神経難病に対する地域の医療福祉ネット・ワーク構築に関する研究:進行性筋萎縮症をモデルとして

文献情報

文献番号
199700226A
報告書区分
総括
研究課題名
神経難病に対する地域の医療福祉ネット・ワーク構築に関する研究:進行性筋萎縮症をモデルとして
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 博(国立療養所西多賀病院)
研究分担者(所属機関)
  • 糸山泰人(東北大学医学部)
  • 望月廣(国立療養所宮城病院)
  • 西郡光昭(宮城県健康福祉部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
-
研究費
500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の分子生物学的技術の発達とともに、神経難病に関する多くの基礎研究が報告されている。とくに遺伝性疾患に関しては原因遺伝子異常のDNA解析が進められ、遺伝子治療の可能性も示唆され始めているが、これらの研究成果もまだ実際の治療法に結びつくまでには至っていない。他方、神経難病を含む慢性疾患患者の間には在宅療養志向が強まりつつあり、なかには重症化しても家庭もしくは地域で独立した療養を継続している患者も少なくない。このような状況のもとで、訪問医療ならびに福祉援助などの重要性が高まりつつある。多様化しつつある患者・家族の要望に対して、効率的かつ充分な医療・福祉サービスを提供してゆくためには、病院間および病診連携のみではなく福祉行政機関との機能的連携の充実が重要となる。しかし、神経難病患者、とりわけ運動障害や呼吸障害を有する患者に対する地域医療機関および福祉体制の整備・対応は必ずしも十分とはいえず、患者・家族からみても、医療機関側にとっても多くの問題が残されている。
本研究では進行性筋ジストロフィー(筋ジスと略)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)をモデル疾患として、神経難病に対する地域の医療・福祉サービスの提供体制について研究した。とくに緊急入院、長期入院療養、在宅介護の援助など関わる医療・福祉ネット・ワークをいかに構築しうるかを研究し、現行の法的体制でも実行可能な手順作成を試みることを目的とした。
研究方法
1)1994年に国立療養所西多賀病院内に各職種からなる「筋ジス在宅医療検討会」を設置し、関連諸問題を検討した。さらに翌年は当院関連の筋ジス在宅患者121名に対して、患者背景、療養状況、在宅療養上の問題点、福祉制度の利用状況などに関するアンケート調査を行った。他方、1997年には宮城県内のALS患者数、地域分布ならびに療養状況の概要を調査した。1995年夏より、筋ジス在宅患者に対する訪問医療を通じて小規模の医療・福祉連携の推進を試みた。他方、1994年に県内の神経内科を常設する医療機関および神経難病患者の往診を実施している診療所からなる宮城県神経難病ネット・ワーク協議会を設置した。本協議会を通じて、宮城県保健福祉部とともに各医療施設の機能、神経難病医療への取り組みと問題点、難病関連福祉行政の現状等を調査・協議した。また、1995年からは医療および行政機関に加え患者団体等を交えた検討会を年1回開催し、各自の抱える問題点と解決策、神経難病ネット・ワークの内容とその実動のための具体的な作業事項(アクション・プログラム)を検討した。さらに1996年度末には事務局担当病院を選定し、ネット・ワーク実働に向けて活動を継続した。
結果と考察
1.筋ジス在宅患者アンケート調査では、93名より有効回答をえた。主な結果は,・患者の61%が日常生活に介助を要する障害を有したが,26%はかかりつけ医を持たなかった。・ 34%では介護者がおらず,6%は一人暮らしであった。・保健婦・ヘルパーなどの利用者は9%のみであった。・61%が予後・急変時に対する不安,家庭内の問題,とくに介護者に関する悩みを有したが、30%は相談相手がいないと答えた。・33%以上が訪問医療を希望した。訪問職種は患者の年齢や重症度によって異なっていた。・ 遠隔地在住患者で悩みや問題が多いことが示唆された.訪問医療を通じた聞き取り調査、ALSに関する調査結果も同様であった。なお、訪問医療を実施しながら、地域保健所(保健婦)との小規模連携を試みた。その結果、少数ながら、入院・在宅療養の円滑な連動と福祉サービス利用を実現することができた。
2.一方,1997年における県内ALS 患者は仙台市内34、その他36、計80名であり、後者の12名は仙台市の病院へ、3名は他県の病院に通院中であった。受療先医療機関は、ネット・ワーク協議会参加病院が61名、未参加病院にて受療中の患者が19名であった。人工呼吸器使用者18名中、5名が入院、13名は在宅であり、後者の8名が24時間往診体制をとりネット・ワークにも参加している診療所からの訪問医療を受けていた。
これらの結果は、進行性筋萎縮症患者の顕著な在宅療養志向を裏付けるとともに、医療・福祉サービスの提供体制にまだ多くの問題が残されていることを示唆する。また、個々の患者を中心とした事例研究の重要性、およびネット・ワークが機能するためには診療所の役割がきわめて大きいことも示唆された。
3.神経難病ネット・ワーク協議会では進行性筋萎縮症に関わる医療機関の現状と問題点として、・病名ならびに予後説明に関わる困難さ、・人工呼吸器の不足、・看護・介護職員の不足、あるいは当該職種増員に関する病院側のデメリット、・現行診療報酬体系における長期入院患者受け入れの病院運営上の不利益、・家庭における介護者不足など社会的理由による長期入院患者も少なくない、などの点が挙げられた。
他方、難病患者団体からは、・医療面ならびに福祉資源の地域格差、・在宅療養における喀痰吸引などと医療法とのジレンマ、・通院手段の確保、介護人員の確保、経済的負担の軽減、・長期入所、長期入院可能な施設の増加と充実、・医療・福祉情報の質ならびに提供方法の問題、・行政窓口における諸手続きの簡素化・迅速化などの要望が出された。福祉行政側からは、・宮城県がALS療養環境整備のモデル地区の1つに選定され、・宮城県ならびに仙台市でも神経難病に関わる介護援助やショート・ステイなどの福祉事業も新設・予算化されたが、その利用率は伸びていないこと、などが報告された。(この利用率の悪さは、ショート・ステイが一般医療入院に比較して、病院経営上のメリットが薄いことによると推定される)。
4.その他、・ネット・ワークの実動に向けて、事務局病院を選定した。・非都市部のネット・ワーク参加医療機関の増加をはかった。・協議会のホーム・ページを開設し、活動内容を掲載した。その結果、少数ながらネット・ワークを利用した患者の紹介,入院受け入れ、移送などが行われた。
今回の研究から、以下のようなネット・ワーク構築手順が示唆された。1)準備会を設置し、ネット・ワークの必要性と継続的活動に関する意志統一を図る、2)疫学的調査により、患者の地域分布、福祉資源の利用を含めた療養状況・問題点・要望などを把握する、3)個々の患者を中心とした小規模の医療・福祉連携法の検討、4)各医療機関の特性理解と機能分担、5)医療・福祉行政機関ならびに患者団体との連携、6)診療所を含む各医療機関に対するネット・ワーク参加促進、地域医師会との連携、などである。ただし、これらは医療機関主導でスタートした場合の手順であり、地域特性によっては、当初から行政主導で始めた方が円滑に進む可能性も考えられる。いずれにしても、ネット・ワーク構築作業がある程度進展した後には、医療機関、行政機関,患者団体との協議を継続することがもっとも重要と考えられる。
結論
進行性筋萎縮症をモデルとして、神経難病に対する地域の医療・福祉ネットワーク構築について研究した。専門医療機関、診療所、行政機関を含むネットワーク協議会を設置し、各種調査、患者団体との協議、ならびに実践を通じてネットワークの実働させながら、ネットワーク構築のための具体的作業手順を提唱した。

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