地域リハビリテーションの効果的な実施を目的とした保健医療福祉の連携体制に関する研究

文献情報

文献番号
199700227A
報告書区分
総括
研究課題名
地域リハビリテーションの効果的な実施を目的とした保健医療福祉の連携体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 順子(茨城県立医療大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松村秩(茨城県立医療大学)
  • 大田仁史(茨城県立医療大学)
  • 小池和子(茨城県立医療大学)
  • 澤俊二(茨城県立医療大学)
  • 巻田ふき(茨城県立医療大学)
  • 永原久栄(茨城県立医療大学)
  • 大仲功一(茨城県立医療大学)
  • 伊佐地隆(茨城県立医療大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域リハビリテーションは、障害を持つ患者や家族の生活の質を改善するための組織的活動である。本研究では、この活動を効果的に行うために、生活を支える福祉サービスを含む地域ケアシステムの整備、快適な療養環境の調整、適切な在宅医療の提供に注目した。活動に関わる人々は、各々の専門的役割を実施し、さらに他職種との効果的な連携を維持することによって質の高いサービスを提供できることになるが、この方法論についても、まだ十分に検討されていないといえる。
昨年の研究で、医師会立訪問看護ステーションのサービス対象者についてリハビリ専門医が訪問によるリハビリ適応に関する評価を実施し、主治医および関係職種の考えるリハビリの目的が機能回復訓練を重視したものであったことを指摘した。本年は地域リハの本来の目的-地域の組織的活動によって対象者のQOLの向上を図る-を関係者が認識した上で、地域リハにおける組織的連携の実態を分析し、連携の問題点をデータで示し、各組織・専門職の役割について検討する。
研究方法
1)人口6万8千人の市の保健センターの平成9年度援護登録者379人のうち、援護者区分を身体障害とする165人中、自立度判定区分J,A,B,Cに該当し、かつ必要データが得られた112人を対象者として、?登録の経緯(情報提供者)、?初回訪問年月、?自立度、?身障手帳の有無・等級、?主疾患名、?発症日、?最後に受診した病院名、?現在の主治医(病院・開業医)、?市のリハビリサービス(理学療法士主導の保健センターリハ・作業療法士主導の障害デイサービス)、?訪問回数、?老人デイサービス、?年齢を抽出した。2)茨城県内全ての市町村で実施している地域ケアシステム推進事業を本市でも社会福祉協議会に委託して平成6年から行っている。この事業での平成9年11月現在のサービス対象者20人の登録の経緯、キーパーソン、ケアチーム員等を調べた。3)病床数128床の市内B病院において、外来・訪問リハビリ患者で過去に当院入院経験があり、同一診断名でリハ目的の通院3ヶ月以上の患者で平成10年1月19日~4週間に外来を受診した患者18人について、住所、主疾患名、地域サービス等を調べた。4)医師会立訪問看護ステーションのサービス対象者46人について、サービス提供の経緯を調べた。5)特別養護老人ホームに併設された在宅介護支援センターの活動状況を調査した。6)在宅ケアのリスクに影響する感染管理を目的とした療養環境調査を2患者に実施した。7)以上の調査データを情報の共有の視点から分析・検討した。
結果と考察
1)調査対象者とした112人は、保健センターの平成9年度援護登録者で身体障害に区分された165人中、平成9年4月~10年1月までの10ヶ月間に訪問もしくは通所のリハビリサービスを提供した121人の92.6%にあたる。対象者は、65才未満が52人(42.9%)、65才以上75才未満が33人(29.5%)、75才以上が27人(24.1%)、自立度は、J:ほぼ自立(37人、33.1%)、A:準寝たきり(43人、38.4%)、B:寝たきり1(21人、18.8%)、C:寝たきり2(11人、9.8%)である。年齢階級が高くなるにつれて自立度は低下傾向にあった。脳血管疾患が65人(58.0%)を占め、次いで難病、脳性麻痺が各8人、外傷7人、パーキンソン病、脊髄損傷各5人等である。身障手帳のある人が79.5%、発症から初回訪問までの期間が1年以内は19.6%・10年以上は22.3%であった。また、最後に受診した病院は、市内A病院が最も多く39.3%(44人)、市内B病院は14.3%(16人)、他に大学附属病院、国立病院等多様な病院を受診しており、県外の病院も8人いた。現在の主治医が病院医師である人は73.2%であった。一方開業医師を主治医とする人は26.8%であったが、自立度Bでは40.0%、自立度Cでは63.6%であり、開業医師が自立度の低い人の主治医となる傾向があった。また、最後に受診した病院別に開業医師が主治医である割合をみると、市内A病院が13.6%、市内B病院が25.0%であるのに対し、県外の病院は8人中7人(87.5%)、病院不明の場合は6人中4人(66.7%)であった。さらに、発症してから経過の長い人ほど、開業医師を主治医とする割合が多かった。つぎに、対象者の情報を保健センターが何処から入手したかについて検討した結果、家族等からの直接連絡(または来所)による場合が最も多く42.9%、次いで福祉課が31.3%、病院8.0%、開業医師4.5%、保健所・民生委員が各3.6%、介護支援センター1.8%であった。家族等からの直接連絡は自立度の高い人が多く、自立度Bになると福祉課からの情報提供が多くなった。各施設毎の特徴は、開業医師では自立度Cの割合が多く、病院からは自立度A・Bがむしろ多かった。また、保健所からの連絡は4人と少なかったが、うち3人は難病患者に関する情報であった。市の
リハビリサービスは理学療法士主導の保健センターリハ(28人)と、作業療法士主導の障害デイサービス(43人)があり、前者は自立度Aが実施者の60.7%、後者は自立度Jが実施者の72.1%と、対象者の自立度に有意な差があった。2)地域ケアシステム推進事業でのケア実施者20人の登録の経緯は、介護支援センターからが9人(45.0%)、保健婦からが3人(15.0%)、直接コーディネーターヘ・デイサービス職員からが各2人、他に社会福祉協議会・福祉課・民生委員・開業医師が各1人であった。詳細な情報収集は必要に応じて医療保健福祉に関わる関係者複数から行っており、民生委員8人、保健婦5人、社会福祉課6人、有償サービス・ホームヘルパー各5人、病院もしくは開業医師3人、デイサービス9人等々であった。ケア実施者20人のうち9人(45.0%)が保健センターの調査対象者に一致していた。3)市内B病院の通院リハ患者の約25%にあたる18人のうち、12人(66.7%)が市内在住者であったが、保健センターの調査対象者は1人のみだった。B病院は、病床数128床、標榜診療科数20、平均在院日数20.95日、老人保健施設と訪問看護ステーションを併設する2次救急病院である。しかし、最後に受診した病院がB病院であった人(16人)についてB病院から直接保健センターへの連絡はなかった。4)医師会立訪問看護ステーションのサービス対象者46人のうち30人(66.7%)は、開業医師が情報提供者であり、他病院2人、保健センターが5人、介護支援センター・家族が各3人等であった。46人中10人(21.7%)が保健センターの調査対象者に一致しており、また、3人が地域ケアシステム推進事業でのケア実施者であった。5)特別養護老人ホームに併設された在宅介護支援センターの平成8年度の活動は、年間相談実人数が974人、年間訪問実人数540人である。平日1日平均10~15人程度の相談実人数である。相談内容は、福祉サービスに関する事が2841件(40.9%)、次いで医療サービス2022件(29.1%)が多く、介護方法については937件(13.5%)であった。6)療養環境調査は、右脳内出血、糖尿病、C型肝炎を併存し、胃ろうを造設・気管切開している患者と、肺気腫で在宅酸素療法を行っている患者の2例について実施した。前者では、大腸菌群は検出されなかったが、胃ろう造設部には多数のブドウ球菌が、気管切開部を洗浄するブラシを入れたコップ内には多数の細菌と共にカビの存在が認められた。しかし、手洗い指導等を行った後の調査結果は有意に改善した。後者では、妻の手掌および畳から大腸菌群が検出されたが、介護者である妻も介護を必要としており、ホームヘルパーの協力を得て改善を図っている。
結論
各組織・専門職は、独自に地域リハビリテーションの実践に努めていた。病院は外来リハビリを、開業医師は訪問看護ステーションと協同して主に自立度B・Cの人を対象とした在宅医療を、保健センターは理学療法士・保健婦が協同して自立度Bを中心とした機能訓練を、福祉センターでは作業療法士・保健婦による自立度Jを中心とした生活訓練を、社会福祉協議会はコーディネーターが中心となって地域ケアシステムを、介護支援センターは相談事業を、活発に行っていた。それぞれの担当する対象者は、少しずつ重なり合う対象者へのサービスを行っている実態も明らかに出来た。しかし、医療・ケアサービスの継続性の観点からは、各々が地域リハビリテーションのどの部分を担当しているかを理解し、共有すべき情報内容と伝達する適切な時機を知って活動しているとはいえない状況にあった。地域の組織的活動によって地域リハビリテーションの目的を果たすことができることを再確認し、対象者を主体とした連携改善の方法について研究をすすめたい。

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