寝たきり老人の介護力と医療費との関連に関する研究

文献情報

文献番号
199700221A
報告書区分
総括
研究課題名
寝たきり老人の介護力と医療費との関連に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安西 将也(昭和大学医学部公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 坂本雅昭(群馬大学医学部)
  • 村井龍治(龍谷大学社会学部)
  • 山路雄彦(群馬大学医学部)
  • 渡辺由美(昭和大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきり老人はその心身の状況に応じて保健・医療・福祉に関する多様なニーズを持っており,地域においては保健・医療・福祉関連機関が連携を図りそのニーズに応じた総合的かつ効果的なサービスを提供していくことが重要である。また,人口の高齢化に伴う老人医療費の増高は重要な問題となってきている。そのため,ニーズに応じたサービスを提供するための具体的な基準や評価方法の設定が重要であるので,これらに資するため昨年度に引続き家族介護と介護支援サービスと老人医療費との関連を検討した。
研究方法
調査対象は老人医療費の全国順位の低位県,高位県を考慮して,山形県(7市1町1村),岡山県(7町),佐賀県(4市5町)の3県25市町村を調査対象とした。なお,昨年度は長野県,福岡県を対象とした。また,調査対象とした市町村に在住する70歳以上老人の中から山形県1,210人,岡山県1,367人,佐賀県1,102人の計3,679人を調査客体として無作為に抽出した。調査方法は調査客体とした3県の老人に対し,保健婦を調査者として「老人実態調査」を実施した。その内容は性,年齢,ボケの有無,寝たきりの有無,介護者の有無と介護者種類,介護内容,介護支援サービスの有無などとした。また,「老人医療費調査」として国民健康保険団体連合会の協力を得て,「老人実態調査」の対象者の平成8年10月から平成9年3月までの半年間の老人医療費(点数,日数)をレセプト(山形県13,218件,岡山県11,854件,佐賀県9,999件)から把握した。なお,本研究では老人入院外医療費に注目したため,最終的な分析対象者は山形県1,181人,岡山県861人,佐賀県984人となった。また,PC-SASを用いてt検定,林の数量化?類分析などの統計分析を行った。
結果と考察
本研究は寝たきり者の入院外医療費と主に介護力(家族介護と支援サービス)との関連に注目したものである。なお,従来から老人医療費には都道府県格差があることが知られているため,都道府県別の老人入院外医療費の平成7年度順位を考慮して調査対象とした。まず,3県の1人当たり点数を比較したところ山形県,岡山県,佐賀県の3県ともに寝たきり者の方が非寝たきり者よりも高いことがわかった。また,寝たきり者の1人当たり点数には県間に差が認められないことがわかった。
すなわち,地域性によって医療費ベースが異なっていても「寝たきり者は非寝たきり者よりも医療費が高いこと」および「寝たきり者の医療費に地域差がみられないこと」を明かにしたことは重要であると考えられた。
そこで,1人当たり点数の構成要素である1人当たり日数を検討した。なお,1人当たり点数は1人当たり日数と1日当たり点数の積で求められる。その結果,1人当たり日数は佐賀県では差は認められなかったが,山形県,岡山県の2県では寝たきり者の方が非寝たきり者よりも1人当り日数が有意に短いことがわかった。
すなわち,これは山形県,岡山県,佐賀県ともに寝たきり者の1日当たり点数が高いことつまり1回当たりの医療費が非寝たきり者よりも高いことを意味していた。したがって,寝たきり者が医療を必要とした時は非寝たきり者よりも重篤な状況の者が多いことがうかがえる一方,往診による往診料や在宅指導料などの加算が医療費を高額化していることも予想された。
また,寝たきり者が男の場合と女の場合では種々の条件が異なることが予想されたため,性別に1人当たり点数,1人当たり日数を検討したところ,3県の男女ともに寝たきり者の1日当たり点数が高いことつまり1回当たりの医療費が非寝たきり者よりも高いことを示唆していた。
そこで,次に家族の介護内容,介護支援サービスの内容と寝たきり者の医療費との関わりを検討するために,1人当り点数を目的変数とし,年齢階級,ぼけの有無,介護者種類,家族介護の内容,介護支援サービスを説明変数とした数量化?類分析を県・性別に行った。
その結果,高い寄与率は得られなかったものの寝たきり者の医療費に関わる主な要因は県,性によって以下の特徴があることが明かとなった。
1)山形県 男では80歳以上,ぼけ,食事,入浴,コミュニケーション,寝返り,体を起こす,外出,配偶者・息子などが医療費の増加に,デイサービス,デイケアなどが減少に影響することがわかった。また,女では70-79歳,ぼけ,食事,入浴,排泄,体を起こす,外出,配偶者・息子・娘などが医療費の増加に,ショートステイ,デイサービス,食配サービスなどが減少に影響することがわかった。
2)岡山県 男では80歳以上,食事,排泄,室内移動,外出,床ずれ,配偶者などが医療費の増加に,ホームヘルパー,ショートステイ,デイサービス,入浴サービス,食配サービスなどが減少に影響することがわかった。また,女では70-79歳,ぼけ,食事,入浴,体を起こす,室内移動,外出,夜間,配偶者・娘などが医療費の増加に,ショートステイ,デイサービス,入浴サービス,食配サービスなどが減少に影響することがわかった。
3)佐賀県 男では70-79歳,食事,入浴,体を起こす,室内移動,外出,床ずれ,夜間,嫁・娘などが医療費の増加に,ホームヘルパー,ショートステイ,デイサービス,入浴サービス,食配サービスなどが減少に影響することがわかった。
今回の調査では寝たきり者の介護度は把握できなかったが,対象とした寝たきり者の中では概ね入浴,排泄,外出などの介助を受けている者の医療費が高く,ショートステイ,デイサービスなどを利用している者の医療費が低い傾向がみられたことは重要と考える。
すなわち,この入浴,排泄介助などは寝たきり者の疲労を増加させる大きな要因であることも指摘されているため,今後,要介護者の自立向上のためのショートステイ,デイサービスなどの適切な支援は介護者の介護負担軽減ばかりでなく,老人医療費の対策のためにも必要であることが示唆された。
また,家族の介護力は介護者の年齢や誰が介護するのかなどと深く係わっていることが予想されたが,数量化の結果,介護者種類のレンジが大きかったことから,介護者の介護力は老人医療費とも深く関わっていることが示唆された。
また,本調査研究においては寝たきり者の個々の在宅サービスの利用頻度は不明であるが,地域の支援サービスは利用しているがその利用回数が少ないための補充として,通院したり往診などを受けている者も少なくないことがうかがえた。したがって,言わばこのような在宅サービスの代替として医療サービスが医療費を高くしていることも予想された。
今後,地域の在宅支援サービスの整備の強化はもちろんのこと個人毎に各種サービスの利用頻度の見直しをするなど適宜適切なケアプランの作成が医療費の軽減のためにも必要であろう。
以上,県別,性別に入院外医療費と主に介護力(家族介護と支援サービス)との関連を検討した結果,地域特性毎に寝たきり者の性を考慮した上で家族介護内容に応じた適切な支援サービスを提供することは,寝たきり者の自立の向上や介護者の介護負担の軽減ばかりでなく,老人医療費対策の面からも必要であることを明らかにした。
一般に老人医療費の増高要因としては,医療機関数や病床数などの医療整備内容,患者の疾患や重症度などが知られているが,今回の調査研究では入院外医療費に注目したことから,言うならば在宅福祉サービスの代替としての社会的往診も老人医療費に影響があることが予想された。そのため,西暦2000年に導入が予定されている介護保険の給付サービスが前述した社会的入院,不必要受診あるいは社会的往診などにどのように影響するかを把握することは重要であり,今後の高齢者介護サービス体制の整備を図る上で医療費の面からの検討も必要であると考える。
結論
昨年度の結果と同様に老人医療費が3県ともに寝たきり者の方が非寝たきり者と比べて高いことを明らかにした。また,家族介護と介護支援サービスが要介護老人の医療費に与える影響を数量化?類分析によって検討した結果,県,性によって医療費に与える主な要因とその重みがそれぞれ異なることを明らかにした。また,医療費が高い要介護老人の家族介護内容と医療費が低い要介護老人の受けている介護支援サービス内容を明かにした。今後,地域特性を考慮した上で,更に地域を追加して継続研究していくこととしている。

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