上位運動神経優位ALSの分子病態解明と治療薬の開発

文献情報

文献番号
200632039A
報告書区分
総括
研究課題名
上位運動神経優位ALSの分子病態解明と治療薬の開発
課題番号
H17-こころ-一般-018
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
池田 穰衛(東海大学・医学部・基礎医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 祖父江 元(名古屋大学大学院・医学系研究科・神経内科)
  • 岩倉 洋一郎(東京大学・医科学研究所・ヒト疾患モデル研究センター )
  • 青木 正志(東北大学大学院・医学系研究科・神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、選択的な上位・下位運動ニューロンの変性を病因とする難治性神経疾患である。長年にわたる研究にも関わらず未だ分子病態は不明であり、よって有効な治療法もない。本研究は、一群の上位運動ニューロン疾患の原因遺伝子であるALS2遺伝子に注目し、その遺伝子産物であるALS2タンパク質(ALS2)およびその関連因子の分子・細胞・個体レベルでの機能解析を基軸にして、ALSにおける選択的な運動ニューロン変性の分子機序の解明を目指す。併せて、ALSの治療薬および治療法の開発を試みる。
研究方法
平成18年度は、1)ALS2の神経細胞内挙動・分子機能の解析。2)コンジェニック系Als2遺伝子欠損(Als2-KO)マウスの作出。3)神経細胞死抑制新規低分子化合物のALSモデルマウスへの治療効果の解析。4)プロテアソームおよび神経栄養因子を標的とした新規ALS治療法開発。5)中枢神経疾患におけるサイトカインの役割、の5項目の研究を遂行した。
結果と考察
本年度の成果は、以下のように要約される。1)コンジェニック系Als2-KOマウスの作出。2)ALS2が神経軸索伸長促進作用を有することの証明。3)ALS2が細胞でのマクロピノサイトーシスに関与することの発見。4)神経細胞アポトーシス抑制因子(NAIP)を選択的に発現誘導する新規低分子化合物を用いた変異SOD1-tgマウスへの治療効果(発症前投与実験)の確認。5)強力な異常タンパク質分解活性を有する古細菌プロテアソームが変異SOD1の細胞内での分解を強力に促進し、神経細胞毒性を軽減しうることの発見。6)脳脊髄炎の発症においてIL-1およびIL-17が関与することの発見。7)神経栄養因子のALSモデルラットにおける病態進行抑制効果の確認。
結論
本研究により、ALS2遺伝子変異による運動ニューロンの機能障害・細胞死は、ALS2が担う細胞内物質輸送系あるいはシグナル伝達系の異常により引き起こされている可能性が示唆された。今後の研究により、ALS2の個体レベルでの機能が明らかにされ、ALSおよび類縁の運動ニューロン疾患の臨床症候の分子的理解が深まる考えられる。また、細胞死抑制低分子化合物、異常タンパク質分解、および神経栄養因子を標的とした治療法開発をさらに推進することにより、ALS治療法開発への道が開かれるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2007-04-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)