地域における脳卒中の病型変化とそれに対応した保健予防体制の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199700234A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における脳卒中の病型変化とそれに対応した保健予防体制の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小西 正光(愛媛大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 北村明彦(大阪府立成人病センター)
  • 山海知子(筑波大学社会医学研究科研究生)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中の病型変化及びそれをもたらす社会的要因について、地域における実態を解明することにより、近年、その増加が危惧されている脳梗塞の効果的な予防方策を探求する。
研究方法
秋田県I町(人口6,411人)、茨城県K町(17,217人)、大阪府八尾市M地区(21,973人)、愛媛県O市(39,329人)の4地域において、脳卒中発症調査を実施し、文部省総合研究班(沖中班)の基準を用いて脳卒中の判定を行った。脳卒中の病型分類については、発生直後に受診した医療機関を調査し、脳卒中の発生時点から3週間以内にCT検査を行っている場合にはCT所見を中心とした分類方法に従い、高吸収域または低吸収域の有無とその病巣の部位から、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血とに分類した。さらに脳梗塞に関しては、厚生省研究班(小町班)の分類基準により、CT所見による低吸収域の局在と支配血管との関連並びに皮質症状、塞栓源の有無によって、穿通枝系脳梗塞、皮質枝系脳血栓、脳塞栓に分類した。発症調査の期間は、I町1980~1995年(16年間)、K町1981~1995年(15年間)、M地区1992年(1年間)、O市1994~1995年(2年間)である。またO市においては、1996、1997年の2年間にわたって健康診査、頸部超音波検査および食習慣を中心とした生活習慣調査を実施した。健康診査は老人保健法に基づく基本健康診査を、O市住民のうち40歳以上の男女21,024人(男9,616人、女11,408人)を対象に実施した。2年間の累積受診者は4,302人(男1,465人、女2,837人)で、その受診率は20,5%(男15.2%,女24.9%)であった。頸部超音波検査は、O市の健康診査受診者のなかから無作為に抽出した224人(男167人、女57人)に実施した。超音波検査の実施方法は、東芝製SSA-340A(7.5MHz リニアプローブ ;Bモード カラードプラ、パルスドプラ)を用いて行った。頸動脈分岐部の起始部より遠位側15mm及び近位側30mmの範囲の左右両頸動脈及び同部における椎骨動脈を検索した。動脈硬化所見の指標としては、IMT(起始部およびそれより近位10mm、20mmの点におけるIntimal-Medial Thickness)、Plaque数( 検索範囲内でのIMT 1.1mm以上ある場合をPlaqueありとした時のPlaqueの総数)、Stenosis(血管断面積に対する血管壁占有面積)を用いた。食習慣に関する調査については、健康診査受診者のなかから無作為に抽出した1,223人(男317人、女906人)を対象に食習慣アンケート調査を実施した。
結果と考察
脳卒中の病型変化については、長期間継続して発症調査を行っているI町、およびK町において、CT実施率の高い40~69歳の発症例を対象に検討した。I町は、1980~1987年を前期、1988~1995年を後期として、K町では、1981~1987年を前期、1988~1995年を後期として、脳卒中の病型変化をみると、脳出血、穿通枝系脳梗塞は減少傾向にあり、逆に皮質枝系脳梗塞は血栓型、塞栓型ともに増加傾向にあった。70歳以上の高齢者について最近の発症例の病型割合をみると、脳梗塞がもっとも多く、穿通枝系脳梗塞と皮質枝系脳梗塞がほぼ同じ割合でみられた。皮質枝系脳梗塞の病型分類では、男では塞栓型が多く、女では血栓型と塞栓型がほぼ同じ割合でみられた。高齢者の脳塞栓には心房細動の関与を認めた。O市においては、中心部と山間部にわけて脳卒中病型割合を比較した結果、市街地である中心部では、皮質枝系脳血栓が多く、山間部では、脳出血、穿通枝系脳梗塞が多いことが明らかになった。健康診査データの解析結果では、中心部は血清脂質レベルが高く、一方山間部では血圧レベルが高いことを認め、その背景に両地区での食習慣の相違が関係していることを明らかにした。頸部超音波検査による頸動脈硬化の程
度と検診所見との関連を検討した結果では、高血圧、高コレステロール血症、糖代謝異常、喫煙の4つの危険因子の保有数が多くなるほど、動脈硬化有所見率が高くなることを明らかにした。とくに血清総コレステロール値、血圧値と動脈硬化の程度とは密接な関連があり、頸部超音波検査は脳梗塞のハイリスク者を把握するための二次検査として有用であることを認めた。
結論
秋田、茨城、大阪、愛媛の4地域において、脳卒中の病型割合を検討した結果、いずれの地域においても脳梗塞が多くを占めており、しかも近年増加傾向にあることを認めた。脳梗塞のなかでは、穿通枝系脳梗塞が多かったが、40~69歳の比較的若い年齢層では皮質枝系脳梗塞の血栓型が、70歳以上の高齢者では、塞栓型が比較的高い割合を示した。これらの脳梗塞を予防するためには、従来の高血圧予防とともに、高脂血症の予防及び高齢者の心房細動の管理が重要である。また、頸部超音波検査により、脳梗塞のハイリスク者を早期に把握することも二次予防を効果的に進めるために重要である。

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