効果的な健康づくりのための方策及び提供体制に関する研究

文献情報

文献番号
199700237A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的な健康づくりのための方策及び提供体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
篠井 加津子(岡山県倉敷保健所)
研究分担者(所属機関)
  • 小野寺昇(川崎医療福祉大学)
  • 鈴木和彦(岡山県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 岡山県井笠地区は,井原市,井笠市,浅口群(金光町,鴨方町,里庄町,寄島町)小田郡(美星町,矢掛町,芳井町)と2市7町からなる地区である.岡山県西南部にあって岡山倉敷圏域と福山圏域の中間に位置し笠岡諸島を擁する風光明媚な南部沿岸部と小田川流域の中部そして北部の丘陵性台地からなる機構の温暖な地域である.井原市の人口は約36,000人,笠岡市が約61,000人であり金光町12,000人,鴨方町約20,000人,寄島町約7,000人,里庄町約10,000人,矢掛町約16,000人,美星町約6,000人,芳井町約6000人の地域である.井笠地区管内は総面積が54860平方キロメートル,さらに総人口が174,106人である.井笠地区は都市化進行地域に位置づけられ,老齢人口は約20%とほぼ県平均であるが,小子・高齢化が現在進行中である.
本研究では,これらの背景をもとに,中高年者を対象として,地域の実状に応じた健康づくりを推進するために、住民のニーズを積極的に取り入れた健康学習方法の開発を提示し、実践を通じて地域および対象の特性に応じた健康学習を基本とする評価、および効果的な健康づくり方策を検討した。
研究方法
方法1
岡山県井原市の健康診査の結果,血清総コレステロール値が220~300mg/dlであった者,また尿等,血糖値に以上のあった中高年者81名を対象に,井原市保健センターにおいて3ヶ月間のヘルシーライフ実践講座を行った.実践的な教材としてローインパクトのエアロビクスダンスを開発し講習会開講時に指導者のもと全員で実践を行った.実践講座期間前後に体重,血圧,踏み台昇降による心拍数の測定に加え,中性脂肪およびAPGindexを測定し,さらにアンケートによる意識調査を行った.血圧は,聴診法により測定を行った.循環器系の持久的能力の指標とされる踏み台昇降は心拍数の変動から評価を行った.
加速度脈波の測定は加速度脈波計を用いて行った.
方法2
本研究は,川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科の公開セミナーに参加した中高年の女性16名を対象とした.延べ人数は、約100名となった。公開講座は,1997年8月24日から10月23日の間に1-2回/週,2時間/回の割合で行われた.温水プールは川崎医療福祉大学の施設を用いた.全参加者を対象に陸上安静時,入水後安静時,各プログラム終了時においてそれぞれ血圧及び心拍数の測定を行い水中運動時の循環器系の応答を評価した.1回の講座毎に無作為に一名の被験者を選び,入水後安静時及び水中運動を通して心拍数を測定し、ビデオテープに撮影と同時に録画し,動作と運動強度の係わりを評価した.セミナー期間前後に体脂肪率を測定をし,肥満度を評価した.
方法3
岡山県井原市の健康診査の結果で血清総コレステロール値が220~300mg/dlであった者,また尿等,血糖値に以上のあった中高年者81名(年齢58.8±5.0歳)を対象に,井原市保健センターにおいて3ヶ月間のヘルシーライフ実践講座を行った.講座毎に食生活に関する33問と2日間の食事記入による栄養調査を行い個別の栄養指導を行った.ヘルシーライフ実践講座期間前後に体重,血圧,及び中性脂肪を測定し,同時にアンケートによる意識調査も行った.
結果と考察
結果1
学習前後で中性脂肪は,154.1±103.4mg/dlから116.9±52.0mg/dlに有意な減少傾向を認めた(p<0.0001).
全被験者の血圧の変化について,収縮期血圧が健康学習前127.9mmHgから121.9mmHgと低下傾向(p<0.05)を示したが,拡張期血圧には変化を認めなかった.高血圧群,正常群をそれぞれ比較すると高血圧群では,収縮期血圧が151.7mmHgから133.9mmHg(p<0.001)で有意な減少を認めた.
健康学習後のアンケート結果から,健康と運動について考えるようになったと答えた受講者は25%,ビデオに即してエアロビクスダンスを実践した受講者は全体の88%であった.
結果2
水中運動時の心拍数はアクアビクスを除いて陸上安静時心拍数よりも低値を示した.
陸上での安静時の拡張期血圧と比較すると,井原ダンス後,クーリングダウン後において有意に低値を認めた.
水中リラクゼーションでは,最高心拍数が68bpm,最低心拍数は,クーリングダウン時の61bpm,平均すると70.3bpmであった.
セミナー終了後,体脂肪率の低下を認めた者は15名中9名であった.
結果3
栄養学習・栄養指導実施後の高血圧群において最高血圧の低下傾向を認めた.血中中性脂肪は,学習後有意に低下を示した.栄養調査結果より食物繊維の不足,高蛋白・高脂質の食物摂取傾向を認めたが,個別指導後のアンケート結果から栄養に関する知識の向上及び行動の変容を認めた.
考察1
高脂血症と診断された中高年女性対象に有酸素運動を含む健康学習を行わせた結果,健康に関する意識の向上・行動の変容を認め,具体的な運動実践を含む教材による健康づくりの方策と健康指導の有効性が確認された.
したがって,地域特性に対応したガイドラインの中には,実践指導に付随して,ビデオ教材の項目を加えることが,望ましいと考えられた.同時に提供体制のマンパワーとして健康運動実践指導者と健康運動指導士を加えることがより効果を高めると考えられた.
考察2
健康づくりの為に開発及び,実践提供した教材である水中運動プログラムが,心拍数,血圧及び体脂肪率変化の評価から、実践として効果的であることが示された.公開セミナーのような提供体制を整えるためにも,ガイドラインの中に,健康運動実践指導者と健康運動指導士の充実,さらに資料を受講者にフィードバックすることによってプログラムの更なる充実のためにも地域住民などサービスを受ける側の学習体制,効果等の確認を行うべきである.
考察3
高コレステロール値を示した参加者では,食物繊維不足,栄養素のバランスの崩壊,及び,過剰な栄養充足率などが認められ,明らかに高脂血症および糖尿病など生活習慣病発症のリスクをもっていた.このことに対する栄養学習によって健康・栄養に関する意識の高まり,栄養評価・個別指導によるリスク改善,QOLの向上を認めた.
したがって,今後の地域のニーズに対応した栄養学習などの支援においてはリスクを探し出しそして,リスクを解消させる方策を実践提供することが望ましいと考えられた.栄養教育等に関わる人材の育成が求められる.
結論
 地域の実状に応じた健康づくりを推進するために、住民のニーズを積極的に取り入れた健康学習方法の開発を提示し、実践を通じて地域および対象の特性に応じた健康学習を基本とする評価、および効果的な健康づくり方策を検討した。その結果、今回提示した健康学習方法およびその提供体制は市町村保健センターの機能強化を初め、地域保健サービスの充実に貢献した。特に個人の健康づくりに対する動機づけ、行動変容継続というプロセスの展開を可能とし、その実践を定着させた。

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