地域精神保健福祉と住民参加に関する研究

文献情報

文献番号
199700245A
報告書区分
総括
研究課題名
地域精神保健福祉と住民参加に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
水腰 久美子(石川県南加賀保健所)
研究分担者(所属機関)
  • 道下忠蔵(石川県精神保健協会・石川県立高松病院)
  • 加藤佐敏(石川県精神保健福祉センター)
  • 西正美(石川県保健環境センター)
  • 木崎馨山(小松市社会福祉協議会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
住民参加をキーワードとして進めてきた従来の精神保健活動をさらに発展させるために、2種類の調査研究を実施するとともにそれらを地域へ還元するイベントを開催する。これらによって地域住民のメンタルヘルスの向上とともに包括的精神保健福祉活動の展開を図ることを目的とする。
研究方法
1)精神保健福祉に関する意識調査 医療機関群・民生委員ボランティア群・一般住民群・高校生群の4群に対して、精神障害者に対する社会的心理的距離を中心とした意識調査を実施した。 2)全国における精神障害者社会復帰施設の設置・運営状況調査
援護寮・福祉ホーム・授産施設・生活支援センター・福祉工場の5種類の施設に対して調査票を送付し、設置・運営状況を調査した。また5カ所のモデル施設を選んで視察に赴き、住民参加をキーワードとしてケーススタデイを実施した。 3)「こころの集い '97 小松」開催 意識調査の結果を地域住民に還元するため、また住民参加実践の場としてイベントを開催し、ノーマライゼーションに関するシンポジウムと講演会を実施した。
結果と考察
1)精神保健福祉に関する意識調査 調査対象者は1,580人、回収数は960人、回収率は60.8%であった。4群のうちで一般群は有意に回収率が低かった。ノーマライゼーションに対する意識はどの群においてもほぼ2/3~3/4の人が賛意を表明している。精神障害者との社会的心理的距離を知るために東口らの『精神障害者に対する態度(Attitudes toward Mental Disorder:AMD)測定尺度 』を使用し数量化して群別に比較したところ、高校生群が最も偏見的態度が少なく、次いで医療機関群、ボランティア群の順であるが、一般群では上記3群に比して統計的に有意差をもって偏見的態度が強いという結果であった。 2)全国における精神障害者社会復帰施設の設置・運営状況調査 設置者は217カ所であり、そのうち130カ所(59.9%)から調査票の回収が得られた。回収率は社会福祉法人立施設が高く、医療法人立では低かった。約7割の施設がボランティアの参加を得ているほか、当事者の地元自治会や地域行事への参加、あるいは地域住民の施設への出入りの双方向で地域との交流がみられる。ケーススタデイとして5施設を視察調査した結果、精神障害者が安心して地域生活を営むためには「医・職・食・住・友」の支援整備が必要でありそのために多大な努力が払われていることと、社会復帰施設が人と人との交わりを通して人間性を豊かに育む場として、地域づくりの拠点になっているとさえいえることがわかった。 3)「こころの集い'97小松」開催 住民参加を基軸に据えて、ボランティアによる手づくりポスターをJRやショッピングセンター等に掲示し、小松ドームにおける集いの啓発活動を行った。当日はボランティアによる生け花や写真展などの会場設営があり、地域の現状と将来展望を語るシンポジウムの後、東京都立精神保健福祉センター所長:村田信男氏の講演会「精神障害者の社会参加~ともに担う地域社会~」を実施した。以上の結果から若干の考察を加える。昭和40年精神衛生法改正を受けて、保健所は地域の第一線機関として精神保健活動に携わってきたが、その後の経緯を考えると果たしてその活動は十分であったかと問われれば、精神障害者の福祉向上に寄与したと胸を張ることは難しい。全国で35万床の精神病床をもつことは先進諸国に比して格段に多いベッド数であり、そのうち2~3割の入院患者は社会的受け皿があれば退院可能な人々といわれる。ここ10年を省みれば精神保健法・精神保健福祉法・障害者基本法と法整備が進むとともに、全国各地に精神障害者のための社会復帰施設の整備が図られてきているが、地域によっては在宅の精神障害者が利用できるサービスはまだまだ十分とはいえず、周囲の理解も不十分であることを知る機会も多い。牛歩の感の強い歴史を振り返ってみて、筆者が思うことは、精神保健活動はあまりにも専門家に任され過ぎてきたせいではないかということである。すなわち精神医療従事者は患者をパターナリズム(父親的温情主義))で囲い込み、寛解状態に至った当事者でさえ病院敷地内のグループホームや社会復帰施設に囲い込み、終生にわたって専門家のケアを受ける図式がみられる。また家族の中には親亡き後の不安から病院に依存的になり、生活保護や障害年金を利用して病院内で生を全うしてくれることを願う人も多い。患者は病院を終の棲家と思い、退院を願う心も徐々に失い、諦観のうちに老いを迎える。今後この状況を打破して精神障害者の福祉向上を図るためには、専門家や家族に全てを任せるのではなく、その周辺広くは地域社会全体の意識を差別と偏見から開放し、ノーマライゼーション理念の浸透した地域をつくっていく必要があるの
ではないか。意識調査からは地域にはかなりの応援団がいることがわかったといえる。民生委員もボランティアも高校生も受け入れ準備はかなり整ってきている。今後住民参加の活動をさらに広げ、すべての住民が輪をつないでいくことでノーマライゼーション理念が地域へ根づいていくものと考えられる。また全国の社会復帰施設の設置運営状況調査からわかったことは、閉鎖的傾向が強い病院に比較して社会復帰施設はかなり地域に開かれた存在であることである。たとえ開放病棟にしても入院患者にとっては世間はあまり近い存在ではないが、社会復帰施設にいる住人にとっては地域は自分達が暮らす場として認識されているのであろうと推察できる。特に社会福祉法人立や公立の施設では、住民参加や地域交流が重視され、ボランティアや社会福祉協議会とのパイプが、病院・保健所・市町村等との連携と同様強く結ばれているようである。これらの住民参加や地域交流のある社会復帰施設で数年間を過ごすことは精神障害者にとっては貴重な体験であろうし、障害を乗り越えて社会へ一歩を踏み出すための貴重な社会資源であるといえる。今後各県の障害者プランに沿ってきめ細やかな施設整備が進むとともに、精神障害者の地域生活を支援する機能がさらに強化され、それらに住民参加や住民理解が得られることによって、彼等の地域での当たり前の暮らしができるように、またノーマライゼーションの理念が地域に根づいていくことを願うものである。
結論
精神障害者に対する偏見は情報不足と接触不足の2者に由来するとの仮説が調査結果から立証されたが、一方においてノーマライゼーションの理念はある程度普及していることもわかった。また全国の社会復帰施設においてはボランティアの参加や地域との交流が進められており、精神障害者が安心して地域生活を営むための様々な努力が払われている。これらのことから、今後保健所の地域精神保健福祉活動はノーマライゼーション理念の啓発をさらに継続推進するとともに、住民参加の実践活動を積み重ねることによってネットワークを広げ、『出合い・ふれあいのあるこころの街づくり』に努めていく必要があると考えられる。

公開日・更新日

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