生活習慣病の予防と患者教育のための日常生活習慣自己分析支援システムの確立

文献情報

文献番号
199700238A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病の予防と患者教育のための日常生活習慣自己分析支援システムの確立
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 裕行(石川県能登中部保健所羽咋センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田島隆俊(石川県保健環境センター)
  • 林宏一(石川県厚生部長寿社会課)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣に明らかに問題がある者は成人の50%にもみられ、住民の健康管理上の重要な課題となっている。60歳未満では食べ過ぎなどの食生活の偏りと運動不足の両方が、60歳以上では主として運動不足が問題となっている。ところで、検診などで生活習慣の改善指導をおこなっても、実際に指導を守って食生活を変えたり、運動を定期的におこなう人は指導を受けた者の1割にも満たない。指導を守ることができない理由を調べると、実際の生活のなかで具体的にどうすればよいのかわからない(緑黄色野菜を食べろと言われても、何を、どのくらい、どう料理して食べればよいのかわからない)、指導内容が実生活に合わない(毎日1万歩も歩く時間がない、3日に1度なら実行できるけれども)など、指導方法や指導内容への不満が多い。生活習慣を確実に変えさせるには、改善目標を具体的に、明確に立て(例えば、夕食の主食のエネルギーを100キロカロリー減らすなど)、時間をかけて目標を達成してゆくこと(まず、3日に1度は夕食のエネルギーを減らす、それができるようになったら、2日に1度のように)、目標達成度を確認すること、専門家が常に相談に応ずるなどの支援体制が必要である。平成8年度に、毎日の食事や身体活動を分析・記録させ、その記録するという行為を通じて生活習慣の問題を理解させ、自己改善を図る日常生活習慣自己分析支援システムを開発した。ところが、改善対象者(特に60歳以上)には、疾患の治療を受けているものが多く、運動指導に伴う事故(捻挫などの整形外科的な疾患や心筋梗塞などの循環器疾患)を防ぐことが必要と判明した。そこで、主治医との連携を図り、通院中の患者もシステムを利用できるように、日常生活習慣自己分析支援システムの改良と確立を企画した。
研究方法
医師から紹介のあった患者(糖尿病や高血圧症)、検診により肥満、高血圧、高血糖、あるいは高コレステロール血症があり生活習慣の改善が必要と判定された者、異常がないが健康管理を望んでいる者など、合計70人(年齢は30-60才、80%は女性)にシステムを利用して生活習慣の自己分析と改善をおこなってもらった。期間は3週間以上とした。対象者には、健康管理への動機付けとして、珠洲の健康談話(健康な老人の体験的な健康管理論)、市販の料理栄養評価データベース(目で見る食品カロリー辞典 おかず・素材編、市販食品&外食編:1998、上村泰子監修;学習研究社)や(エネルギー早わかり;牧野直子、1998;女子栄養大学出版部)、食事記録用テキスト(料理のエネルギー計算方法を説明したマニュアル)、万歩計、自動血圧計(オムロンデジタル自動血圧計 HEM-722C)、デジタル料理はかり(デジタルクッキングスケール 1145ミード・B;タニタ)、ハートレイトモニター(ポーラーハートレイトモニター ビート;キャノントレーディング株式会社)を貸し与え、食事の料理名とその量、食材名とその量、料理のエネルギー、1日の歩数、ストレッチ体操や徒手筋力トレーニングなど身体活動の有無などを生活習慣自己分析記録用紙に記入してもらった。最初に計器の使い方と記録方法を説明し、その後、週1回の20-30分の個別面接をおこなった。記録に基づいて、生活習慣の問題点やその改善方法について相談と指導(口頭と文書)をおこなった。生活習慣分析記録と指導内容は主治医にも知らせ、主治医との連携をとるようにした。料理を、主食、主菜、副菜、汁物、間食の5つに大きく分け、更に、主食は、ごはん、めん、パンの3種類に、主菜は、なま物、いため物、あげ物、焼き物、むし物、煮物、なべ物の7種類に、副菜は、なま物、いため物、煮物
、ひたし、あえ物、酢の物・つけ物の6種類に、汁物は1種類に分けた。間食は、乳製品、果物、菓子(菓子パン)、ジュース、アルコールの5種類に分け(生活習慣自己分析記録紙を参照)、食事の記録をさせた。毎日の歩行時間(歩数)、10種類のストレッチ体操と4種類の徒手筋力トレーニング(図でわかりやすく説明)を実践したかどうか、また、安静時の血圧を記録させた。運動(歩行多かった)に際しては、ハートレイトモニターを携帯させ、心拍数が120-14/分を越えないのないように(年齢にあわせて)自己管理するように指導した。テストランの終了後、標準化自記式質問法から、食事記録用テキスト、測定計器、カロリー辞典などの使用性の簡便性、生活習慣の改善度、健康維持に対する意識の変化などを尋ねた。
結果と考察
生活習慣を改善することが必要な住民は多いが、その需要に保健担当者が充分応えているとは考え難い。食生活を分析するためには、少なくとも1週間分の食事の内容を知ることが必要であるが、指導の現場では、せいぜい2-3日の食事から問題点を指摘し、改善するように働きかけているに過ぎない。しかも、本人の記憶を頼りに、20-30分の限られた時間の中で、食生活や運動習慣を分析しているに過ぎない。そのような分析が、正確であるとは思われない、また、指導の内容が対象者の生活実態に沿わない「一般的な健康教育」になることは当然である。生活習慣の改善活動を住民が受け入れない原因は、そのような指導方法に問題があると考え、我々は日常生活習慣自己分析支援システムを開発した。生活習慣には、食生活、身体活動、そして精神保健までを含めるべきだが、食生活と身体活動の改善を目標にしたシステムの開発をおこなった。いずれは、精神保健までを含めた生活習慣の改善支援のシステムづくりをおこなうつもりである。日常生活習慣自己分析支援システムを利用した対象者の多くは、自分の生活習慣を見直すことができた、改善したいと思うようになったと答えた。栄養学の知識のないものが果たして食事のエネルギー分析ができるようになるかどうか疑問であったが、自己分析を開始した2週間目には、ほとんどの対象者は、食事のエネルギー分析を理解するようになった。その結果、対象者の生活実態にに合わせた具体的な食事指導を行なえた。例えば、住民の生活活動強度は軽いから、標準体重(kg)を10倍した数値(Kcal)(1日のエネルギー消費量は体重Kg当たり約30Kcal、1日に3回の等分なエネルギー摂取と仮定)は1食の適正な摂取エネルギー量であること、その値が腹八分目の感覚である、などの指導が可能となった。また、料理の栄養評価データベースから主食、主菜、副菜、汁物、間食から料理を選ばせ、その合計エネルギーがどのくらい自分の適正エネルギー摂取量に比べて過剰であるか、その結果どのくらい太るかなど計算させることができた。エネルギー摂取の過剰な対象者の食生活を分析してゆくと、主食、主菜、副菜、間食のどれか一つだけに過剰摂取のあるもの、あるいはいずれにも過剰なものなど、いわゆる食べ過ぎと言われる者が更に細かく類型化できることがわかった。偏った食生活や運動不足を更に細かく類型化し、生活習慣の偏りが、生活環境か、あるいは、本人の資質(性格など)によるのかを解明したり、効果的な改善指導法を開発できるかも知れないとの印象を持った。標準化自記式質問法(郵送)から、どのくらい生活習慣の問題を理解しているか、どの程度改善されたと思うかなど、対象者の主観に頼る評価をおこなった。ほとんどの対象者はシステムに肯定的な意見であった。しかし、3週間以上も自発的に生活習慣の自己分析を続けた対象者はわずかであり、継続して記録することは、かなり負担となるとの意見が多く、2週間を1クールとして1年に数回の分析を繰り返す、あるいは、週に2日間だけ分析を行なうなど、長期のシステムの運用には対象者へ配慮が必要と思われた。システム利用の前後の対象者の血液検査データの変化を調べなかったが、今後はどの程度の改善活動が検査結果の改善を引き起こすかなどシステム運用の評価をおこなうつもりである。平成8年度
に住民100人から数週間にわたる食事調査を行ない料理栄養評価データベースを作成した。しかし、今回はそのデータベースをシステムに応用しなかった。これは、データベースを印刷すると費用がかかりすぎる(1冊数万円も)からであった。今回の市販の栄養評価データベース(料理カロリー辞典)は費用も安く(3冊でも合計2800円)、充分にデータベースとしての機能を果たした。レイアウトもわかりやすく、対象者の評判もよかった。しかし、地域によっての食生活が異なることから、住民の食事調査を続け料理栄養評価データベースの拡充を続けてゆくことが必要と考えている。食生活の分析方法に比べ、身体活動の分析方法を充分に開発することができなかった。持久運動が心肺機能の維持に必要であることから、歩行習慣を推奨した。運動に伴う循環器系の事故の防止に備え、ハートレイトモニターを携帯するように指導した。手首や頚部で脈拍数を測ることは一般の人には難しい。したがって、運動指導にはハートレイトモニターを利用することを強調したい。
結論
生活習慣の改善を効果的に行なうには、生活習慣の自己分析を習慣化することが重要である。日常生活習慣自己分析支援システムは、幾つかの改良すべき点はあるが、すでに実用段階に達しており、本システムの普及がそのような習慣の普及に役立つと確信している。
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