プリオン複製機構の解明とプリオン病の治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
200633007A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン複製機構の解明とプリオン病の治療法開発に関する研究
課題番号
H16-難治-一般-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
金子 清俊(東京医科大学 神経生理学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 北條 浩彦(国立精神・神経センター神経研究所 遺伝子工学研究部)
  • 桑田 一夫(岐阜大学人獣感染防御研究センター)
  • 八谷 如美(東京医科大学 神経生理学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ヒトプリオン病に対する発症前早期診断を可能とするような効率的なプリオン検出法並びに治療法・予防法の開発である。
研究方法
1.アンフォルジンによるプリオン病高感度診断法の開発(八谷)
昆虫細胞によるバキュロウイルス発現システムをたちあげ発現系のベクター構築を行った。次に、構築したベクターを用い少量の昆虫由来Sf9細胞にてアンフォルジン精製条件を検討し精製系を確立した。

2.NMRによるプリオン蛋白質構造解析を通じたプリオン複製機構の解明と創薬スクリーニングシステムの確立(桑田)
粗視化した分子動力学法を用い,プリオンの正常型から異常型への立体構造変換過程を,原子レベルでシミュレーションした。またこの構造変換を阻止する物質を発見する際に,どこをターゲットとすればよいかを考察した。

3.RNA interference (RNAi)を用いた変異型プリオン遺伝子特異的ノックダウン(北條)
ホタル・ルシフェラーゼ、ウミシイタケ・ルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれコードした発現プラスミドを利用してレポーターアリルを構築し、テストしたsiRNAの変異型アリルに対するノックダウン効果と正常型アリルに対する影響を評価した。

結果と考察
当該期間における研究成果は、以下の4点に集約される。
1.アンフォルジンによるBSEプリオンを含む異常凝集蛋白質の抗原抗体反応による検出感度を大幅に改善する手法を確立した。また、ヒトにも同様活性が存在することを明らかにした。

2.アンフォルジンの極めて高度の解きほぐし活性に対する活性調節機構を付加する事によって、プリオン病を含む、いわゆる蛋白質凝集病の治療法への可能性が示唆された。

3.プリオン分子のダイナミクス情報に基づき、in silicoでの創薬スクリーニングのシステムを確立し、プリオン蛋白質の構造変換を阻止する化合物を発見した。

4.家族性プリオン病の発症予防に着目し、正常アリルは抑制せずに変異アリルのみを抑制するアリル特異的RNAi手法を確立した。
結論
高感度診断法に関しては、PrPSc特異抗体等の同定など抗体側に着目する他の研究グループとは一線を画し、我々は凝集性蛋白質の抗原提示能を飛躍的に改善する手法を開発した。根本治療法の開発に関しては、複合療法への準備として、治療化合物(桑田)、アンフォルジン (八谷)、RNAi (北條)等の単独での有効性を検討した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200633007B
報告書区分
総合
研究課題名
プリオン複製機構の解明とプリオン病の治療法開発に関する研究
課題番号
H16-難治-一般-007
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
金子 清俊(東京医科大学 神経生理学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 八谷 如美(東京医科大学 神経生理学講座)
  • 桑田 一夫(岐阜大学医学部 人獣感染防御研究センター)
  • 北條 浩彦(国立精神・神経センター神経研究所 遺伝子工学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトプリオン病に対する高感度診断法・根本的治療法の開発を目的とする。
研究方法
1.アンフォルジンの応用によるPrPSc高感度診断法並びにプリオン病治療・予防法の開発(八谷)
ピック病脳に蓄積する異常凝集体であるピック小体、パーキンソン病に関わるアルファシヌクレイン、アルツハイマー病に関わるAbeta (1-42)ペプチド、さらにBSEプリオンに関する検討を行った。

2.NMRによるプリオン蛋白質構造解析を通じたプリオン複製機構の解明と創薬スクリーニングシステムの確立(桑田)
プリオン分子における様々のダイナミクスを、CPMG緩和分散法及び粗視化したMDシミュレーション法を用いて検討し、さらに創薬のin silicoスクリーニングを行った。

3.対立遺伝子特異的RNAi活性を評価するシステムの確立(北條)
Gerstmann-Straeussler syndrome(GSS)と関連するP102LとP105L変異、Creutzfeld-Jakob病 (CJD)と関連するD178N変異における変異型アリルに対するsiRNAを設計し、効果を検討した。
結果と考察
1.アンフォルジンの応用によるPrPSc高感度診断法並びにプリオン病治療・予防法の開発(八谷)
アンフォルジンは、BSEプリオンを含む極めて凝集性の高い蛋白質を解きほぐし、抗体による検出能を1,000倍以上改善した。

2.NMRによるプリオン蛋白質構造解析を通じたプリオン複製機構の解明と創薬スクリーニングシステムの確立(桑田)
プリオン分子におけるミリ秒からマイクロ秒の遅いタイムスケールの揺らぎが存在する部位を同定し、in silicoスクリーニングにより同部位に特異的に結合しプリオンの構造変換を阻止する化合物を発見した。

3.RNAiを用いた新たなプリオン病治療・予防法の開発 (北條)
変異型アリルと正常型アリルとの識別を増強するためにsiRNA配列内にミスマッチを導入した結果、アリル特異的ノックダウン効果の増強が認められた。
結論
1.アンフォルジンの応用によるPrPSc高感度診断法並びにプリオン病治療・予防法の開発(八谷)、 2. NMRによるプリオン蛋白質構造解析を通じたプリオン複製機構の解明と創薬スクリーニングシステムの確立(桑田)、 3. RNAiを用いた新たなプリオン病治療・予防法の開発 (北條)を通じ、プリオン病の早期診断・治療法の確立に向けた成果を得た。

公開日・更新日

公開日
2007-04-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200633007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我々は、プリオン病の治療として、PrPCやプリオン生成補助因子との反応部位等、複数の標的を狙う「複合療法」が効果的であると考えており、既に「ドミナントネガティブ効果を有する防御型プリオン蛋白質」や「抗プリオン抗体」を同定し、治療法への応用を検討してきた。また、PrPScを直接の標的とする新しい分子を同定し、アンフォルジンと命名した。アンフォルジンは全く新しいクラスを形成する分子と考えられるため、同様の研究は国内外において存在しない。
臨床的観点からの成果
プリオン病の根本的治療法の開発に関しては、未だ臨床応用には至っていない。しかし、家族性を含むプリオン病の発症予防・治療の可能性が出てきたという事実そのものが、既に発症された方々のみならず、プリオン病発症の危険を有する方々にとっての福音となり得る点は、大きな社会的意義を有すると考える。
ガイドライン等の開発
本科学研究においては特に作成はしていないが、平成15年3月に、主任研究者として「医療機関におけるクロイツフェルト・ヤコブ病保因者 (疑い含む) に対する医療行為についてのガイドライン」を策定した。
その他行政的観点からの成果
毎年、厚生労働省全体で厚生労働科学研究のパンフレットを作成されており、厚生労働科学研究成果の中で優れたものが紹介されている。本研究に関しては、平成18年度終了時点で依頼がなされており、当該資料を送付した。
その他のインパクト
平成16年5月31日 日本経済新聞「正常型プリオン:過剰になると細胞死」
平成16年9月21日 異常プリオンを解く分子発見 BSE治療に期待. 日本経済新聞社など新聞各紙
平成17年1月29日 NHKニュース,「アンフォルジンについて」
平成17年4月5日 日本を変える若きサイエンティスト13人. 「SCIENCE AERA」NO. 19 4/5号 p. 61
平成17年4月-5月 BSE,ヤコブ病研究最前線. 未来館 Science Topics Vol. 2.

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
48件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
37件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hachiya NS, Watanabe K, Sakasegawa Y, et al.
Microtubules-associated intracellular localization of the NH2-terminal cellular prion protein fragment
Biochem Biophys Res Commun  (2004)
原著論文2
Hachiya NS, Watanabe K, Yamada M, et al.
nterograde and retrograde intracellular trafficking of fluorescent cellular prion protein
Biochem Biophys Res Commun  (2004)
原著論文3
Kishida H, Sakasegawa Y, Watanabe K, et al.
Non-glycosylphosphatidylinositol (GPI) -anchored recombinant prion protein with dominant-negative mutation inhibits PrPSc replication in vitro
Amyloid  (2004)
原著論文4
Hachiya NS, Sakasegawa Y, Jozuka A, et al.
Interaction of D-lactate dehydrogenase protein 2 (Dld2p) with F-actin:Implication for an alternative function of Dld2p
Biochem Biophys Res Commun  (2004)
原著論文5
Hachiya NS, Sakasegawa Y, Sasaki H, et al.
Oligomeric Aip2p/Dld2p forms a novel grapple-like structure and has an ATP-dependent F-actin conformation modifying activity in vitro
Biochem Biophys Res Commun  (2004)
原著論文6
Hachiya NS, Sakasegawa Y, Sasaki H, et al.
Oligomeric Aip2p/Dld2p modifies the protein conformation of both properly-folded and misfolded substrates in vitro
Biochem Biophys Res Commun  (2004)
原著論文7
Hachiya NS, Yamada M, Watanabe K, et al.
Mitochondrial localization of cellular prion protein (PrPC) invokes neuronal apoptosis in aged transgenic mice overexpressing PrPC
Neurosci Lett  (2005)
原著論文8
Hachiya NS, Watanabe K, Kawabata MY, et al.
Prion protein with Y145STOP mutation induces mitochondria-mediated apoptosis and PrP-containing deposits in vitro
Biochem Biophys Res Commun  (2005)
原著論文9
Hachiya NS, Ohkubo T, Kozuka Y, et al.
More than a 100-fold increase in immunoblot signals of laser-microdissected inclusion bodies with an excessive aggregation property by oligomeric actin interacting protein 2/d-lactate dehydrogenase protein 2
Anal Biochem  (2005)
原著論文10
Omi K, Hachiya NS, Tokunaga K, et al.
siRNA-mediated inhibition of endogenous Huntington disease gene expression induces an aberrant configuration of the ER network in vitro
Biochem Biophys Res Commun  (2005)
原著論文11
Ohkubo T, Sakasegawa Y, Toda H, et al.
Three-repeat tau 69 is a major tau isoform in laser-microdissected Pick bodies
Amyloid  (2006)
原著論文12
Furuya K, Kawahara N, Yamakawa Y, et al.
Intracerebroventricular delivery of dominant negative prion protein in a mouse model of iatrogenic Creutzfeldt-Jakob disease after dura graft transplantation
Neurosci Lett  (2006)
原著論文13
Ohnishi Y, Tokunaga K, Kaneko K, et al.
Assessment of allele-specific gene silencing by RNA interference with mutant and wild-type reporter alleles
J RNAi Gene silencing  (2006)
原著論文14
Hachiya NS, Imagawa M, Kaneko K
The possible role of protein X, a putative auxiliary factor in pathological prion replication, in regulating a physiological endoproteolytic cleavage of cellular prion protein
Med Hypotheses  (2007)
原著論文15
Hachiya NS, Kaneko K
nvestigation of laser microdissected inclusion bodies
Methods in Cell Biology vol 82:Laser manipulation of cells and tissues  (2007)
原著論文16
Kuwata K, Kamatari YO, Akasaka K, et al.
Slow Conformational Dynamics in the Hamster Prion Protein
Biochemistry  (2004)
原著論文17
Kuwata K
Semi-classical quantization of protein dynamics: Novel NMR relaxation formalism and its application to prion
Prions Food and Drug Safety  (2005)
原著論文18
Sago N, Omi K, Tamura Y, et al.
RNAi induction and activation in mammalian muscle cells where Dicer and eIF2C translation initiation factors are barely expressed
Biochem Biophys Res Commun  (2004)
原著論文19
Ohnishi Y, Tokunaga K, Hohjoh H
nfluence of assembly of siRNA elements into RNA-induced silencing complex (RISC) by fork-siRNA duplex carrying nucleotide mismatches at the 3’- or 5’-end of the sense-stranded siRNA element
Biochem Biophys Res Commun  (2005)
原著論文20
Ohnishi Y, Tokunaga K, Kaneko K, et al.
Assessment of allele-specific gene silencing by RNA interference with mutant and wild-type reporter alleles
J RNAi Gene silencing  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-