老人保健事業における健康教育効果の評価方法の標準化に関する研究

文献情報

文献番号
199700254A
報告書区分
総括
研究課題名
老人保健事業における健康教育効果の評価方法の標準化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
三浦 宜彦(昭和大学)
研究分担者(所属機関)
  • 安西定(昭和大学)
  • 藤田利治(国立公衆衛生院)
  • 高崎裕治(秋田大学)
  • 延原弘章(岡山県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、健康教育の評価方法の標準化を提案することによって、健康教育の一層の効率化、および住民のQOLの向上に資することである。
研究方法
 本年度は、「老人保健事業における健康教育の実施状況および老人医療費との関連」および「老人保健法による重点健康教育の実施状況に関する調査」を実施した。
1.老人保健事業における健康教育の実施状況および老人医療費との関連
1983年から1995年の老人保健事業報告、1980年から1995年の国勢調査、および1984年から1991年の「国民健康保険の実態」を資料として、
?40歳以上人口1000人当りの頻度を各市区町村別に算出し、その市区町村の分布の年次推移をパーセント点(5%点、25%点、50%点、75%点、95%点)及び平均値・標準偏差を用いて整理した。さらに、国保医療費(老人保健分)(以下、老人医療費)に関して1人当り老人医療費、1件当り日数、および受診率の年次推移を同様の方法で整理した。
?健康教育と医療費との関連の検討として、健康教育全体の参加延人員と1人当り老人医療費の関連を相関係数および重回帰分析を用いて分析した。
これらの統計解析は、PC版SASのCORR、GLMプロシージャによって行った。
2.老人保健法による重点健康教育の実施状況に関する調査
平成10年2月1日から2月28日を調査期日とし、市町村自治研究会編「平成9年度 全国市町村要覧」に登載されている全国3,255市区町村を対象に、老人保健法に基づく重点健康教育(肺がん予防、乳がん予防、大腸がん予防、糖尿病予防、骨粗しょう症予防、病態別健康教育、寝たきり予防、歯)および一般健康教育の各々について、その実施の有無と「具体的な目標の設定」など13項目の評価の実態、ならびに健康教育全般について5項目の評価の実態を郵送法により調査した。
結果と考察
1.老人保健事業における健康教育の実施状況および老人医療費との関連
1)全国の健康教育の実施状況は1995年度で開催回数341,371件、参加延人員12,289,704人で、開催回数、参加延人員ともに増加傾向にあった。重点健康教育が導入された1987年以降は、重点健康教育の増加に比例して一般健康教育が減少していた。
2)健康教育の40歳以上人口1,000人当り開催回数、参加延人員、従事者延人員について求めた、市区・町村別、一般健康教育・重点健康教育別パーセント点の年次推移表(1983年~1995年)によって、各市区町村は、健康教育の実施状況の全国における相対的な経年的位置づけを容易に行うことができ、実施実績の評価が本報告によってはじめて可能になったと考える。
3)老人医療費に係わる1人当り老人医療費、1件当り日数、および受診率の年次推移の検討によって、健康教育の実施状況とは逆に、1人当り老人医療費、1件当り日数、および受診率が町村と比べて市区で多い傾向にあった。経年的には1件当り日数がわずかに減少する傾向にあったが、受診率は増加し、1人当り老人医療費も明らかな増加を示していた。1991年の1人当り老人医療費の中央値は、町村で48.7万円、市区で54.0万円に達していた。
4)老人医療費と健康教育および老人保健事業のその他の項目との相関係数を検討した結果、健康教育参加延人員と1人当り老人医療費の間には相関係数で0.084のわずかな負の関連が認められた。老人保健事業のいずれの項目についても負の関連が見られ、事業実施が多い市区町村では老人医療費が少ない傾向が認められた。最も関連の強い項目は基本健康診査であり、次いで健康相談、訪問指導、がん検診、健康教育、機能訓練の順であった。健康教育と他の老人保健事業の項目間にも関連が認められ、健康相談の実施との間の関連が最も強いものであった。
5)健康教育実施状況と老人医療費との関連を、重回帰分析を用いて総合的に検討した結果、人口規模、市区・町村の別、年次で調整してみると、1人当り老人医療費に対して健康教育参加延人員は高度に有意な関連が認められ、参加延人員が40歳以上人口1000人当り1人増えるごとに1人当り老人医療費が11円低いことが示された。さらに、人口規模、市区・町村の別、年次、基本健康診査、がん検診の影響を調整した上で検討すると、健康教育の参加延人員を40歳以上人口1,000人当り1人増加させることは1人当り老人医療費の3.0円の低下に相当することが示唆された。
2.老人保健法による重点健康教育の実施状況に関する調査
調査票の回収状況は、平成10年3月末現在で、約2,200市区町村で、回収率は約68%であった。現在、調査票の審査を実施しているところである。
結論
 市区町村での健康教育の実施状況に関する分布の年次推移を示したことにより、全国における相対的な位置づけから各市区町村自身が実施状況の評価を行い得るようになり、具体的数値評価に基づく健康教育の一層の推進が可能になった。
健康教育の実施実績は経年的に増加していたが、市区町村間には大きな格差も存在していた。また、健康教育の増加は老人医療費の低下と有意に関連することが明らかになった。今回の断面的な関連の検討結果は健康教育の効果を期待させるものであるが、今後さらに時系列分析を行い、因果関係を明確にする必要がある。
これらの結果と本年度実施した実態調査の分析をあわせて、健康教育の効果の標準的な評価方法を継続研究する予定である。

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