保健・医療・福祉ニーズと行動変容に関する研究

文献情報

文献番号
199700233A
報告書区分
総括
研究課題名
保健・医療・福祉ニーズと行動変容に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
國井 修(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきりの過半数を占める脳血管障害の1次・2次・3次予防の実践は、人々の健康及び疾病に対する知識(Knowledge)・態度(Attitude)・行動(Practice)に依存し、特に、生活習慣に対する行動変容なくして予防活動の成功はあり得ない。本研究では、脳卒中発症者および未発症者の保健・医療・福祉ニーズ、健康・疾病に対する知識(K)・態度(A)・行動(P)、またそれらに影響を及ぼす因子を比較検討し、実際に、未発症者のハイリスク集団に健康学習を中心とした介入を行い、KAP変化を観察する。これらを通して、効果的な行動変容をもたらす脳卒中および寝たきり予防対策、ヘルスプロモーションの具体策を検討する。本年度は初年度として、脳卒中患者の健康・疾病に対する知識(K)・態度(A)・行動(P)と予防行動に影響を及ぼす因子を明らかにした。
研究方法
栃木県内6総合病院から平成6年に脳卒中の診断で退院した患者388人に対し、予め研修をした保健婦・看護婦を調査員として、質問票による訪問面接調査を行った。調査項目は、?属性:性、年齢、家族構成など、?知識(K):脳卒中・心筋梗塞はどんな病気か、予防することは可能か、リスクファクターを知っているか、高血圧値および自分の血圧値を知っているかなど、?態度(A):自分の健康に対する態度、各生活習慣に対する態度など、?行動(P):睡眠、労働、朝食、栄養バランス、アルコール、喫煙、運動習慣など、?影響因子:ADL(Katz Index)、QOL(SF-36)、ソーシャルサポート、自己効率(self efficacy)、疾病かかりやすさ意識(illness susceptibility)、疾病罹患原因(locus of control)、主観的健康度などである。
結果と考察
388人中353人(91.0%)より回答を得た。(1)知識: 「脳卒中はどんな病気か知っている」76.5%に比し、「心筋梗塞」を知る者は60.7%と低い。しかし、具体的に、脳卒中とは「脳血管が詰まる」「出血する」の両方を答えられた者は21.1%、いずれか1つを答えられた者は43.1%、心筋梗塞とは「心臓の血管が詰まる」と答えられた者は25.9%と低かった。「脳卒中は予防できる」と答えた者は78.2%と高いが、具体的に挙げることのできた予防法は、食事に留意25.2%、減塩18.4%、睡眠・休息9.7%、運動8.4%、節酒8.1%、血圧コントロール6.8%、禁煙6.8%で、わからないと答えたものも6.4%あった。心筋梗塞については、「予防できる」と答えた者は61.7%、具体的な予防法は、食事に留意14.1%(減塩4.7%、コレステロール・脂肪分の少ない食事3.0%)、睡眠・休息5.7%、運動6.4%、節酒3.4%、血圧コントロール2.7%、禁煙3.7%、わからない10.4%であった。また、「自分の血圧値を知っている」者が87.4%で、「高血圧はどの位の値か知っている」者は61.2%であったが、実際に収縮期血圧値を140または160と答えた者は32.4%、拡張期血圧値を90または95と答えられたものは57.8%であった。
血圧を上げる食事は68.6%、コレステロールを多く含む食事は45.1%の者が知っていた。コレステロールや中性脂肪が高い時になりやすい疾患を知っている者が46.1%、その疾患として脳卒中を挙げた者は45.0%、心筋梗塞は30.7%であった。
(2)態度: 脳卒中発症前に「自分の健康に気をつけていた」者は23.9%であったが、発症後には85.0%と増加している。今後の自分の健康を「少しでもよくしたい」54.2%、「今の状態を保ちたい」43.2%、「積極的に考えたことがない」2.6%であった。また、「現在の生活習慣で変えるべきものがあると」考えている者が30.1%、その習慣は、運動不足15.6%、食事9.3%、飲酒4.9%、喫煙3.6%、睡眠不足・過労3.1%であった。
自分が脳卒中になったのは「運が悪かったため」と考える者は36.9%、「自分のせい」は49.8%であった。また、発症前「脳卒中になる可能性が他人より高い」と考えていた者は14.6%で、その理由として80.0%が「家族や親戚が脳卒中を発症したから」、34.5%が「血圧が高かったから」と答えた。現在「再発の可能性が他人より高い」と考える者は37.0%であった。
また、「現在の健康状態」と「今後の自分の健康に対する態度」から健康指向のタイプを5つに分類すると、積極的健康指向型(現在健康で今後もっと健康を増進したい)36.7%、健康維持指向型(現在健康で今後はそれを維持したい)39.8%、肯定的無関心層(現在健康だが今後の健康維持には無関心)2.2%、回復指向層(現在健康でないが今後健康を回復したい)17.3%、健康非指向層(現在健康でなく今後の健康回復にも無関心)4.0%であった。
(3)行動: 健康習慣指数(Health Practice Index: HPI)定期的な運動、節酒、禁煙、7時間以上睡眠、栄養バランス、朝食の摂取、9時間以下の労働、自覚的ストレスなしの8項目の各々を「守っている」1点、「守っていない」0点として加算したものをとすると、6点以上の良好群は、脳卒中発症前で18.4%であったのが、発症後には60.9%に上昇している。
また、「現在の健康に対する態度」と「実際の健康維持・増進に関する行動」から健康づくりのタイプを5つに分類すると、健康づくり積極層(現在健康に気をつけ、実際に行動している)74.6%、健康維持指向層(健康に気をつけ維持しようと心がけている)19.5%、意識先行非行動層(健康に気をつけている方だが具体的には何も行動していない)5.4%、今後意識層(現在は健康に気をつけていないが今後留意しようと考えている)0.5%、健康無意識層(現在も今後も健康に気をつけていない)0%であった。
(4)関連因子: 現在の健康習慣(HPI)を従属変数、脳卒中や心筋梗塞に関する知識・態度以外に、ADL、自己効率、疾病かかりやすさ意識、疾病罹患原因、主観的健康度などを独立変数として、重回帰分析を行った結果、主観的健康度、脳卒中の家族歴、高血圧に関する知識(血圧値・減塩食)、脳卒中・心筋梗塞に関する知識(病態・予防)、現在の血圧値、降圧剤の服用などが関連因子と考えられた。
分析には、来年度実施予定のコントロール(脳卒中未発症者)との比較を要するが、本年度の調査により脳卒中患者の疾病に関する知識・態度・予防行動が明らかになった。知識として、脳卒中発症により、疾病の病態に関する知識はあっても、その予防、特に生活習慣の中での細かい留意点などを十分理解しているものは少なく、今後の保健指導の中では、各個人の生活に合わせた木目の細かい情報提供と指導が重要である。
また、対象者は脳卒中発症が契機となって、健康維持・増進に対する態度・行動は改善し、積極的に取り組んでいるものが多く、疾病発症が態度・行動を変容させる一因となっている。QOL、主観的満足度、主観的健康度、ソーシャルサポート、ADLなども含め、態度・行動に影響を及ぼす因子を分析中であるが、疾病に関する知識と予防行動には関連性があり、まずは住民に疾病の病態・予防法を様々な手段により十分理解させることが重要である。また、知識と態度・行動の乖離に関連する要因やQOLに関連する要因など、現在分析中である。
来年度は、脳卒中未発症者を対象に同様の調査を実施する予定であり、本年度の調査結果との比較検討により、脳卒中発症が知識・態度・行動にいかなる影響を与えるか、脳卒中発症前の行動変容に関連する因子はいかなるものかを検討する。
結論
脳卒中患者は、疾患発症を契機に、疾病およびその予防に関する知識・態度・行動が著しく改善しているが、未だに具体的な予防法に関する知識は不十分であることが明らかになった。疾病に関する知識は予防行動を左右する因子であることも示唆され、各個人の生活・ニーズに合った木目細かな情報提供・保健指導が必要であると考えられた。

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