糖鎖修飾異常による遺伝性筋疾患の病態解明と治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200632017A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖修飾異常による遺伝性筋疾患の病態解明と治療法の開発に関する研究
課題番号
H16-こころ-一般-020
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
西野 一三(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 由起子(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部)
  • 野口 悟(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ともに本邦に患者の多い筋細胞膜タンパク質α-ジストログリカンの糖鎖修飾不全を原因とするα-ジストログリカノパチー(α-DGP)とシアル酸合成酵素遺伝子の異常を原因とする縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles: DMRV)の病態解明と治療法開発を目的とする。
研究方法
αージストログリカン異常を認める肢体型筋ジストロフィーにおいて、fukutin遺伝子変異検索を行なった。α-DGP関連分子複合体の活性測定を行ない、反応産物を分離後、質量分析で同定した。α-DGP新規責任遺伝子の評価法作製のため、責任遺伝子siRNAを骨格筋培養細胞に導入後、ラミニン依存性のアセチルコリン受容体のクラスタリングを解析した。DMRVのモデルマウスとして、ヒト変異型GNEのみを発現する遺伝子組み換えマウスを作製した。
結果と考察
極軽症の肢体型筋ジストロフィーと拡張型心筋症を呈する新しいfukutin変異の臨床型を4家系6名の患者に見いだし、LGMD2Lと名付けた。また、先天性筋ジストロフィー患者の中で、POMT2遺伝子変異を有する例を初めて見出した。Fukutin-LARGE-POMGnT1複合体の酵素化学的特性付けを進め、この複合体酵素反応によって生じる産物を解析から、転移位置が異なる1-2残基のGlcNAcを転移していることが明らかとなった。また上記の同定されたPOMT2遺伝子変異ではその活性が著しく減少していた。培養筋管細胞においてα-ジストログリカン依存的な神経筋接合部様構造の形成を指標に、新規な原因タンパク質の評価法の開発を試みた。その結果、ジストログリカンsiRNAやFukutin siRNAではアセチルコリン受容体のクラスタリングが阻害されており、この方法が、新規責任候補遺伝子の評価に適応出来る可能性が示唆された。ヒトGNEミスセンス変異のみを発現するDMRVモデルマウスの作製に成功した。このマウスは、臨床的・病理学的・生化学的にDMRVを再現する世界初のDMRVモデルマウスであることを示すことを明らかにした。このマウスの開発により、初めて前臨床試験の施行が可能となった。
結論
世界で初めて、fukutin変異による肢体型筋ジストロフィー患者を見いだした。Fukutin-LARGE-POMGnT1複合体の酵素化学的性質を解析するとともに、新規なα-DGP原因タンパク質の評価法の開発を試みた。DMRVモデルマウスの作製に成功した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200632017B
報告書区分
総合
研究課題名
糖鎖修飾異常による遺伝性筋疾患の病態解明と治療法の開発に関する研究
課題番号
H16-こころ-一般-020
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
西野 一三(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 由起子(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部)
  • 野口 悟(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ともに本邦に患者の多い筋細胞膜タンパク質α-ジストログリカンの糖鎖修飾不全を原因とするα-ジストログリカノパチー(α-DGP)とシアル酸合成酵素遺伝子の異常を原因とする縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles: DMRV)の病態解明と治療法開発を目的とする。
研究方法
α-ジストログリカン異常を認める筋ジストロフィー患者を対象とし、fukutinを含むα-DGP原因遺伝子検索を行った。α-DGP関連分子の特異抗体を作製し、その局在解析を行うとともに、fukutin、LARGE、POMGnT1発現系での共沈実験・架橋実験により、複合体形成解析を行った。この複合体または変異体、ならびに、患者組織でのGlcNAc転移活性測定を行なった。また、転移反応産物の質量分析での同定を行なった。POMT活性は発現系を用いて行なった。さらに、新規原因遺伝子産物の解析法の確立のため、遺伝子ノックダウンした細胞培養系でのアセチルコリン受容体の集合を指標として解析した。DMRVのモデルマウスとして、GNEノックアウトバックグラウンドに日本人DMRV患者で最も頻度の高いc.1714G>C (p.V572L)変異型ヒトGNE transgeneを有するマウスを作製し、DMRV分子病態の解析を行った。
結果と考察
POMT2変異による先天性筋ジストロフィーおよびfukutin変異による極軽症の肢帯型筋ジストロフィーと拡張型心筋症を見出した。後者の臨床型は、4家系6名の患者に見出し、LGMD2Lと名付けた。Fukutinはシスゴルジにおいて、LARGEおよびPOMGnT1と複合体を形成すること、この複合体がGlcNAc転移活性を増強することを明らかにした。また、Fukutinの変異体はこの複合体に取り込まれず、活性を上昇させることも無かった。患者組織では活性の減少が見られた。POMT活性は変異POMT2を含む複合体では減少していた。ジストログリカンまたはfukutinノックダウン細胞では
神経筋接合部位様のアセチルコリン受容体の集合が阻害された。ヒトDMRVを再現するモデルマウスの作製に成功した。
結論
界で初めて、fukutin変異による肢帯型筋ジストロフィー患者を見出した。また、POMT2変異による先天性筋ジストロフィー患者を見出した。FukutinがLARGEおよびPOMGnT1との複合体を形成し、この複合体がGlcNAc転移活性を有することを明らかにした。世界に先駆けて、ヒトDMRVを再現するモデルマウスの作製に成功し、前臨床試験への体制が整った。

公開日・更新日

公開日
2007-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200632017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで機能不明であった福山型先天性筋ジストロフィー原因遺伝子の産物fukutinが、LARGE、POMGnT1とともに複合体を形成し、この複合体がα-ジストログリカンへのGlcNAc転移能を有することを明らかにした。世界で初めて、fukutin変異による軽症肢帯型筋ジストロフィーと拡張型心筋症の臨床型を呈する4家系6例の患者を見出した。世界に先駆けて、臨床的・病理学的・生化学的にヒトDMRVを再現する縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)モデルマウスの作製に成功した。
臨床的観点からの成果
Fukutin変異により拡張型心筋症を主徴とする肢帯型筋ジストロフィー(LGMD2L)を来しうることを見出した。POMT2変異による先天性筋ジストロフィー患者を見出した。何れの患者も福山型患者に共通に認められるfukutinの3 kb挿入変異とミスセンス変異の複合ヘテロ接合型変異を有していたことから、本邦では更に多くの患者が見出される可能性がある。世界に先駆けて、ヒトDMRVを再現するモデルマウスの作製に成功し、前臨床試験への体制が整った。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
これまで全く治療法のなかったDMRVに対して、初めて治療法開発への道を開き、患者への希望を与えることができた。
その他のインパクト
DMRVモデルマウスの開発は、米国、イスラエル、日本を含む数カ国で競争が繰り広げられてきた。幸いにも、これまでのところモデルマウスの開発に成功したのは、我々のチームのみである。今後、このモデルマウスを用いることで、各種薬剤を用いたDMRVの根本的治療開発を目指した前臨床試験が初めて可能となる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
第47回日本神経学会総会,第23回小児神経筋疾患懇話会
学会発表(国際学会等)
22件
XIth International Congress on Neuromuscular Diseases.他
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsumura K et al.
Proteolysis of β-dystroglycan in muscular diseases
Neuromuscul Disord , 15 , 336-341  (2005)
原著論文2
Matsumoto H et al.
Congenital muscular dystrophy with glycosylation defects of α- dystroglycan in Japan
Neuromuscul Disord , 15 , 342-348  (2005)
原著論文3
Taniguchi M et al.
Expression profiling of muscles from Fukuyama-type congenital muscular dystrophy and laminin-α2 deficient congenital muscular dystrophy; is congenital mucular dystrophy a primary fibrotic disease?
Biochem Biophys Res Commun , 342 , 489-502  (2006)
原著論文4
Goto K, Nishino I, Haya-shi YK
Rapid and accurate diagnosis of facioscapulohumeral muscular dystrophy
Neuromuscul Disord , 16 , 256-261  (2006)
原著論文5
Tanicguchi M et al.
Aberrant neuromuscular junctions and delayed terminal muscle fiber maturation in α-dystroglycanopathies
Hum Mol Genet , 15 , 1279-1289  (2006)
原著論文6
Wu S et al.
Central core disease is due to RYR1 mutations in more than 90% of patients
Brain , 129 , 1470-1480  (2006)
原著論文7
Malicdan MC et al.
A Gne knockout mouse expressing human V572L mutation develops features similar to distal myopathy with rimmed vacuoles or hereditary inclusion body myopathy
Hum Mol Genet , 16 , 115-128  (2007)
原著論文8
Osawa M et al.
Familial reducing body myopathy
Brain Dev , 29 , 112-116  (2007)
原著論文9
Keira Y et al.
Characterization of lobulated fibers in limb girdle muscular dystrophy type 2A by gene expression profiling
Neurosci Res , 57 , 513-521  (2007)
原著論文10
Liewluck T et al.
Unfolded protein response and aggresome formation in hereditary reducing-body myopathy
Muscle Nerve , 35 , 322-326  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23