生活活動能力の向上と老化抑制に及ぼす運動の効果に関する疫学研究

文献情報

文献番号
199700255A
報告書区分
総括
研究課題名
生活活動能力の向上と老化抑制に及ぼす運動の効果に関する疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 藤田委由(放射線影響研究所)
  • 種田行男(明治生命厚生事業団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
持続的な運動の実践が健康に及ぼす影響に関する研究としては、肥満、高血圧、高脂血症、虚血性心疾患、糖尿病など、主として成人病の予防効果に関するものが多い。しかし、高齢期の生活活動能力を目標とした疫学研究は少ない。老人人口が急速に増加する中で、高齢期における生活活動能力を最大限に高めるための生活習慣、特に身体的活動量を提示することは、現代疫学の重要な研究課題である。本研究は、高齢者の日常生活活動能力、老化関連症状の出現状況、ADL、QOLなどと、壮年期までの身体的活動量との関連を明らかにすることによって、高齢者の生活活動能力の維持増進に及ぼす運動の意義を明らかにすることを目的とする。
研究方法
(1)農村住民コホートの解析 1983年に追跡開始した2334人の農村住民コホートのうち、観察開始時に53歳以上の者(1995年の時点で65歳以上に相当)で、12年後の現状が追跡できた者および1994年7月までの死亡者の合計1345人について、観察開始時の検査成績および食生活パターンと12年後の老化水準との関係を解析した。エンドポイントとして評価した老化水準指標としては、質問項目から計算した老化年齢推定式を用い、?実際の年齢と比べて予測年齢が<+4の者、?年齢調整後の予測値が<0のもの、?老化関連症状の数が4以下の者、?日常生活能力低下項目の数が4以下の者を「老化なし」として評価した。さらに、算出した推定老化年齢2歳以上実際の年齢を上回っていた群(老化あり)と、それ以外の群(老化なし)の2群に分類し、生活習慣などが老化に与える影響を多重ロジスティックモデルにより分析した。 (2)老化指標の再現性に関する評価 上記のコホートのうち、1994年と95年の2時点に老化水準に関する45項目の簡易な質問調査を実施した者887人について、各項目の再現性および内的整合性を評価した。 (3)原爆被爆者集団のコホート研究 昨年度全国8集団12,841人を対象に、過去1年間の治療歴、老化関連症状の出現、生活活動能力などの項目からなる簡単な質問調査に基づく老化年齢推定式を作成したが、本年度は放射線影響研究書の追跡集団のうち、1994年~97年の受診者3,596人にこの式を当てはめて、この時点の握力との関係および1968年~70年に調査した身体活動水準、1965年~67年に調査した血圧値、喫煙、飲酒との関係を解析した。(4)高齢者の1日の歩行数と生活体力の縦断的変化との関係 高齢者の健康づくり教室の受講者を対象に1996年、97年の2年間ペトメータにより、1日の歩行数を測定するよう指示した。回収された記録のうち、計測日数が1か月当たり20日以上のものを各月のデータとした。さらに年間を4期(春3~5月、夏6~8月、秋9~11月、冬12~2月)に区切り、季節による評価も行った。
さらに、1996年4月と1997年4月に起居能力、歩行能力、手腕作業能力、身辺作業能力に基づく生活体力の測定および日常生活状況調査を行い、2年間の歩行数の変化と生活体力及び日常生活の変化との関係を観察した。
結果と考察
(1)農村住民コホートの解析 男では、老化促進要因としては、高血圧、肥満、ヘモグロビン低値、動物性タンパク質、みそ汁や漬け物、ご飯などの摂取が少ない食習慣があげられた。女では男と異なり、高血圧、肥満、ヘモグロビンの影響はオッズ比で1前後であった。 (2)老化指標の再現性に関する評価 各質問項目のカッパ統計量については45の質問項目のうち、ADLに関する項目を中心とした28項目は0.4以上で、よく一致していた。しかし、17項目については0.4を切っており、一致性に問題があった。老化水準推定式の再現性については、2回のデータによる推定値間の相関係数は0.6であり、比較的再現性は良い。老化水準推定式の内的整合性を検討した結果、一定の内的整合性が認められた。 (3)原爆被爆者集団のコホート研究 1994-1997年の受診時の老化指標は握力と強い負の相関がみられ、握力の強いものは生活活動能力より推定された老化指標が低い傾向がみられたが、65歳未満の男女ではこのような傾向はみられなかった。老化指標と身体活動指標の間には、男65歳以上、男65歳未満、女65歳以上の3群では老化指標と身体活動指標との関連はみられなかったが、女65歳未満の群では老化指標と身体活動指標は負の有意な関連がみられ、身体活動量の多いものほど老化指標が低い傾向がみられた。 (4)高齢者の1日の歩行数と生活体力の縦断的変化との関係 全対象者の2年間における1日の平均歩行数は5,876±2,342歩/日であった。男では一定の年齢傾向は見られなかったが、女では加齢に伴って歩行数が減少する傾向がみられた。70歳代における男性の平均歩行数は、同年代の女性に比べて多かった。歩行数の季節別比較では、冬期に歩行数が減少する傾向が認められた。1年間の歩行数とその計測期間前後での生活体力の変化量を性・年齢を調整した偏相関で検討した結果、歩行数が減少した者ほど歩行能力が低下する傾向がみられたが、その他の生活体力の項目には、歩行数との間に明らかな関係は認められなかった。歩行数の変化量と関連する要因を日常生活状況から検討した結果、運動・スポーツおよび食料品や日用品の買物の活動性との間に有意な関連が認められ、これらの活動頻度が低下した者ほど歩行数の減少を認めた。
結論
(1)農村住民では老化促進要因として男では、高血圧、肥満、低ヘモグロビンなどの検査所見と食事摂取量の少ないことが上げられた。女ではやせが上げられた。 (2)高齢期の健康水準を測定するための質問票の再現性を1年間の間隔を置いて評価した結果、ADLに関する項目を中心とした項目及び老化水準推定値はよく一致していた。 (3)高齢者の握力と老化水準は逆相関の関係があり、老化の指標として有用である。 (4)高齢者の年間歩行数が少ない者ほど1年後の歩行能力の低下が大きく、運動やスポーツ、食料品や日用品の買物などの能力低下が見られた。季節にかかわらず歩行数を維持することが、高齢者の生活体力を維持・増進するために重要であると考えられた。

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