抗エイズ薬開発のための小動物評価系の開発と新規治療薬の開発研究

文献情報

文献番号
200614007A
報告書区分
総括
研究課題名
抗エイズ薬開発のための小動物評価系の開発と新規治療薬の開発研究
課題番号
H16-創薬-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
岩倉 洋一郎(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 志田 壽利(北海道大学 遺伝子制御研究所)
  • 小柳 義夫(京都大学 ウイルス研究所所属エイズ研究施設)
  • 小糸 厚(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 岡本 尚(名古屋市立大学 医学部 分子医学研究所)
  • 神奈木 真理(東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在HIV研究に必要な動物モデルとして、霊長類以外に適当な系がなく、エイズ治療薬開発上の大きな障害となっている。本研究では抗HIV薬評価のための小動物を用いた感染モデルの開発を試みると共に、発症機構や阻害因子の解析を行った。
研究方法
HIV感受性小動物を作製するために、宿主間障壁となっている宿主因子をヒト型化することを試みた。また、NOGマウスにヒト臍帯血より分離したCD34陽性細胞を移植し、ヒト樹状細胞 (DC) の定着について解析した。一方、種々の齧歯類およびヒト細胞よりAPOBEC1 cDNAを単離し、抗HIV活性を解析した。また、HIV発現に対するAP-4の作用機構を検討すると共に、アロ特異的CD8+CTLの培養上清中のHIV抑制活性物質を単離同定した。さらに、Dectin-1欠損マウスを作製し、P. cariniiの感染防御に対する役割を検討した。
結果と考察
マウス細胞ではウイルス核酸のインテグラーゼ依存性の核移行が阻害されており、宿主間障壁の1つとなっていることを示した。また、hCyclinT1, hCRM1を発現するラット細胞は、それぞれを単独で発現するラット細胞と比較してHIV産生が劇的に増加した。また、NOGマウスではヒトDCの定着が見られたが、DCサブセット、成熟度の違いでリンパ組織への局在が異なることを示した。一方、ラット、マウスのAPOBEC1もVif非依存性にHIVの感染性を抑制すること、また、AP-4はTBPのTATA boxへの結合を阻止し、HDACによる HIVの転写抑制をもたらすこと、さらに、CTL由来HIV抑制因子は、マイコプラスマ由来のarginine deiminaseであることを同定し、抗HIV-1薬として利用できる可能性が示唆された。また、Dectin-1欠損マウスでは免疫不全状態でP. cariniiに対する感受性が亢進しており、この分子が真菌の感染防御に重要な役割を果たしていることを示した。
結論
マウスやラットのHIV感受性宿主間障壁因子をヒト型化する試みは着実に進んでおり、ほかに、NOG-huマウスの開発に成功した。また、新たなHIVの転写制御機構を明らかにすると共に、CTL由来HIV抑制因子を同定した。さらDectin-1が真菌の感染防御に重要な役割を果たすことを明らかにした。これらの成果はエイズ克服に大きく貢献するものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2007-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200614007B
報告書区分
総合
研究課題名
抗エイズ薬開発のための小動物評価系の開発と新規治療薬の開発研究
課題番号
H16-創薬-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
岩倉 洋一郎(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 志田 壽利(北海道大学 遺伝子制御研究所)
  • 小柳 義夫(京都大学 ウイルス研究所所属エイズ研究施設)
  • 小糸 厚(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 岡本 尚(名古屋市立大学 医学部 分子医学研究所)
  • 神奈木 真理(東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV研究に必要な動物モデルとして、現在霊長類以外に適当な系がないことがエイズ治療薬開発上の大きな障害となっている。本研究では抗HIV薬評価のための小動物を用いた感染モデルの開発を試みると共に、発症機構や阻害因子の解析を行った。
研究方法
HIV感受性マウス、ラットを作製するために、宿主間障壁となっている因子をヒト型化すると共に、齧歯類細胞由来APOBECの抗HIV活性を解析した。また、臍帯血CD34陽性細胞をNOGマウスへ移植し、ヒト細胞の定着を評価した。HIVゲノム導入マウス(HIV-Tg)における潜伏HIV遺伝子の発現制御機構をNFkBを中心に解析すると共に、CTL株上清中に含まれるHIV抑制因子の単離を行った。さらに、Dectin-1欠損マウスを作製し、P. cariniiの感染防御に対する役割を検討した。
結果と考察
これまでに宿主間障壁となることが分かっている遺伝子を全て人型化したマウス、ラットを開発し、hCycT, hCRM1 Tgマウス、ラットではTat、Rev活性が上昇することを示した。また、マウス細胞ではウイルス核酸のインテグラーゼ依存性の核移行が阻害されていることを新たに見いだした。また、NOGマウスに血液幹細胞を移植すると、ヒトT細胞及びDCが効率よく分化増殖した。ラットAPOBEC3抗ウイルス活性部位を特定し、ラット、マウスAPOBEC1がVif非依存性にHIV感染性を抑制することを示した。また、HIVの活性化にはNFkBが重要な役割を果たしておりIkB kinase阻害剤のACHPがHIV活性化を阻害すること、転写因子AP-4がHIVの転写を抑制すること、arginine deaminase(ADI)がHIVの複製を阻害することなどを見いだした。さらに、Dectin-1欠損マウスでは免疫不全状態でP. cariniiに対する感受性が亢進しており、この分子が真菌の感染防御に重要な役割を果たしていることを示した。
結論
HIV感受性宿主間障壁因子を同定、ヒト型化することを着実に進めると共に、NOG-huマウスHIV感染系を開発した。一方で新たなHIV複製阻害因子を同定すると共に、免疫不全状態で真菌感染防御を担う分子を同定した。これらの成果はエイズ克服に大きく貢献するものと考えている。

公開日・更新日

公開日
2007-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-10-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小動物を用いた抗エイズ薬やワクチンの評価系を開発するために、宿主障壁となることが分かっている遺伝子を全て人型化したマウス、ラットを開発した。また、新たにウイルス遺伝子の核移行関与分子が障壁に関与していることを明らかにした。一方、NOGマウスにヒト造血幹細胞を移植することにより、効率的にヒト血球系が再構築できることを示した。今後、これらの系をさらに改良することにより抗HIV薬評価系ができる見込みである。この他、Dectin-1が真菌の日和見感染防御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 
臨床的観点からの成果
本研究ではHIV感受性マウスの作製の他に、抗HIV薬やその標的の探索を行った。その結果、HIVの活性化にはNFkBが重要な役割を果たしておりIkB kinase阻害剤のACHPがHIV活性化を阻害すること、arginine deaminase(ADI)がHIVの複製を阻害することなどを見いだした。これらの分子は抗HIV薬として開発できる可能性があり、今後小動物モデルを用いてその効果を評価する予定である。また、Dectin-1を標的とする真菌感染防御薬の開発が示唆された。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
Dectin-1遺伝子を欠損させたマウスを作製し、この分子がエイズ患者に見られる日和見感染として大きな問題となっているP. carinii感染防御において重要な役割を果たしていることをNature Immunology 誌 (2007年)に発表し、朝日新聞や日経新聞、東京新聞などに掲載され、大きな反響があった。また、組み換えウイルス及びその用途(特願2004-296734)、および、齧歯類での人免疫不全ウイルス増殖に必要なヒト遺伝子(特願PCT/JP2004/005607)を特許出願した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
101件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saijo, S., Fujikado, N., Furuta, T. et al.
Dectin-1 is required for host defense against Pneumocystis carinii but not against Candida albicans.
Nature Immunol. , 8 , 39-46  (2007)
原著論文2
Tsurutani, N., Yasuda, J., Yamamoto, N. et al.
Nuclear import of the pre-integration complex is blocked upon infection by HIV-1 in mouse cells.
J. Virol. , 81 , 677-688  (2007)
原著論文3
Komiyama, Y., Nakae, S., Matsuki, T. et al.
IL-17 plays an important role in the development of experimental autoimmune encephalomyelitis.
J. Immunol. , 177 , 566-573  (2006)
原著論文4
Matsuki, T., Isoda, K., Horai, R. et al.
Involvement of TNF-alpha in the development of T cell-dependent aortitis in IL-1 receptor antagonist-deficient mice.
Circulation , 112 , 1323-1331  (2005)
原著論文5
Horai, R., Nakajima, A., Habiro, K. et al.
TNF-alpha is crucial for the development of autoimmune arthritis in IL-1 receptor antagonist-deficient mice.
J. Clin. Invest. , 114 , 1603-1611  (2004)
原著論文6
Kitabatake, M, Inoue,S, Yasui, F, et al.
SARS-CoV spike protein-expressing recombinant vaccinia virus efficiently induces neutralizing antibodies in rabbits pre-immunized with vaccinia virus.
Vaccine , 25 , 630-637  (2007)
原著論文7
Sakurai, A, Yasuda, J, Tanaka, Y, et al.
Regulation of human T-cell leukemia virus type-1 (HTLV-1) budding by ubiquitin ligase Nedd4.
Microbes and Infection , 6 , 150-156  (2004)
原著論文8
Ebina H, Aoki J, Hatta S, et al.
Role of Nup98 in nuclear entry of human immunodeficiency virus type 1 cDNA
Microbes & Infection , 6 , 715-724  (2004)
原著論文9
Kawano Y, Yoshida T, Hieda K, et al.
A lentiviral cDNA library employing lambda recombination used to clone an inhibitor of human immunodeficiency virus type 1-induced cell death
Journal of Virology , 78 , 11352-11359  (2004)
原著論文10
Nakata H, Maeda K, Miyakawa T, et al.
Potent Anti-R5-human immunodeficiency virus type 1 effects of a CCR5 antagonist, AK602/ONO4128/GW8 73140, in a novel human peripheral blood mononuclear cell nonobese diabetic-SCID, interleukin 2 receptor g-chain-knocked-out AIDS mouse model
Journal of Virology , 79 , 2087-2096  (2005)
原著論文11
Yoshimura K, Shibata J, Kimura T, et al.
Resistance profile of a neutralizing anti-HIV monoclonal antibody, KD-247, that shows favorable synergism with anti-CCR5 inhibitors in vitro.
AIDS , 20 , 2065-2073  (2006)
原著論文12
Shibata J, Yoshimura K, Honda A, et al.
Impact of V2 mutations for escape from a potent neutralizing anti-V3 monoclonal antibody during in vitro selection of a primary HIV-1 isolate.
J. Virol. , 81 , 3757-3768  (2007)
原著論文13
Imai,K., and Okamoto,T.
Transcripional Repression of Human lmmunodeficiency Virus Type 1 by AP-4 .
J. Biol.Chem , 281 , 12495-12505  (2006)
原著論文14
Victoriano, A.F.B., Asamitsu,K., Hibi, Y. et al.
Inhibition of HIV-1 replication in latently infected cells by a novel IkB kinase inhibitor
Antimicrob. Agents Chemother. , 50 , 547-555  (2005)
原著論文15
Imai, K., Nakata, K., Kawai, K. et al.
Induction of OGG 1 gene expression by HIV-1 Tat.
J. Biol.Chem. , 280 , 26701-26713  (2005)
原著論文16
X. Zhou, M. Kubo, H. Nishitsuji, et al.
Inducible co-stimulator (ICOS) mediated suppression of human immunodeficiency virus type 1 replication in CD4+ T lymphocytes.
Virol. , 325 , 252-263  (2004)
原著論文17
T. Ikeda, H. Nishitsuji, X. Zhou, et al.
Evaluation of the functional involvement of Human immunodeficiency virus type 1 Integrase in nuclear import of viral cDNA during acute infection.
J. Virol. , 78 , 11563-11573  (2004)
原著論文18
Kubo, M., Nishitsuji, H., Kurihara, K., et al.
Suppression of human immunodeficiency virus type 1 (HIV-1) replication by arginine deiminase of Mycoplasma arginini.
J. Gen. Virol , 87 , 1589-1593  (2006)
原著論文19
Hamamoto, S., Nishitsuji, H., Amagasa, T., et al.
Identification of a novel human immunodeficiency virus type 1 integrase interactor, Gemin2, that facilitates efficient viral cDNA synthesis in vivo.
J Virol , 80 , 5670-5677  (2006)
原著論文20
Komori, K., Hasegawa, A., Kurihara, K., et al.
Reduction of human T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1) proviral loads in rats orally infected with HTLV-1 by reimmunization with HTLV-1-infected cells.
J Virol , 80 , 7375-7381  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-