効果的な保険サービスの提供体制に関する研究

文献情報

文献番号
199700244A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的な保険サービスの提供体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
三笠 洋明(徳島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国は,急速に高齢化社会を迎えており,高齢者に対する効果的な保健サービスの供給体制の確立は緊急の課題となっている。
従来,在宅の高齢者サービスについては,家族の提供が重要な部分を占めていたが,家族形態あるいは意識の変化により,十分なサービスが提供できない場合も増加している。また,介護サービスの整備の遅れなどから,在宅での生活の困難な高齢者は長期間の入所待機を余儀なくされるなど十分にニーズを充たす状態とはなっていない。また高齢者にとっては住み慣れた家庭や地域での生活が望ましいことが指摘されている。こうした観点から,高齢者に対して,できる限り在宅生活が可能になるように24時間対応を視野に入れた支援体制の確立を目指すべきである事が指摘されており,24時間在宅介護支援サービスは,高齢者が在宅で生活する上で非常に重要なサービスであると考えられる。平成10年3月現在,20名を超える対象者に24時間介護支援サービスを提供している自治体は122に上る。しかし,このサービスの質の評価およびその費用に関する系統的な評価はほとんど実施されていない。
そこで,効果的な保健サービスの提供体制を検討する目的で,地域における高齢者に対する24時間介護支援サービスの質の評価を行なうと共に,在宅ケアに要する費用の経済的検討を行った。
研究方法
1. ニーズ調査 T市の24時間介護サービスを受けている高齢者全員(7名) (男性4名,女性3名)を対象として用い,対象者・家族に対する面接調査をMDS(Minimum Data Set)の在宅ケアアセスメント表を用い,平成9年9月に実施した。面接は,在宅介護支援センターに所属するヘルパー,ソーシャルワーカーないし看護婦が実施した。次にCAPs(Client Assessment Protocol)を用い在宅高齢者のケアニーズを評価した。さらに,要する費用について検討を行なった。
2. 現行サービスの把握 現行の介護支援サービスの内容を調査票を用い1.と同様の面接調査により把握した。
3. 介護保険により支給されるサービス 要介護度認定基準(試案)に基づき要介護区分を判定し,MDS-HC CAPsで評価したケアニーズを基にして,介護保険給付範囲内で支給できるサービスについて評価を行った。
以上の情報に基づき現行のサービスをMDS-HC CAPsで評価したケアニーズと比較した。またそれに要する費用についても検討を行った。また,介護保険により提供できるサービスについてもケアニーズとの比較検討を行った。
結果と考察
1)T市における在宅介護支援の概要 5つの在宅介護支援センターが関わっているが,夜間の巡回型ヘルパーを派遣しているのはD支援センターのみである。また,調査時点では昼間は滞在型ヘルパーのみであり,巡回型ヘルパーの派遣は,なされていなかった。
2)本事業登録者の概要 平成8年10月に夜間の巡回型ヘルパー派遣が開始された。登録者は,開始時の10名から徐々に増加し,平成9年7月には15名に達したがその後減少し,9月には7名となった。その後増減はあるものの,ほぼ一桁台に止まっている。
3)トリガーされた問題領域とケアニーズ
MDS-HCでトリガーされた問題領域で,全員がトリガーされた問題領域は,ADL-リハビリテーションの可能性,手段的日常生活能力(IADL),健康増進,施設入所等であった。
各ケースの問題領域毎のケアニーズをCAPsを用いて評価した結果をCase毎に以下に示した。
Case1
74歳,男性,独居,小児麻痺,歩行不能
ADLの問題に対し排泄,入浴介助。IADLに対し洗濯,買い物調理等。 環境評価に関し,段差解消。住宅の老朽化が進み,立替あるいは施設入所の選択が必要となるが,その判断するための体験入所(ショートステイ)等。
Case2
85歳,女性,50歳代の娘と同居,パーキンソン病。ADLに対し排泄等。IADLに関し家事。虐待に対し,ショートステイによる介護者の負担軽減,相談助言。痛みが強く,移動時に2人で対応。環境に対し段差の解消等。
Case3
86歳,男性,息子夫婦と同居,多発性脳梗塞ADLに関しPTによるリハビリ,訓練。IADLに関し家事。認知に関しデイケア・デイサービス。環境に関し段差の解消・手すりの設置。その他多くの問題領域がトリガーされるが,対策を講じる必要はないと判断された。
Case4
74歳,女性,精神薄弱の兄と同居,小児麻痺歩行不能。ADL,IADLに関し身辺介護・家事。健康に関し医師の往診。薬剤管理。
Case5
91歳,女性,独居,脳卒中の後遺症
ADLに関しリハビリ入浴,体位交換。IADLに関し家事。健康・栄養に関し栄養指導,褥創に関し清拭。軽度の痴呆があり火の始末に関し不安があり火災報知器の設置が必要。
Case6
91歳,男性,高齢者世帯,脳卒中,事故が契機で寝たきりになる。ADLに関しリハビリ,排泄等。IADLに関し家事。施設入所・脆い支援態勢に関しショートステイ。排便に関し繊維水分の多い食事とする必要がある。
Case7
83歳,男性,高齢者世帯,脳卒中による後遺症で植物状態になる。
ADLに関し排泄・着替え・体位交換等。IADLに関し家事。健康に関し医師の往診,栄養指導。施設に関しショートステイ。褥創に関し清拭・こまめなおむつ交換。皮膚に関し軟膏塗布。薬剤管理
3)サービスの提供状況 トリガーされた問題領域で指摘されたサービスは,支援センター,その他の施設あるいは家族からそのほとんどはすでに提供されていた。サービスが提供されていない問題領域は,環境評価が4件と最も多く,次いで施設入所の3件,もろい支援態勢の2件等であった。
これらをサービス別に集計すると,ショートステイ6件,住宅改造4件,食事内容の変更,健康チェック,リハビリ,デイケア,火災報知器の設置がおのおの1件づつであった。これら提供されていないサービスは,その提供者が介護支援センター以外の職員,施設により提供されるものであった。
平成9年9月の30日間の夜間に提供されたサービスに関しては,排泄のケアが最も多く,清拭,体位交換等がそれに次ぎ,いずれのサービスも定常的に提供されていた。
4)ケアニーズに要す費用 MDS-HC CAPsで評価したサービスに要する総費用は,231万円であり,1人当たり33万円となった。その内訳は,ホームヘルパーに要する費用が全体の72%を占め,訪問看護サービス(18.8%)とあわせると91.1%となった。
5)介護保険で支給できるサービス また,介護保険の要介護認定ではCase1とCase3が重度,Case2,NULL,Case4~Case7は最重度と推定された。巡回型・滞在型のヘルパーの派遣,訪問看護,デイケア・デイサービス,訪問リハビリテーションが費用を抑制するために削減され,ショートステイが増加する傾向があった。
今回の調査により対象者のケアニーズと現在のサービスの提供状況が明らかになった。全員寝たきりであるために,排泄,入浴などの身体介護ならびにIADLの問題に対応するための家事援助は全Caseが必要としており,その殆どはすでに提供されていた。夜間の排泄体位交換等に関するサービスに関しては,巡回ヘルパーにより定常的に提供されていた。
医療に関するニーズは,医師による定期的な往診や訪問看護婦により提供されるサービス(薬剤塗布)等が主であり量的には少なかった(ほぼすでに提供)。これはいずれのCaseも疾病に関しては慢性期であるため濃密な医療は不要であるからであろうと考えられる。
一方提供されていないサービス(ショートステイ・住宅改造等)は,介護支援センター以外から提供されるサービスであり,ニーズを有するものへの適切な情報提供や,支援センターと他施設等の連携等によりサービスの提供を促進していく必要があると考えられる。
以上のケアニーズに要す費用は,平均月額33万円となった。今回の対象者のようなケアニーズを持つ在宅高齢者は,潜在的に存在していると考えられ,実際にサービスを供給する場合には何らかの公的な支援が必要であろう。
また介護保険で支給される予算内で提供できるサービスを,今回MDS-HC CAPsで評価されたケアニーズと比較すると,特にホームへルパー,訪問看護の項でケアニーズよりも削減されていた。ショートステイに関しては,介護保険による支給量の方が多かったが,これはへルパーや訪問看護のサービス削減による介護者の疲労解消を目的とするものであり,全体としてみるとサービスは不足していると判断される。
従って,寝たきりの高齢者が在宅で生活するためには,介護保険以外のサービスの提供が必要であると考えられ,今後充分な検討が必要と考えられる。
また,T市の在宅寝たきりの高齢者は,200人程度と推定されているが,24時間介護支援サービスの受給者は,今回の調査により7名と少なかった。今後,より多くの在宅寝たきりの高齢者に本サービスを提供するための対策についても検討が必要であると考えられる。
結論
T市の高齢者に対する現行の24時間介護支援サービスを,MDS-HC CAPsで評価したケアニーズと比較したところ,殆どのサービスはすでに提供されていた。サービス提供に要す費用は,1人当たり1月33万円であった。また,介護保険で支給できるサービスは,MDS-HC CAPsで評価したサービスに比べると不足していた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)