地域保健医療活動の経営診断手法と評価指標に関する研究

文献情報

文献番号
199700251A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健医療活動の経営診断手法と評価指標に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 林正幸(国立公衆衛生院)
  • 吉田紀子(鹿児島県庁)
  • 谷口栄作(黒木保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健医療システムは健康変革や健康転換の下で、効率と質の向上が求められている。そのためにはシステムの経営診断が必要で、以下の3つの課題を通してその手法と評価指標の開発を試みた。
1. システムを同定し保健医療関連資源を把握する。
2. システムの需要を把握し、目的を同定する。
3. システムの活動とその結果を評価する。
研究方法
研究方法は下記の通りである。
1. 課題第一
以下の3つの視点から試みた。
1) 住民の視点
住民は保健医療資源をどう同定し、保健医療システムにアクセスしているのかを「風邪をこじらせて入院」を想定した、人や場等6項目の資源に関するアンケートにより、健康な若者130人、健診後の高齢女性56人、ボランティアリーダー60人を対象に調査した。
2) 行政の視点
大田区の行政に関連する保健医療資源を保健関連部局を越えて調査し「保健医療福祉サービス」「コミュニティ形成」「環境の整備」の3つの目的に分けて把握した。
3) 経営の視点
1)と2)を統合しシステム経営の視点から「健康の決定要因か否か」「意志決定者や決定機構との関連はどうか」を基にシステムの境界の同定をブレインストーミングにより試みた。
1. 課題第二
需要の把握と目的の同定は経営手法ではマーケティングであり、古典的な「地区診断」や「ブレイクスルー手法」「グループインタビュー法」「AHP法」の対話型手法、「CS」「未来シュミレーション」の総合的な手法、さらに長期健常者に毎日、健康関連チェックリストに記入してもらい、潜在需要を把握する「健康日誌」手法等がある。ここでは「健康日誌」手法について発表する。20-70代までの家庭の主婦8人に11問からなる調査リスト4週間分を配布、毎日定時の記入をお願いし、結果を集積した。
3.調査第三
健康結果評価としては高齢少子・成熟社会に向けて保健医療システムの目的が転換しつつあり、今年度は早死の評価に焦点を絞り人口対年齢調整損失年(PYLL Age Adjusted)を用いた。評価のレベルは全数や疾病別、全国・都道府県、2次医療圏、市町村を用いた。市町村はサンプル数確保のため対象年の前後数年をプールした。
活動効率評価法としてはまず、投入産出の単純散布図を用いて傾向をみた。次いで限界投入産出をみるために1990年から1995年までの5年間の変化を分析した。投入には国保一般医療費と医療資源、産出にはPYLLを用いた。地域としては、全国と島根県の2次医療圏や、全市町村等を対象とした。
結果と考察
研究結果と考察は下記の通りである。
1.課題第一
1) 住民の視点
年齢により差があるものの医療機関以外の資源を健康づくりに想定しており、セルフケアが出発点となっていることが判明した。
2) 行政の視点
保健部局以外で行政の内部に保健医療関連資源が多数存在し、これらを連携活用すれば地域全体として有用であること、さらに住民からみると保健医療資源のアクセスの窓口が1つであることが望ましいことが判明した。
3) 経営の視点
住民の視点を前提にシステム全体の有効性を判断すること、即ち健康の決定要因である資源を選択することがシステムの境界を決定する条件であること、そして介入が有効なフィードバックループが重要である。従って目的や時期により境界は変動すること少なくとも保健医療界の枠を越えてとらえることが必要と考えられる。
2.課題第二
健康日誌結果は高い回答率をえた。約半数の月で健康に関連する活動を行っていることが判明し、特に高齢者に活動率が高く、潜在需要が存在すると考えられる。高齢者は健康を疾病や医療機関と結びつけて考える傾向があり、若者はスポーツや美容と結びつけやすく、少ない時間にできるだけ休養をとる生活習慣が認められた。
健康希求過程の場としては自宅、家庭が多く、薬局・医療機関は少なかった。調査対象者が家庭の主婦であることが影響していると考えられる。
3.1 課題第三
PYLLを用いると、全死亡でとらえていたものとは疾病パターンが異なる。標準化死亡率との相関は1990年、1995年共に低かった。また地域別に特色があり、全国レベルで低下している胃癌、増加している肺癌が都道府県レベルでは異なっている地域があった。全国レベルでは1990年から1995年でPYLLが低下しているが地域よりばらつきがあり九州では低下、中四国ではあまり変化がなかった。
医療費との相関では医療費は一般に伸びているが、必ずしも伸びとPYLLの低下は一致していなかった。医療費に対するPYLLの限界効果にはばらつきがあった。人材等の医療資源は2次医療圏単位分析でしか耐ええないが、データの限界もあり現時点では結論を得ることができなかった。
結論
健康の決定要因は多種あり、保健医療界の外にも多く存在している。行政内に存在する資源だけでも保健関連部局にの外に多く認められた。住民の視点からみると保健医療機関以外の資源がまず最初の接触であり、そこに潜在需要があると考えられる。健康日誌は潜在需要を掘り起こす有用な手段である。しかし一般に保健医療界では情報に偏りがあり行政側一方通行も多いと想定されシステムの有効性を保証するにはマーケティングの手法が重要である。システムの評価には結果のみならず活動過程が重要で、特に健康変革を要する今日、効率が問われている。結果の評価にも従来の全死亡からの評価のみならず早死のように対象を絞り込むことが重要である。これらを地域単位や時系列で比較すると保健医療システムの評価に有用で、システムの経営診断が可能となる。

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