難病の地域ケアシステムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
199700230A
報告書区分
総括
研究課題名
難病の地域ケアシステムの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福永 秀敏(国療南九州病院)
研究分担者(所属機関)
  • 川嶋望(国療南九州病院)
  • 納光弘(鹿児島大学)
  • 川元孝久(加治木保健所)
  • 濱田陸三(国立南九州中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)ALSは神経難病のなかでも特異な立場にある。それはケアに対するマンパワーが甚大であるためALSの長期ケアは、一部の医療機関のみの対応では限界がくる。そこで地域の多くの医療機関が連携し、患者が安心して療養できるケアシステムの構築を目的とした。
2)難病患者の在宅ケア地域支援事業は全国各地の保健所等で取り組みが始まっている。患者が困ったとき、相談したいとき、身近な保健所がきめ細かな対応できたら素晴らしいことである。そのためには医療の連携、協力は不可欠である。地域の中核となる病院が、他の在宅ケアにかかわる人たちと日常的に連携し、調整し、医療やケアにあたることによって始めて難病の地域ケアは可能になる。
研究方法
1)に関しては、1年目の事業により、県下34医療機関の賛同を得てネットワーク会議が発足した。今年度は連携と理解のなかでの実質的なネットワーク作業の実行と点検、情報発信、ALSケア担当者の研修会、ALS患者実態調査、ALS手帳の作成を行った。
2)に関しては?難病相談事業、?訪問事業、?家族会交流育成事業、?ボランティア養成事業、?難病患者支援検討会&学習会を継続して行った。特に?難病患者支援検討会&学習会は地域での円滑なケアの推進にとっては必須であり、定期的に会合を持ち患者の検討や調整、そして学習会を行っている。
結果と考察
 1)鹿児島県では平成8年よりALS医療福祉ネットワークを構築した。幸いにも県下の主に神経内科をもつ医療機関、34の病院が参加している。
主要な活動としては、ネットワーク会議の開催、講演会の企画、その他ALS通信の発行、入院患者の調整、電話相談、医療手帳の作成、県内患者の把握と入院受け入れ患者数と呼吸器装着可能数の調査等を行った。
このうち、医療手帳は糖尿病手帳のようなものであるが、患者の気切や呼吸器装着に対する意志をあらかじめ聞いておくことを大きな目的にしている。救急でみることになった医師も、一応の患者の考えを知ることを目的とし、自分の判断で医療行為を行うことをなんら制限するものではない。また末尾にネットワーク病院の名簿をつけ、緊急の時利用しやすいようにした。ALS通信は月に1,2回事務局から発行しているが、ALSに関する最新ニュース、国の動向、患者の声、入退院状況などの情報を発信している。
ちなみに鹿児島県では、ネットワークを利用したアンケート調査によると、75名のALS患者が把握できた。これは県の医療受給者数96名の76%にあたる。男性41名、女性34名で、在宅61名、入院14名、呼吸器装着者17名である。年代別では60代、70代が多く、地域別では鹿児島市の22名を最高に県下全域に分布し、また多くの患者はネットワーク協力病院でフォローされている実態が判明した。
2) ALS地域ケアの展開
地域保健法の改正に伴い、難病に関する事項(地域での難病に関する総合窓口)が保健所の役割として規定された。保健所は難病患者が生きがいを持ち安心して生活できるように地域環境を整備する仕事を任された。具体的な事業として、在宅ケア支援体制推進事業(相談、訪問、家族会育成、ボランティア養成事業など)と難病対策検討委員会の設置がある。
私達も上記の事業に協力しているが、なかでも「難病支援検討会&学習会」と称する調整会議は地域での保健医療福祉担当者の連携には欠かせないものである。参加者は当院医師看護婦、保健所保健婦、市町村保健婦、福祉課担当者、老人保健施設の保健婦、看護婦、在宅介護支援センターの看護婦、ヘルパーなどであるが、ALSなど地域でケアされている難病患者のサービスの調整にあたっている。例えば姶良町在住の60歳のALSの女性の場合は調整会議で検討した結果、巡回型ホームヘルプサービスなど毎日何らかのサービスが受けられるようになった。
また今後、地域の保健所保健婦に名実ともに在宅ケアのリーダー的役割をになって欲しいとの思いで、当院を利用した入院患者のケア研修、そして在宅医療への同行訪問を呼びかけており、実現しつつある。
結論
 この2年間の活動を通じてALS医療福祉ネットワークは軌道にのり、全国の同種活動の規範になりつつある。またALS等難病地域ケア推進事業は難病支援検討会&学習会などを通じて、地域の保健福祉機関との連携の大きなパイプ゜役に育っている。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)