に整理し、それぞれチェック項目とチェック内容を包括的に一覧表の形式で整理し、市町村での汎用性を考慮してチェックリストはWindowsパーソナルパソコン上のソフトとして開発した。今後、このチェックリストは市町村保健事業における健康教育の評価の標準化に寄与するものと考えられる。また、今回の調査研究事業では教育効果の主観的側面に関する評価指標作成に関する調査を行い、健康教育に参加する動機づけ、参加による知識の獲得・確認、行動の変容の実態について分析した。
4)市町村におけるマンパワーの能力開発および組織活性化については、まず今後の地域政策の基本理念を検討した。この検討から、地域特性を考慮した政策、経営技術の視点からの効率化と公正化、目標の標準化と優先順位の決定が重要課題として浮かび上がった。さらに、具体的なマンパワーの能力開発では、技術進歩の中での対面の会合・会話の重要性の再確認、さらに複雑多岐な現代の保健課題へは積極的な専門家の導入と柔軟な有効政策の推進が明らかとなった。本研究調査事業においての具体的事例として、栄養士による学校保健や職域保健との連携に関する先駆的事例、ライフサイクルに沿った生涯にわたる栄養指導事例、民間活力の導入例として社員全員に介護福祉士資格を取得する会社事例等が明らかとなった。地域保健サービスの向上に必要なマンパワーの能力開発とその組織活性化は相互に関連し、多面的な成果と相乗的効果が発揮される機能であり、今後、職種や地域特性を踏まえた検討を行う必要性が確認された。
5)地域小集団についての地誌的研究に関しては、保健事業に男性の参加者を増やす方法の一つとして、また、地域住民側からのボトムアップの保健事業組織化の方法論として地域の歴史的文化的な背景をもつ趣味サークル活動『無尽』の自主的保健サークルへの再組織化(将来的には『健康無尽』)を検討した。フィールドとして山梨県のある地域の住民にアンケート調査を行った。アンケートの結果では、既存の無尽に参加する男性は約7割と高率であり、特に50代で高率であった。将来の健康無尽への予備調査では4割強が賛成し、反対は1割と低率であった。今後の健康無尽への条件では、同じ趣味を有するもので、内容は実技中心であり、活動方法は集会形式、1回の会費制の運営形態であった、男性を保健活動に参加させる方法として、『無尽』のような地域の歴史的文化的な背景をもつ趣味サークルの活用は有用であると考えられ、会費制は無料の原則が一般的な保健事業と比べるとかなり柔軟な運営が可能となり、事業内容についても充実が期待できる結果であった。
結論
市町村保健サービスは地域特性に富みかつ多面的である。そのため、充実強化については従来の枠を越えた柔軟な対応が必要である。市町村保健センターにおける保健事業が医療費へ与える効果は医療費抑制とともに促進的な面もあり多面的であり、市町村保健センターの評価には注意を要する。今後の市町村保健センターの設置についてはこの結果を踏まえた上で検討が期待される。市町村の民間健康増進施設等の積極的な利用については経済的分析結果からも重視されるべきであり、その推進には今後はインターネットを用いた相互情報システムの重要性が明かとなった。市町村保健事業評価の標準化は市町村保健事業サービスの質の向上には必須であり、本調査研究事業による汎用性の高いパーソナルコンピュータソフトによる標準化リストの作成は大いに役立つものと思われる。また、本調査研究事業で検討されたマンパワーの育成と組織の活性化については人的資源の限られる市町村では重要な位置を占め、今後、保健事業の現場での研究結果の応用が期待されることろである。小地域での保健事業には広域な行政単位とは異なる手法が必要であり、特に男性の参加が低い保健事業については、地域の歴史的文化的背景を活用した事業の有効性と可能性が本調査研究でも示唆された。

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