重症ストレス障害の精神的影響並びに急性期の治療介入に関する追跡研究

文献情報

文献番号
200632004A
報告書区分
総括
研究課題名
重症ストレス障害の精神的影響並びに急性期の治療介入に関する追跡研究
課題番号
H16-こころ-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部)
研究分担者(所属機関)
  • 辺見弘(国立病院機構災害医療センター 院長)
  • 奥山眞紀子(国立成育医療センターこころの診療部 部長)
  • 稲垣正俊(国立精神神経センター精神保健研究所)
  • 松岡豊(国立精神神経センター精神保健研究所)
  • 橋本謙二(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
  • 森田展彰(国立筑波大学大学院人間総合科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
交通事故被害者調査では事故後1ヶ月時点での精神疾患としては大うつ病が最も多く、16%にのぼった。 PTSDは8%であった。PTSDの有病率はヨーロッパやオーストラリアの先行研究と類似していた。また、事故後1ヶ月時点で31%の参加者に何らかのI軸精神疾患を認めた。二変量解析の結果、運転手ではないこと、事故の記憶があること、生命の脅威を感じたこと、事故直後の心拍数が高いこと、IES-R得点が高いこと、HADS得点が高いことが事故後1ヶ月時点での精神疾患を予測していた。
研究方法
がん告知後のトラウマ研究では114名の乳がん生存者が1年時調査に参加し、この内、76名が3年時調査に参加した。健常対照者からは70名のデータが得られた。合計、184名、316の脳画像データが得られた。1年時調査対象の114名の乳がん生存者の内、14名がPTSDと診断された。114名の年齢は46.9±5.8歳(平均±標準偏差)、身長156.3±5.5cm、体重55.8±8.3kg、教育年数13.3±1.8年、術後経過日数285.1±104.4日、閉経66人(57.9%)、Performance Status: 0が81名(71.1%)、55名(48.2%)が化学療法を、53名(46.5%)が放射線療法を、37名(32.5%)がホルモン療法を受けた。健常対照者70名の年齢は46.0±6.9歳(平均±標準偏差)、身長156.5±5.2cm、体重53.1±7.3kg、教育年数14.3±1.8年、閉経は21名(33%)であった。
結果と考察
本研究班調査により、がん情報開示によるトラウマの脳神経学的病態解明研究に有用なデータベースが構築された。
結論
児童虐待によるトラウマの研究では反復性の対人間のトラウマの被害者に多くみられる症候群であるDESNOSを評価するツールを確立するため、アメリカで開発されたSIDESの日本語版を作成することを目的とした。健常群60名と児童虐待や家庭内暴力などの被害者から成る臨床群53名を対象として信頼性と妥当性を検討した。SIDES日本語版の自記式のCronbachのα係数は生涯診断で0.92、現在診断で0.85、面接のCronbachのα係数は生涯診断で0.95、現在診断で0.80であり、十分な内部一貫性が確認された。

公開日・更新日

公開日
2007-04-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200632004B
報告書区分
総合
研究課題名
重症ストレス障害の精神的影響並びに急性期の治療介入に関する追跡研究
課題番号
H16-こころ-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部)
研究分担者(所属機関)
  • 辺見 弘(国立病院機構災害医療センター 院長)
  • 奥山 眞紀子(国立成育医療センター こころの診療部 部長)
  • 稲垣 正俊(国立精神・神経センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター 室長)
  • 松岡 豊(国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部 室長)
  • 橋本 謙二(千葉大学社会精神保健教育研究センター 病態解析研究部門 教授)
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学大学院人間総合科学研究科精神保健学、児童青年期精神医学 講師)
  • 内富 庸介(国立がんセンター研究所支所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
コホート追跡調査を推進する。事故等による、重症ストレス反応の実態と経過、それに関連する諸要因の変動を、共同研究によって、対象者のライフステージごとに明らかにすると共に、最先端のバイオメディカル技術として、脳の海馬、扁桃体、帯状回などの体積測定、また事故に関連した刺激を用いた機能的脳画像所見(fMRI)などの指標を用い、重症ストレス障害の客観的所見を明らかにする。
研究方法
乳幼児、小児、成人、老人の各年代にまたがって共通プロトコルを用いた追跡研究
結果と考察
交通事故被害者調査では二変量解析の結果、運転手ではないこと、事故の記憶があること、生命の脅威を感じたこと、事故直後の心拍数が高いこと、IES-R得点が高いこと、HADS得点が高いことが事故後1ヶ月時点での精神疾患を予測していた。
がん告知後のトラウマ研究では114名の乳がん生存者が1年時調査に参加し、この内、76名が3年時調査に参加した。健常対照者からは70名のデータが得られた。合計、184名、316の脳画像データが得られた。1年時調査対象の114名の乳がん生存者の内、14名がPTSDと診断された。114名の年齢は46.9±5.8歳(平均±標準偏差)、身長156.3±5.5cm、体重55.8±8.3kg、教育年数13.3±1.8年、術後経過日数285.1±104.4日、閉経66人(57.9%)、Performance Status: 0が81名(71.1%)、55名(48.2%)が化学療法を、53名(46.5%)が放射線療法を、37名(32.5%)がホルモン療法を受けた。健常対照者70名の年齢は46.0±6.9歳(平均±標準偏差)、身長156.5±5.2cm、体重53.1±7.3kg、教育年数14.3±1.8年、閉経は21名(33%)であった。
結論
本研究班調査により、がん情報開示によるトラウマの脳神経学的病態解明研究に有用なデータベースが構築された。
児童虐待によるトラウマの研究では反復性の対人間のトラウマの被害者に多くみられる症候群であるDESNOSを評価するツールを確立するため、アメリカで開発されたSIDESの日本語版を作成することを目的とした。健常群60名と児童虐待や家庭内暴力などの被害者から成る臨床群53名を対象として信頼性と妥当性を検討した。SIDES日本語版の自記式のCronbachのα係数は生涯診断で0.92、現在診断で0.85、面接のCronbachのα係数は生涯診断で0.95、現在診断で0.80であり、十分な内部一貫性が確認された。

公開日・更新日

公開日
2007-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200632004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
交通事故、がん告知によるトラウマ性ストレスのもたらす、PTSDなどの精神的影響の有病率と経過について前方視的に検証した日本で初めての研究である。がん告知については脳容積計測との関連を検討し対照群との間に有意さを見出した。交通事故患者については精神症状と血中BDNFとの関連を検討したが、途中解析の段階でN数が不足していたこともあり、有意な相関は得られなかった。子どもの虐待被害によるトラウマの測定のために、SIDESと呼ばれる尺度の日本語版標準化を行った。
臨床的観点からの成果
交通事故後による精神的被害が社会的にも臨床的にも大きな関心を集めているが、事故後1ヶ月時点では大うつ病が最も多く、16%であり、PTSDは8%であった。交通事故患者の精神医療としては不安抑うつ性の疾患を広く見ていく必要が示唆された。がん告知患者のPTSDは、死の予期不安とも関連しており特殊であるが、PTSD研究で指摘されてきた一部部位の脳容積の減少が確認され、PTSDモデルで対応することの有効性が示唆されると共に、客観的診断評価法の可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
交通事故後の精神的後遺症は司法・労災において大きな問題となっており、精神的後遺症について一定の成果が出された意義は大きい。がん告知後のPTSD等の精神的影響治療コンプライアンスの低下や、将来への悲観による自殺念慮とも結びつくことが指摘されており、告知後の精神医療的対応を推進することががんの余命の向上とも結びつき、がん対策を推進する。子どもの虐待の影響は、知的発達障害との鑑別の上でも重要であり、「子どもと家族を応援する日本」戦略にも寄与する。
その他のインパクト
2006年5月4日NHK18時のニュースにて、分担研究者松岡豊が「交通外傷患者における精神的ストレスに関する研究」についてインタビュー出演。

発表件数

原著論文(和文)
38件
原著論文(英文等)
62件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
40件
学会発表(国内学会)
109件
学会発表(国際学会等)
29件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
森田展彰
児童虐待
司法精神医学第3巻犯罪と犯罪者の精神医学, 第6章家族と犯罪 , 306-323  (2006)
原著論文2
鈴木志帆,森田展彰,白川美也子,中島聡美,菊池安希子,中谷陽二
SIDES(Structured Interview for Disorders of Extreme Stress)日本語版の標準化
精神神経学雑誌 , 109 (1) , 9-29  (2007)
原著論文3
Nobuaki Morita , Ichiro Wada
Job stress and mental health of child-counseling office workers
Journal of Occupational Health , 49 (2)  (2007)
原著論文4
Matsuoka Y, Nagamine M, Inagaki M, et al
Cavum septi pellucidi and intrusive recollections in cancer survivors
Neurosci Res , 56 (3) , 344-346  (2006)
原著論文5
松岡豊,松岡素子,永岑光恵,中島聡 美,金吉晴
がん患者とPTSD
臨床精神医学 , 33 (5) , 699-706  (2004)
原著論文6
Matsuoka Y, Inagaki M, Sugawara Y, Imoto S, Akechi T, Uchitomi Y
Biomedical and psychosocial determinants of intrusive recollections in breast cancer survivors
Psychosomatics , 46 , 203-211  (2005)
原著論文7
Yoshikawa E, Matsuoka Y, Inagaki M,etal.
No adverse effects of adjuvant chemotherapy on hippocampal volume in Japanese breast cancer survivors
Breast Cancer Research and Treatment 2005 , 92 , 81-84  (2005)
原著論文8
川瀬英理,松岡豊, 中島聡美, 西大輔, 大友康裕, 金吉晴
三次救急医療における精神医学的問題の検討
精神保健研究 , 51 , 65-70  (2005)
原著論文9
松岡豊, 稲垣正俊, 吉川栄省, 中野智仁, 菅原ゆり子, 小早川誠, 明智龍男, 内富庸介
がん患者における精神的苦 痛に関する脳画像研究
精神保健研究 , 51 , 33-38  (2005)
原著論文10
西大輔, 川瀬英理, 松岡豊
がん患者のPTSD 症状とその対応
緩和医療学 , 7 (2) , 12-20  (2005)
原著論文11
Yoshikawa E, Matsuoka Y, Yamasue H,etal.
Prefrontal cortex and amygdala volume in first minor or major depressive episode after cancer diagnosis
Biol Psychiatry , 59 (8) , 707-712  (2006)
原著論文12
Nishi D, Matsuoka Y, Kawase E, Nakajima S, Kim Y
Mental health service requirements in a Japanese medical center emergency department
Emerg Med J2006 , 23 , 468-469  (2006)
原著論文13
Matsuoka Y, Nagamine M, Inagaki M,etal.
Cavum septi pellucidi and intrusive recollections in cancer survivors
Neuroscience Research , 6 (3) , 344-346  (2006)
原著論文14
松岡豊, 西大輔
交通事故とPTSD
こころの科学 , 129 , 66-70  (2006)
原著論文15
松岡豊, 大園秀一
がんとPTSD
こころの科学 , 129 , 83-88  (2006)
原著論文16
Inagaki M, Yoshikawa E, Matsuoka Y,etal.
Smaller regional volumes of brain gray and white matter demonstrated in breast cancer survivors exposed to adjuvant chemotherapy
Cancer , 109 , 146-156  (2007)
原著論文17
Inagaki M, Yoshikawa E, Kobayakawa M,etal.
Regional cerebral glucosemetabolism in patients with secondarydepressive episodes after fatal pancreaticcancer diagnosis
J Affective Disorder , 99 (3) , 231-236  (2007)
原著論文18
Matsuoka Y, Nagamine M, Mori E, Imoto S, Kim Y, Uchitomi Y
Left hippocampalvolume inversely correlates with enhancedemotional memory in middle aged healthywomen
JNeuropsychiatry Clin Neurosci  (2007)
原著論文19
Nagamine M, Matsuoka Y, Mori E, Imoto S, Kim Y, Uchitomi Y
Different emotionalmemory consolidation in cancer survivors with and without a history of intrusive recollection
J Traumatic Stress  (2007)
原著論文20
Matsuoka Y, Nagamine M, Uchitomi Y
Intrusion in women with breast cancer. In:Kato N, Kawata M, Pitman RK (Eds)PTSD
Brain Mechanism and Clinical Implications , 169-178  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-