地域における保健医療福祉の連携に関する研究-在宅慢性関節リウマチ患者の実態調査-

文献情報

文献番号
199700229A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における保健医療福祉の連携に関する研究-在宅慢性関節リウマチ患者の実態調査-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西林 保朗(国立加古川病院)
研究分担者(所属機関)
  • 久保仁志(国立加古川病院、現:明和病院)
  • 阿部修治(国立加古川病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチ(以下リウマチと略す)患者は全国に50-70万人いると推定され、その多くは身体障害となるので、現代の国民病ともいわれている。本研究は現在ようとして捕らえきれない在宅リウマチ患者の実態を把握することにより、保健・医療・福祉連携による重度リウマチ患者の在宅医療を促進し、病診連携を利用したかかりつけ医への軽症リウマチ患者の日常治療の委託を推進することにより、患者QOLの向上を図るとともに、医療の適正配分にも寄与しようとするものである。
研究方法
本年度は以下の三つの研究を行った。(1)平成8年度に調査した391名の通院中止リウマチ患者に対し、生活の状況や医療、福祉の利用の状況をアンケート調査した。(2)重度リウマチ患者の入院治療のスケジュールを作成し、在宅医療関係者を含めた合同カンファレンスを重要視することによって、入院期間の短縮と在宅医療への移行を積極的に行い、その結果を分析した。当院での重度リウマチ患者の入院治療のスケジュールとは以下に示すような流れである。1)入院決定(必要に応じて身体障害者手帳、更生医療の手続きを前もって取るように指導する)、2)入院診療計画加算による入院中の治療に関するインフォームド・コンセント(入院期間は最長3か月までと話しておく)、3)各個の治療やリハビリテーション(以下リハと略す)、4)院内リウマチ教室に参加してリウマチに関する知識を獲得する、5)問題を生じた場合には合同カンファレンスで討議する、6)退院時指導料、退院時リハビリテーション指導料による退院指導、7)外来通院または保健・医療・福祉連携で在宅医療へ移行、8)院外リウマチ教室開催。(3)在宅でのリハの可能性について検討した。在宅でのリハは簡単で毎日継続して行え、しかも効果の上がるものでなければならない。自転車エルゴメーターが適していることを発表してきたが、今回これを用いて1回30分、週4-5回、4週間訓練を行い、その前後で運動負荷試験後の呼気ガス分析で全身持久力の変化を観察した。なお、訓練中の運動負荷は運動負荷試験における嫌気性代謝域値での負荷とした。評価の指標は嫌気性代謝域値、最大酸素摂取量時の分時酸素摂取量、その時の負荷量および心拍数とした。
結果と考察
(1)195名からアンケートの回答が得られた。生活状況では日常生活はほぼ自立が62%、屋内自立が15%、屋内部分介助が10%、いわゆる寝たきりが13%であった。屋内自立例でもその30%前後のものは移動、着替え、入浴、整容などの日常生活動作(以下ADLと略す)に一部介助を必要とした。屋内部分介助例でも30%のものは着替えに、65%のものは入浴に全介助を必要とした。いわゆる寝たきり例では46%のものが食事動作に限っては自立していたが、その他のほとんどのADLでおよそ90%のものは全介助の状態であった。ことに自立してあるいは一部介助で入浴できるものは誰もいなかった。介助者は屋内部分介助例では夫40%、娘30%、嫁15%で、その年齢は43歳~78歳、平均61歳で、高齢の夫が面倒を見ていることが多かった。寝たきり例になると患者が高齢化しているせいかその介助者は嫁が53%で圧倒的に多数を占め、10%以上を占める続柄のものはなかった。身体障害者手帳を持つものは35%に過ぎず、重度障害リウマチである寝たきり例でも31%はこれを保持していなかった。また、寝たきり例の39%のものは治療を受けておらず、88%はリハも行っていなかった。訪問看護なども寝たきり例のわずか8%のものだけしか受けておらず、73%のものは過去にもこれらを受けたことがなかった。寝たきり例の53%もが公的サービスを理解していなかった。保健・医療・福祉サービス
に関する周知方法に問題があるものと考えられる。(2)45名の何らかの問題を抱える入院重度リウマチ患者を合同カンファレンスで検討し、退院、在宅医療への糸口を探り、実践した所、26例、58%は在宅医療に移行できた。その退院時の状態は、介護保険制度運用時に利用される予定の要介護度区分で見れば、重度のケースに当たる要介護度?が47%、痴呆のケースに当たる要介護度?が26%であった。その多くは積極的に家屋改造し、種々の福祉サービスを利用していた。残りの19例、42%の内訳は入院中12例、死亡3例、施設入所2例、手術目的の再入院2例であった。重度リウマチ病棟の平均在院日数は、このような取り組みを開始する前の平成6年度では150日と非常に長かった。保健・医療・福祉連携に力を入れはじめた平成7年度には137日、合同カンファレンスを開始した平成8年度には106日に短縮された。平成9年度に合同カンファレンスの患者紹介にビデオを導入したところ、平均在院日数は83日にまで短縮した。厚生省のリウマチ調査研究でのリウマチ専門施設の入院期間がおよそ150日であることを考えれば、非常に短い入院期間と言えよう。(3)リウマチのスタインブロッカーの機能分類のクラス2:4名、クラス3:11名の計15名で自転車エルゴメーターによる訓練を行った。全身持久力を表す嫌気性代謝域値での分時酸素摂取量はリウマチ患者では健康人の37.5%~97.3%、平均64.3%であった。クラス別による全身持久力の差がみられ、クラス2では健康人の73.8%~91.7%、平均84.6%で少しの低下であったが、クラス3では37.5~78.3%、平均56.9%と大きく低下していた。次に訓練前後での各指標の変化をみる。嫌気性代謝域値での分時酸素摂取量は訓練前は6.23ml/min/kg~17.16ml/min/kg、平均10.59ml/min/kgであったが、訓練後には9.22ml/min/kg~22.20ml/min/kg、平均13.91ml/min/kgに増加した。負荷量は訓練前は11ワット~65ワット、平均33.0ワットであったが、訓練後は25ワット~74ワット、平均46.9ワットに増加した。最大酸素摂取量時の分時酸素摂取量は訓練前は11.63ml/min/kg~33.48ml/min/kg、平均20.75ml/min/kgであったが、訓練後は12.51ml/min/kg~36.63ml/min/kg、平均22.27ml/min/kgに増加した。また、負荷量は訓練前は37ワット~117ワット、平均72.2ワットであったが、訓練後は43ワット~139ワット、平均79.7ワットに増加した。訓練中の心拍数は、訓練開始1週間では98.6beat/min~126.4beat/min、平均116.1beat/minであったが、2週目は94.6beat/min~128.6beat/min、平均113.8beat/min、3週目は91.8beat/min~124.6beat/min、平均110.3beat/minと徐々に低下し、4週目の心拍数は93.0beat/min~125.2beat/min、平均109.5beat/minであった。この減少は3週目以降は統計学的に有意なものであった。15名中14名、すなわち評価時に膝関節痛が出現した1名を除いては、これら全ての指標が改善した。自転車エルゴメーターは下肢関節への体重負荷が減免されるため、身体活動量の少ないリウマチ患者でも全身持久力が増加し、また、運動中の心拍数を監視する機器がなくても、自覚症状によって運動強度を調節できるため、在宅での運動が可能である。
結論
(1)リウマチ医療において、軽症例では病診連携による地域のかかりつけ医での治療が、重症例では保健・医療・福祉連携による在宅医療が望ましいが、現状ではどちらも不十分であると判断される。これらの連携の体系化が急がれる。(2)これを受けて、入院重度リウマチ患者の早期退院を図った。治療、退院難渋例に関して地域の在宅医療従事者を含めて合同カンファレンスを持ち具体策を検討するようにしたところ、保健・医療・福祉連携が促進され、多くの例で円滑に在宅医療へ移行できた。患者紹介にビデオを利用するようにしたところその効果は顕著であった。重度リウマチ患者病棟の平均在院日数は平成6年度に150日であったものが平成9年度には83日に減少した。(3)在宅で行いうる自転車エルゴメーターによるリハで全身持久力が増強した。在宅医療でも重度リウマチ患者のADLやQOLの維持、向上が十分可能であることを示すものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)