阪神淡路大震災時に活動した看護職者の心的反応に関する研究

文献情報

文献番号
199700239A
報告書区分
総括
研究課題名
阪神淡路大震災時に活動した看護職者の心的反応に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
新道 幸恵(神戸大学医学部保健学科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大震災時の活動従事者の心的反応に関する研究は、国内外においても、極めて少なく、特に看護活動従事者に対する研究は皆無に等しい。そこで、我々研究班は、阪神淡路大震災直後より、被災地において居住及び勤務している看護従事者を対象に、震災後8ヶ月目、1年3ヶ月目、2年4ヶ月目に質問紙調査により心的反応を追跡調査してきた。その中で、看護職者の心的反応の強さと震災後の心のケアの必要性を多くの看護職者が認めていることが明らかとなった。そこで、今回は、3年目のPTSD反応及びその影響要因を明らかにし、心のケアの一方法としてのデブリーフィングの効果を明らかにする事を目的として本研究を行った。
研究方法
1.質問紙調査:調査対象は、 被災地区の病院に勤務する看護職者とし、本調査に協力依頼に承諾の得た66病院2845名を対象に震災後8ヶ月時に1回目調査をおこなった。その後、震災後1年3ヶ月目に2回目調査を1回目調査の協力者を対象におこなった。今回追跡調査として3回目は、1回目からの、前回調査協力があった36病院の看護職者1776名を対象者に平成9年4月(震災後2年4ヶ月後)に質問紙調査をおこなった。方法は、病院に質問紙を一括郵送し、各看護職者への配布を依頼した。回収は質問紙を回答後、個々に封をし、病院毎に一括郵送でおこなった。回収は1386、回収率は78.0%であった。
さらにコントロール群として、被災地から遠距離にあるH大学病院に勤務する看護職を対象に平成9年8月に質問紙調査をおこない、回収数は353であった。
心的反応については、質問紙に、GoldbergのGeneral Health Questionare日本語版簡易型(以下GHQと訳す)と植本らにより開発されたPTSD尺度20項目を含めた。PTSD質問項目は4段階リカート法を用いた。「ない」から「いつもある」までで1から4点として得点化し分析した。配点範囲は0から80。GHQの分析は、不安/不眠、社会的活動障害、うつ状態の3つの下位項目においても行った。GHQの配点範囲は0から30。今回のPTSD質問項目の内的整合性に関する信頼性係数はCronbachθ=0.87であった。
2.デブリーフィング
前回の震災後2年4ヶ月後の調査においてPTSD得点42点以上、GHQ得点6以上でかつ対象者の多かった3施設(県立A病院、市立B病院、市内C病院)の看護職者325名を対象とし、デブリーフィングの参加希望を返信用葉書にて募った。回収は103名(回収率31.7%)で、そのうち参加希望者は12名であったが、当日参加した者10名にデブリーフィングを実施した。介入者は2名(1名はファシリテーター、他の1名は観察者)とした。当日参加者全員にデブリーフィングの前にPTSD、GHQの質問紙調査を行い、終了後に参加の感想を無記名郵送法によって得た。
結果と考察
1.質問紙調査
1)対象者の背景:震災による家屋被害を受けた者932人(67.4%)、身体被害を受けた者79人(5.8%)。 
2)心的反応
(1)GHQ(30項目)結果:対象者の得点は3.7であり、1年目12.4、2年目5.8と比較すると年次的に低下しており、長崎の健康な看護職者の得点7.74と比較すると大幅に低下している。また、コントロール群の得点4.2と比較してもかなりな低値を示している。その下位群の値を年次的に比較すると、不安/不眠2.0、(1年目3.0,2年目1.2)、社会的活動障害1.2(1年目2.3,2年目1.8),鬱状態0.63(1年目0.62,2年目0.68)、不安/不眠は、1年次から2年次と大きく低下している、が2年次から3年次にかけては、不安/不眠は逆に高くなっており、社会的活動は低下している。鬱得点は、1年次から3年次まで、横這い状態である。コントロール群は、不安/不眠が2.1で対照群よりも高くなっているが、他の下位群では差がみられない。
(2)PTSD結果:3年次は37.9で1年次の41.3、2年次の41.6に比べると低下している。
(3)GHQとPTSDの関連要因:GHQ得点で、統計的有意差がみられたのは、家屋被害(全壊・一部損壊)とであり、下位群のうち、不安/不眠とでは家屋被害の有無、本人の身体被害の有無とであり、社会的活動障害とでは家屋が全壊ありの場合であった
(P<0.05又はP<0.01)。PTSD値は、家屋被害、身体被害の他に平成7年4月以降復旧復興活動参加の有無、によっても有意な差が認められた。
3)心のケア:震災2年目以降にも心のケアが必要であると回答した人が492(41.8%)あった。
2.デブリーフィング
1)実施中の参加者の反応:震災時の体験を話しながら泣き出したり、思い出すことが苦痛であると訴えたり、あるいは、突然胸痛を訴える人もいた。
2)実施後の参加者の反応:実施後、郵送された感想文には、共有体験が得られ、気持ちの表出が出来て良かった、忘れたいことを思い出さされて苦痛であった等の意見が寄せられた。
結論
1.阪神淡路大震災に於いて、被災地に居住し、災害活動に従事した看護職員のPTSDは年々緩和されており、測定値の平均値でみると、3年目には正常な状態に回復している。
2.災害時に、個人的な被災経験のある人、復旧活動に従事した看護職員の中には、3年目の現在もPTSD反応が残っている人がいる。
3.災害活動に従事した看護職の中には、震災から3年経過してもなお、心のケアの必要性を感じている人が半数近くいる。
4.心のケアの1方法であるデブリーフィングの効果は、対象者の選択及び実施時期を含めて、今後検討する必要がある。
5.3年目以降の心のケアのあり方の検討が今後の大きな課題である。 

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