骨髄異形成症候群に対する画期的治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200633009A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄異形成症候群に対する画期的治療法に関する研究
課題番号
H16-難治-一般-009
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
三谷 絹子(獨協医科大学内科学 血液)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 誠司(東京大学医学部)
  • 直江 知樹(名古屋大学医学部)
  • 稲葉 俊哉(広島大学原爆放射線医科学研究所)
  • 寺村 正尚(東京女子医科大学血液内科)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学血液内科)
  • 内山 卓(京都大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
MDSの病態解明とこれに基づく画期的治療法の開発を目的とする。
研究方法
(1) ゲノムレベルでのMDS原因遺伝子の網羅的探索
Molecular allelokaryotypingを用いて、MDSゲノムにおけるアレル特異的なコピー数の異常を解析した。また、前年度に同定した7q-の責任候補遺伝子Mikiの機能を解析した。
(2) 特異的遺伝子異常の解析
β-catenin遺伝子の発現を免疫染色で検討した。また、がん抑制遺伝子TELの発現をreal-time PCR法で解析した。
(3) 臨床研究
「低リスク骨髄異形成症候群に対するシクロスポリン療法」および「不応性貧血におけるビタミンK2単独療法ならびにビタミンK2とD3併用療法」の成績をまとめた。
結果と考察
(1) ゲノムレベルでのMDS原因遺伝子の網羅的探索
Molecular allelokaryotypingの結果、従来検出が不可能であったコピー数異常を伴わないアレルのホモ接合(UPD)が多数存在することが明らかになり、これらの領域から複数の候補遺伝子を同定した。また、Mikiは分裂前期?中期の中心体・紡錘糸に局在し、その発現抑制により中心体の分離不全に伴う染色体散乱や多核・小核細胞などMDSと酷似した形態異常が観察された。Mikiのキメラノックアウトマウスの骨髄細胞でも同様であった。
(2) 特異的遺伝子異常の解析
MDS検体では非リン酸化β-cateninが核に蓄積しており、MDSの発症にWnt/cateninシグナルの活性化が関与している可能性が示唆された。また、p53の機能を活性化するがん抑制遺伝子TELの発現がMDSの約15%の症例で低下していることが示された。
(3) 臨床研究
シクロスポリンは約6割の症例に血球回復をもたらした。一方、ビタミンK2は単独で13%の症例に血球回復をもたらしたが、不応例においてもビタミンD3と併用することにより約3割の症例が反応した。
結論
以上の研究により、ゲノム解析研究の技術的革新が達成された。世界に先駆けて予後不良因子7q-の責任候補遺伝子が同定され、機能解析が進められた。また、臨床研究の成果は、低リスクMDSに対する副作用の少ない新たな治療法の確立に貢献するものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200633009B
報告書区分
総合
研究課題名
骨髄異形成症候群に対する画期的治療法に関する研究
課題番号
H16-難治-一般-009
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
三谷 絹子(獨協医科大学内科学 血液)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 誠司(東京大学医学部)
  • 直江 知樹(名古屋大学医学部)
  • 稲葉 俊哉(広島大学原爆放射線医学研究所)
  • 寺村 正尚(東京女子医科大学血液内科)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学血液内科)
  • 内山 卓(京都大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
MDSの病態解明とこれに基づく画期的治療法の開発を目的とする。
研究方法
(1) ゲノムレベルでのMDS原因遺伝子の網羅的探索
Molecular allelokaryotypingを用いて、MDSゲノムにおけるアレル特異的なコピー数の異常を解析した。また、予後不良因子7q-の責任候補遺伝子Titan, Kasumi, Mikiを同定し、その機能を解析した。
(2) 転写制御等の異常によるMDS分子病態の解析
MDS検体におけるTEL、FHIT、NPM1、β-cateninの遺伝子変異・発現異常について解析した。また、RUNX1/EVI1ノックインマウスを作製した。
(3) 新規治療法の確立に向けた臨床試験
「低リスク骨髄異形成症候群に対するシクロスポリン療法」および「不応性貧血におけるビタミンK2単独療法ならびにビタミンK2とD3併用療法」の成績をまとめた。
結果と考察
(1) ゲノムレベルでのMDS原因遺伝子の網羅的探索
Molecular allelokaryotypingの結果、従来検出が不可能であったコピー数異常を伴わないアレルのホモ接合(UPD)が多数存在することが明らかになり、これらの領域から複数の候補遺伝子を同定した。一方、7q-の責任候補遺伝子Titan, KasumiはDNA修復に関与している可能性が示唆された。siRNAによるMikiの発現低下は中心体分離不全により染色体散乱と核分裂異常を誘導した。
(2) 転写制御等の異常によるMDS分子病態の解析
TELの発現低下は15%に、FHITのメチル化は55%に、NPM1の変異は10%に観察された。MDS検体では非リン酸化β-cateninが核に蓄積しており、MDSの発症にWnt/cateninシグナルの活性化が関与している可能性が示唆された。RUNX1/EVI1マウスは胎生造血に異形成を認め、白血病を発症した。
(3) 新規治療法の確立に向けた臨床試験
シクロスポリンは約6割の症例に血球回復をもたらした。一方、ビタミンK2は単独で13%の症例に血球回復をもたらしたが、不応例においてもビタミンD3と併用することにより約3割の症例が反応した。
結論
以上のように、網羅的ゲノム解析および個別遺伝子解析によりMDSの分子病態の理解が進み、治療の標的分子が明らかになった。特に、予後不良因子である7q-の責任候補遺伝子を世界に先駆けて同定したことは大きな成果である。数年間に渡って実施された2つの臨床試験についても治療成績・効果予測因子がまとめられ、日本における新しい治療法の確立に貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200633009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 ゲノム解析技術が革新的な進歩を遂げ、コピー数の増減に加えてアレル不均衡に関する情報を得ることが可能になった。骨髄異形成症候群検体においてコピー数の変化を伴わないアレル不均衡を示すゲノム領域が多数同定され、責任遺伝子の候補が挙げられている。特に、予後不良因子である7q-の責任候補遺伝子Titan, Kasumi, Mikiが同定されたことは特筆に値する。Mikiの発現低下は中心体の分離不全により染色体の正常な再配列を阻害し、骨髄異形成症候群に観察される核分裂異常を誘導することが証明された。
臨床的観点からの成果
 多施設共同研究「低リスクMDSに対するシクロスポリン療法」及び「不応性貧血におけるビタミンK2単独療法ならびにビタミンK2とD3併用療法」が実施された。シクロスポリン治療では約6割の症例に血球回復効果が認められ、効果予測因子としてPNH血球と軽微な形態異常が抽出された。ビタミンK2単独療法では血球回復効果は13%にしか観察されなかったが、不応例においてもビタミンD3を併用することにより約3割が反応した。これらの治療は副作用が少なく、低リスク骨髄異形成症候群の治療として有望であると考えられた。
ガイドライン等の開発
 「特発性造血障害に対する調査研究班」(小峰光博班長)との合同で、「不応性貧血(骨髄異形成症候群)診療の参照ガイド」を作成し、臨床血液47, 47-68, 2006に発表した。このガイドには、疾患概念、診断基準、病型分類、重症度基準、病因・病態、疫学、臨床像、予後、治療指針が記載されている。
その他行政的観点からの成果
 MDSは高齢者に多い難治性の造血障害であり、高齢化社会に向けて確実に増加傾向にあると考えられる。その実態を把握することを目的として、「特発性造血障害に対する調査研究班」(小澤敬也班長)との合同で「骨髄異形成症候群の前方視的症例登録、セントラルレビュー、追跡調査」を開始した。これらの臨床情報とリンクした「骨髄異形成症候群の検体集積事業と遺伝子解析研究」も立ち上げられ、エビデンスレベルの高い分子病態研究を推進する基盤が整備された。
その他のインパクト
 本班のホーム・ページを開設して(http://plaza.umin.ac.jp/?mhlw-mds/index.html)、患者に向けて疾患情報(病態の解説と日本で選択可能な治療法についての説明)を提供するとともに、臨床試験・調査研究の成果を公開している。また、米国ですでに食品医薬品局が認可しているメチル化阻害剤(アザシチジン、デシタビン)、サリドマイド誘導体(レナリドマイド)についても解説している。研究者に対しては、本班の病態研究の成果を公開している。

発表件数

原著論文(和文)
109件
原著論文(英文等)
257件
その他論文(和文)
393件
その他論文(英文等)
43件
学会発表(国内学会)
369件
学会発表(国際学会等)
109件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計10件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sasaki K, Nakamura Y, Maki K, Waga K, et al.
Functional analysis of a dominant-negative ETS TEL/ETV6 isoform.
Biochem Biophys Res Comm , 317 (4) , 1128-1137  (2004)
原著論文2
Kanie T, Abe A, Matsuda T, et al.
TEL-Syk fusion consti-tutively activates PI3-K/Akt, MAPK and JAK2-independent STAT5 signal pathways.
Leukemia , 18 (3) , 548-555  (2004)
原著論文3
Harada H, Harada Y, Niimi H, et al.
High incidence of somatic mutations in the AML1/ RUNX1 gene in myelodysplastic syndrome and low blast percentage myeloid leukemia with myelodysplasia.
Blood , 103 (6) , 2316-2324  (2004)
原著論文4
Ichikawa M, Asai T, Saito T, et al.
AML-1 is required for megakaryocytic matu-ration and lymphocytic differentiation, but not for maintenance of hematopoietic stem cells in adult hematopoiesis.
Nat Med , 10 (3) , 299-304  (2004)
原著論文5
Maki K, Yamagata T, Asai T, et al.
Dysplastic definitive hematopoiesis in AML1/Evi-1 knock-in embryos.
Blood , 106 (6) , 2147-2155  (2005)
原著論文6
Ito Y, Ohyashiki K, Hirai H, et al.
Assessment of the international prognostic scoring system for determining chemotherapeutic indi-cations in myelodysplastic syndrome: Japanese retrospective multicenter study.
Int J Hematol , 82 (3) , 236-242  (2005)
原著論文7
Iwai M, Kiyoi H, Ozeki K, et al.
Expression and methylation status of the FHIT gene in acute myeloid leukemia and myelodysplastic syndrome.
Leukemia , 19 (8) , 1367-1375  (2005)
原著論文8
Ohyashiki K, Shay JW, Ohyashiki H.
Lack of mutations of the human telomerase RNA gene (hTERC) in myelodysplastic syndrome.
Haematologica , 90 (5) , 691-  (2005)
原著論文9
Ohyashiki K, Aota Y, Akahane D, et al.
The JAK2 V617F tyrosine kinase mutation in myelodysplastic syndromes (MDS) developing myelofibrosis indicates myeloproliferative nature in a subset of MDS patients.
Leukemia , 19 (12) , 2359-2360  (2005)
原著論文10
Nanya Y, Sanada M, Nakazaki K, et al.
A robust algorithm for copy number detection using high-density oligonucleotide single nucleotide polymorphism genotyping arrays.
Cancer Res , 65 (14) , 6071-6079  (2005)
原著論文11
Maki K, Yamagata T, Yamazaki I, et al.
Development of megakaryoblastic leukemia in Runx1-Evi1 knock-in chimaeric mouse.
Leukemia , 20 (8) , 1458-1460  (2006)
原著論文12
Sobue S, Iwasaki T, Sugisaki C, et al.
Quantitative RT-PCR analysis of sphingolipid metabolic enzymes in acute leukemia and myelo-dysplastic syndromes.
Leukemia , 20 (1) , 2042-2046  (2006)
原著論文13
Liu Y-C, Ito Y, Hisao H-H, et al.
Risk factor analysis in myelodysplastic syndromes patients with del(20q): prognosis revisited.
Cancer Genet Cytogenet , 171 (1) , 9-16  (2006)
原著論文14
Tauchi T, Shin-ya K, Sashida G, et al.
Telomerase inhibition with a novel G-quadruplex-interactive agent, telomestatin: In vitro and in vivo studies in acute leukemia.
Oncogene , 25 (42) , 5719-5725  (2006)
原著論文15
Hsiao H-H, Sashida G, Ito Y, et al.
Additional cytogenetic changes and prior genotoxic exposure predict unfavorable prognosis in myelodysplastic syndrome and acute myeloid leukemia with der(1;7) (q10;p10).
Cancer Genet Cytogenet , 165 (2) , 161-166  (2006)
原著論文16
Nunoda K, Sashida G, Ohyashiki K, et al.
Translocation (4;12) in myelofibrosis associated with myelodysplastic syndrome: Impact of 12q21 breakpoint.
Cancer Genet Cytogenet , 164 (1) , 90-91  (2006)
原著論文17
Ohyashiki K, Ohyashiki JH.
Reply to Kremer M, et al. The JAK2 V617F mutation occurs frequently in myelodysplastic/myeloproliferative disease, but absent in true myelo-dysplastic syndrome with myelofibrosis.
Leukemia , 20 (7) , 1297-1298  (2006)
原著論文18
Niimi H, Harada H, Harada Y, et al.
Hyperactivation of the RAS signaling pathway in myelodysplastic syndrome with AML1/RUNX1 point mutations.
Leukemia , 20 (4) , 635-644  (2006)
原著論文19
Yamagata T, Maki K, Waga K, et al.
TEL/ETV6 induces apoptosis in 32D cells through p53-dependent pathways.
Biochem Biophys Res Comm , 347 (2) , 517-526  (2006)
原著論文20
Nakagawa M, Ichikawa M, Kumano K,et al.
AML1/Runx1 rescues Notch1-Null mutation-induced deficiency of para-aortic splanchnopleural hematopoiesis.
Blood , 108 (10) , 3329-3334  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-