ゲノム情報を用いたエイズワクチン開発と発症阻止に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200614002A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報を用いたエイズワクチン開発と発症阻止に関する基礎的研究
課題番号
H16-創薬-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
塩田 達雄(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩本 愛吉(東京大学医科学研究所)
  • 市村 宏(金沢大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズの病態ならびに進行速度は感染者ごとに大きく異なる。本研究は、HIV感染者および非感染者についてHIVの生活環に関わる様々な宿主因子の遺伝的多型を検討し、病態進行やHIV感染感受性の違いを決定する宿主側の因子を明らかにすることを目的とする。また抗HIV薬の有効性や副作用を決定する宿主因子の同定やワクチン開発のための基礎的検討も重要な課題である。
研究方法
(1)Taq Man法によりHIV感染者の遺伝子多型を検討した。(2) センダイウイルスを用い、HLA-A24に提示されるCTLエピトープ、Nef138-10をb2mに融合させたもの、およびICP47 を発現させた。(3) PCR法によりIL7遺伝子の上流域約1.5Kbの領域を増幅し、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した。(4)HIV感染者の血漿からRNAを抽出し逆転写酵素遺伝子(RT)の塩基配列を決定した。
結果と考察
(1)ゲノムワイドスキャンから病態進行の個人差と相関することが示唆された一塩基多型について、大規模なHIV-1感染者集団を用いてCD4陽性細胞数や血中HIV-1量の個人差と関連するか否かの検討を行ったところ、一箇所の多型が一次および二次スクリーニングと同様の傾向を示した。(2) TAP阻害分子ICP47とエピトープ融合b2mを共発現させることで目的のエピトープを高効率に抗原提示させることができることが明らかになった。 (3) T細胞の増殖を促すサイトカインである IL7の遺伝子の5ユ非翻訳領域内の3塩基を欠失する多型がIL7の翻訳効率を変化させることを見出した。(4)母子感染したと考えられるRT阻害剤(RTI)耐性関連変異を持ったウイルス株がRTI未使用下でも長期間存在すること、そしてARTの予後を知るうえで、血中ウイルスのマイナー集団の検討が必要であることが示唆された。
結論
本研究により、HIVの病態進行に関係する遺伝子多型を明らかにすることができた。また、本研究で有用性が明らかになったTAP阻害分子とエピトープ融合b2mを用いた抗原提示増強法は「CTL誘導型HIVワクチン」の開発への応用が期待される。さらに、RT阻害剤(RTI)耐性関連変異を持ったウイルス株がRTI未使用下でも長期間存在することが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2007-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200614002B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム情報を用いたエイズワクチン開発と発症阻止に関する基礎的研究
課題番号
H16-創薬-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
塩田 達雄(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩本 愛吉(東京大学医科学研究所)
  • 市村 宏(金沢大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 政策創薬総合研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズの病態ならびに進行速度は感染者ごとに大きく異なる。本研究は、HIV感染者および非感染者についてHIVの生活環に関わる様々な宿主因子の遺伝的多型を検討し、病態進行やHIV感染感受性の違いを決定する宿主側の因子を明らかにすることを目的とする。また抗HIV薬の有効性や副作用を決定する宿主因子の同定やワクチン開発のための基礎的検討も重要な課題である。
研究方法
(1)DNAチップ及びTaq Man法によりHIV感染者の遺伝子多型を検討した。(2)HIV感染者の血漿からRNAを抽出しHIVのCTLエピトープ部分の塩基配列を決定した。(3)センダイウイルスを用い、HLA-A24に提示されるCTLエピトープNef138-10をb2mに融合させたもの、およびICP47 を発現させた。(4) 日本人血友病患者の遺伝子多型をダイレクトシークエンス法にて決定した。
結果と考察
(1) ゲノムワイドスキャンから病態進行の個人差と相関することが示唆された一塩基多型について、大規模なHIV-1感染者集団を用いてCD4陽性細胞数や血中HIV-1量の個人差と関連するか否かの検討を行ったところ、一箇所の多型が一次および二次スクリーニングと同様の傾向を示した。また3剤複合療法によるCD4陽性細胞数の回復速度と強く相関する1箇所の遺伝子多型を見出した。(2)日本人の70%が有するHLA-A24によって提示されるNef138-10においてステレオタイプなアミノ酸変化が見られ、さらに同じ部位が他のHLA分子によっても提示された結果と思われるアミノ酸変異の存在が明らかになった。(3) TAP阻害分子ICP47とエピトープ融合b2mを共発現させることで目的のエピトープを高効率に抗原提示させることができることが明らかになった。(4)日本のHIV-1感染血友病患者において、RANTES ミ28GはAIDS発症遅延に、そしてDC-SIGN ミ139CはAIDS発症促進に関連することが示唆された。
結論
本研究により、HIVの病態進行に関係する遺伝子多型を明らかにすることができた。また、ワクチン開発において重要な因子である抗原と免疫方法に関する基礎的情報を得ることが出来た。本研究で有用性が明らかになったTAP阻害分子とエピトープ融合b2mを用いた抗原提示増強法は「CTL誘導型HIVワクチン」の開発への応用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200614002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIVの病態進行に関係する遺伝子多型を明らかにすることができた。また、ワクチン開発において重要な因子である抗原と免疫方法ならびに効率的な抗原提示方法に関する基礎的情報を得ることが出来た。成果は、AIDS、Journal of Virology、AIDS Research and Human Retroviruses 等の雑誌に掲載された。遺伝子多型解析結果に関して国内外からの反響は大きく共同研究の申し込みも多かった。
臨床的観点からの成果
母子感染したと考えられる逆転写酵素阻害剤(RTI)耐性関連変異を持ったウイルス株がRTI未使用下でも長期間存在すること、そして抗HIV療法の予後を知るためには、血中ウイルスの中のほんの一部を占める集団の薬剤耐性の検討も必要であることが示唆された。また、3剤複合療法によるCD4陽性細胞数の回復速度と強く相関する1箇所の遺伝子多型を見出した。この知見について海外でも同様の傾向が認められるか否かの検討を現在行っている。
ガイドライン等の開発
現時点ではガイドライン等の開発までは進んでいないが、抗HIV薬の有効性や副作用を決定する宿主因子を同定するための研究が進んでおり、将来、これらの因子を体系立てて整理できれば、副作用を回避するためのHIV感染症の治療ガイドラインの改訂に寄与できると考えている。
その他行政的観点からの成果
本研究によりHIVの病態進行に関係する遺伝子多型を明らかにすることができた。これらの遺伝子多型がHIVの病態進行に影響する分子機構を明らかにできれば、新たな抗HIV薬の開発に寄与できると考えている。
その他のインパクト
上記のHIVの病態進行に関係する遺伝子多型については、特許申請を検討している。研究成果については、ホームページで順次公開している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakayama, E. E., Tanaka, Y., Nagai, Y. et al.
A CCR2-V64I polymorphism affects stability of CCR2A isoform.
AIDS , 18 , 729-738  (2004)
原著論文2
Yamada, T., Watanabe, N., Nakamura, T. et al.
Antibody-dependent cellular cytotoxicity via a humoral immune epitope of Nef protein expressed on the cell surface.
J. Immunology. , 172 , 2401-2406  (2004)
原著論文3
Furutsuki T, Hosoya N, Kawana-Tachikawa A, et al.
Frequent transmission of cytotoxic-T-lymphocyte escape mutants of human immunodeficiency virus type 1 in the highly HLA-A24-positive Japanese population.
J Virol. , 78 , 8437-8445  (2004)
原著論文4
Yokomaku, Y., Miura, H., Tomiyama, H. et al.
Impaired epitope processing and presentation as a major escape mechanism from CTL recognition in HIV-1 infection.
J. Virol , 78 , 1324-1332  (2004)
原著論文5
Kita K, Ichimura H, et al.
Genetic Diversity of HIV Type 1 in Likasi, Southeast of the Democratic Republic of Congo.
AIDS Res. Hum. Retroviruses , 20 (12) , 1352-1357  (2004)
原著論文6
Ndembi N, Ichimura H, et al.
Genetic Diversity of HIV Type 1 in Rural Eastern Cameroon.
J Acquir Immune Defic Syndr , 37 (5) , 1641-1650  (2004)
原著論文7
Songok EM, Ichimura H, et al.
Active generation and selection for HIV intersubtype A/D recombinant forms in a co-infected patient in Kenya.
AIDS Res. Hum. Retroviruses , 20 (2) , 255-258  (2004)
原著論文8
Nakayama, E. E., Miyoshi, H., Nagai, Y.et al.
A specific region of 37 amino acid residues in the SPRY (B30.2) domain of African green monkey TRIM5α determines species-specific restriction of SIVmac infection.
J. Virol , 79 , 8870-8877  (2005)
原著論文9
Mori, K., Sugimoto, C., Ohgimoto, S. et al.
Influence of glycosylation on the efficacy of an Env-based vaccine against SIVmac239 in a macaque AIDS model.
J. Virol , 79 , 10386-10396  (2005)
原著論文10
Khamadi SA, Ichimura H, et al.
HIV-1 subtypes in circulation in Northern Kenya.
AIDS Res. Hum. Retroviruses , 21 (9) , 810-814  (2005)
原著論文11
Kurbanov F, Ichimura H, et al.
A New Subtype (Subgenotype) Ac (A3) of Hepatitis B Virus and Recombination between Genotypes A and E in Cameroon.
J Gen Virol , 86 , 2047-2056  (2005)
原著論文12
Takemura T, Ichimura H, et al.
A novel SIV from black mangabey (Lophocebus aterrimus) in Democratic Republic of Congo.
J Gen Virol , 86 , 1967-1971  (2005)
原著論文13
Wichukchinda, N, Nakayama, EE, Rojanawiwat, A. et al.
Protective Effects of IL-4 -589T and RANTES -28G on HIV-1 disease progression in infected Thai females
AIDS. , 20 , 189-196  (2006)
原著論文14
Song, H, Nakayama, EE, and Shioda, T.
Effects of human interleukin 7 on HIV-1 replication in monocyte-derived human macrophages.
AIDS , 20 , 937-939  (2006)
原著論文15
Nakayama, EE, Maegawa, H, and Shioda, T.
A dominant-negative effect of cynomolgus monkey tripartite motif protein TRIM5a on anti-simian immunodeficiency virus SIVmac activity of an African green monkey orthologue.
Virology , 350 , 158-163  (2006)
原著論文16
Koizumi Y, Ndembi N, Miyashita M. et al.
Emergence of ART-resistance associated primary mutations among drug-na_ve HIV-1-infected individuals in rural western Cameroon.
J Acq Immun Def Synd , 43 (1) , 15-22  (2006)
原著論文17
Song, H, Nakayama, EE, Likanonsakul, S. et al.
A three-base-deletion polymorphism in the upstream non-coding region of human interleukin 7 (IL-7) gene could enhance levels of IL-7 expression.
International Journal of Imuunogenetics. In press, , 34 , 107-113  (2007)
原著論文18
Nuanjun Wichukchinda, Archawin Rojanawiwat, Yoshihiro Kitamura. et al.
The polymorphisms in DC-SIGNR affect the susceptibility to HIV-1 infection.
AIDS. Res. Hum. Retrovir.  (2007)
原著論文19
Masahisa Ohishi, Tatsuo Shioda, and Jun-ichi Sakuragi.
Retro-transduction by virus pseudotyped with glycoprotein of vesicular stomatitis virus.
Virology.  (2007)
原著論文20
Ndembi N, Abraha A, Mbanya D. et al.
Primary Antiretroviral Resistance and Molecular Characterization of HIV-1 among Acutely Non-B infected Patients in Yaounde, Cameroon.
J Acq Immun Def Synd  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-