保健活動の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700248A
報告書区分
総括
研究課題名
保健活動の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岩永 俊博(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎米厚(国立公衆衛生院)
  • 和田耕太郎(国立公衆衛生院)
  • 鳩野洋子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
1,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健活動の評価は結果評価は行われているが、展開過程の評価はほとんどなされていない。そこで、本研究班では昨年度から活動の展開方法を評価する方法の開発を行っている。昨年度開発した評価方法は、訓練された調査者が聞き取りによって評価を行うものであったが、この方法だと地域での汎用化が困難であると思われたため、本年度は事業実施者自身が評価可能な方法について検討した(調査 1)。これに加え、地域の住民側からみた評価方法について試行した(調査2)。
研究方法
(調査 1)については、「住民参加」「分野間協調」に焦点をあてた評価について検討した。まず、評価尺度を作成したのち、尺度の内容に対応した質問票を作成し、事業担当者、関係者へ記入を依頼するとともに、調査者も既存資料および聞き取り調査により質問票への回答を行った。記入後、回答者間の回答のずれや回答不能であった項目等について検討した。
(調査2)は、町の健康づくり活動への住民の参加意識、実際の行動の観点から評価を試みた。住民の参加状況に関する質問紙を作成し、対象地区として、住民参加を意識した活動を行っている1地区(介入地区)と、その地区に年齢構成や産業構造が類似した2地区を対照地区として選定し、40歳以上の住民に対して自記式調査票を郵送法で配布、回収し、地区毎の差違について検討した。また地域の健康づくり活動に参加している住民を対象にフォーカス・グループ・ディスカッションを実施し、質的に住民の参加状況を把握した。なお、ここでは住民参加の段階を、興味・出席・相談・決定の4段階があり、後者ほど高次のレベルであると仮定して調査を行った。
結果と考察
(調査1)評価尺度は、事業展開の流れに沿って、「事業の契機」「目的の決定」「評価」の3つの時点について、全10項目の評価尺度を作成した。項目は以下のとおりである。「事業の契機」:「事業開始の契機」「事業の必要性への保健婦の問題意識」、「目的の決定」:「公的認知」「分野間協調」「目的・目標の関連性」「住民の参加者の範囲」「住民の参加のレベル」、「評価」:「評価の範囲」「評価の時期」「対照群の有無」である。作成した尺度は、「対照群の有無」を除き、最も望ましい状態を段階 5、最も低い状態を段階 1とした。各々の回答状況の検討を行ったところ、回答者間で回答に差違が生じたり、回答不能といった問題点が一部の設問にあることがあきらかになった。
今回の評価尺度については、ヘルスプロモーションや住民参加領域の研究者に意見を聴取するという段階をふんだため、内容については一定の妥当性を得ているものと思われる。信頼性については、複数の回答者の回答の一致する割合を基準にすることを考えた。しかし、回答者間で評価の不一致や回答不能である部分を生じたことは、今後の検討課題であると考えられた。その問題を生じた主たる原因は、過去の事業を回想法的な形で評価したこと、調査票の設問の表現にやや曖昧な部分があったことであった。以上のことから、設問表現に修正を加えることで、本調査票は地域で汎用化できる可能性が考えられた。
(調査2)フォーカス・グループ・ディスカッションの結果では、介入地区では、地域全体を視野においた活動を住民が中心になって行っていたが、対象地区では行政が企画する事業へ出席したり協力する段階にとどまっていることがわかった。
一般住民に対する郵送調査は、全体で52.7%の有効回収率であった。全体の状況をみると、参加経験の有無は、 3地区間で差はみられず、また参加意識についても、興味の段階については介入地区のほうが「興味あり」と回答した割合が高い傾向がみられたが、それ以上の高次の段階の意識についての差はみられなかった。参加経験の有無別にみると、参加経験のある住民に関しては、介入地区で「地域全体の健康づくりは大切」「町の健康づくりのために自分も何かしたい」と考える住民が多かったが、意識の段階についての差はみられなかった。以上のように、調査票の結果からは、活動に直接参加している住民の意識は介入地区のほうが若干高いという結果が得られたが、一般住民への波及効果は明確にできなかった。
今回の調査内容の作成にあたっては、住民と行政が協働して健康な地域づくりを行っている住民、専門職への聞き取り調査の結果と、参加意識に対する既存の調査研究、住民参加に関する文献の3方向から検討を行った。しかし、フォーカス・グループ・ディスカッションで認められた参加意識の差違について、郵送調査では認められなかった項目もあった。住民の参加意識や行動は、そのレベルによって変化の現れるまでの期間に違いがあることが言われている。特に今回測定の対象としたような新しい取り組みに関しては、変化する期間が長くかかることが考えられる。そのため、測定しようとするレベルによって測定の時期を考慮した質問項目と、住民の意識の微妙な変化を測定できる質問を再検討する必要があるものと考えた。
結論
事業担当者の自記式調査票による測定方法は、担当者が測定する意思があれば測定は容易であった。一部修正を加えることで、大規模な調査も可能と考えられた。
住民の意識や行動の変化による測定方法は、フォーカス・グループ・ディスカッションでは認められた差違が、自記式調査票では明確にできなかった。これについては調査票の再検討が必要と思われた。

公開日・更新日

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