母子保健事業の地域における保健医療福祉と教育との連携の確立に関する研究 -地域保健法改正後の小規模町村での試み-

文献情報

文献番号
199700220A
報告書区分
総括
研究課題名
母子保健事業の地域における保健医療福祉と教育との連携の確立に関する研究 -地域保健法改正後の小規模町村での試み-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 博英(筑波大学心身障害学系)
研究分担者(所属機関)
  • 徳田克己(筑波大学心身障害学系)
  • 片岡ゆみ(筑波大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成6年の地域保健法ならびに母子保健法の改正に伴い、平成9年度より対人サービスは、基本的に市町村で一元的に事業展開することとなった。この間、主任研究者は、平成6年度から茨城県土浦保健所の委嘱を受けて、地域保健推進特別事業「土浦保健所管内早期療育システムづくり事業」の検討委員会委員長として参画した。その結果、特に、人口規模の小さい町村では、母子保健事業に限っても、社会資源が少なく、また、従前からの対人サービスに関する業務実績の積み重ねも充分とは言えず、平成9年度からの地域保健法の完全施行にも、不完全な体制づくりのまま突入した感は否めない。全国的な視点からも、これら圧倒的な数を占める小規模自治体が、その規模に応じた独自の展開を推進する上での指針となるべき規範を明示した研究は稀れである。そこで本研究は、母子保健事業を通して、今後の市町村における対人サービスのあるべき方向性を、特に小規模町村の保健福祉事業の整備という立場からの実践研究の一環として行われたものである。
研究方法
 母子保健を中心とした自治体における先駆的な試みについて、文献で渉猟し得た情報を整理し、原則としてそれら先進地に出向いて、それぞれのシステムの確立に関わった複数の職種のスタッフに直接聞き取り調査を行ない、歴史的過程、ならびに連携の確立に向けての各関連機関の役割などを中心に実態調査を行った。
次いで、予備研究において現状の母子保健事業の実態調査を行なった市町村のうち、M村では保健婦を中心に意識改革が進み、平成8年度に「M村統合保育検討委員会」が、平成9年度には「M村早期療育システム委員会」が村長主導のもとに事業として企画された。そこで、M村における乳幼児健康診査体制の見直しを行ない、とくに乳幼児の発達に関するチェック項目の確認とその後の経過観察の方法についての改善を中心に早期療育体制のモデル研究を推進することとした。
また、社会資源の乏しい小規模町村での事業システムの確立には、現存の関連する諸機関との効果的な連携の確立が必須である。そこで、M村とともに幼稚園、保育所との連携に関して、その重要性を理解したY町において、発達相談員あるいは巡回相談員として実地に母子保健事業に加わり、具体的な事例のやり取りを行ない、その上で、関連機関とくに教育に関する機関との連携のあり方について研究した。
結果と考察
 母子保健事業に関して発見から治療、療育、家庭支援までを一貫して特定の機関で提供できるのは、大規模市町村のみである。しかし、その場合でも中核となるキーパーソンの存在が不可欠である。翻って小規模町村では、一貫した療育対応機関の樹立は望むべくもなく、仮に広域対応としての機関を想定できても、その運営、維持については多くの問題点を抱える。従って、小規模町村では、役場自体が、既存の事業やその機能を再構築して、その中核的役割を担わざるを得ない。
モデル自治体での乳幼児健康診査の見直しの結果、1歳6カ月児健康診査では、児の発達状況についての客観的な把握ができておらず、健康診査後のフォロー数が至って多くなり、その反面そのほとんどの事例において、3歳児健康診査まで有効な経過観察が行われず、適切な対応が施されていないことが分かった。3歳児健康診査では、それまでの継続的な発達の評価がなされておらず、その結果、問題を抱える多くの事例で、この時点で初めて発達の異常を客観的に指摘されることが少なからずあった。そこで、健康診査体制の枠組みを、乳幼児期の一貫したシステムに改良すべく、健康診査内容の整理を行ない、特に実施方法を集約した精神発達に関する乳幼児健康診査マニュアルの作成を行った。
社会的資源に乏しい町村で、もっとも問題となるのは、どの機関と、どのように連携するかということである。療育に関わる機関そのものが少なく、また地理的にも行政区画の上からも遠隔地にある現状からは、幼稚園、保育園における統合保育の実施とその充実は必須の課題である。今回のモデル地区においても、当初は保母など現場からの不安、あるいは負担増などから抵抗感も強かったが、具体的な事例を通じて充分な意見を交換し、また巡回相談事業の充実を図ることにより、連携の実をあげつつある。今後は、その延長上としての就学指導まで繋げた教育との連携を視野に入れた取り組みが肝要である。
結論
1。母子保健事業からみて、自治体の規模により固有の特色と問題点を抱えている。
2。小規模町村における母子保健事業は町村役場がその中核を担わざるを得ない。
3。現場や保護者からの声あるいはボランティアの力が行政に反映されることが、期待できない時には行政主導での施策として事業展開が望ましい場合もある。
4。事業の継続には、人的資源の育成とともに、事業の継続的な見直しが肝要である。
5。事業システムの中で、外部の専門家の位置付けを明確にした上で組み込むことにより、行政と実務との橋渡し役を果たすことも可能である。
6。連携を実のあるものとするには、具体的な事例のやり取りを集積することである。
7。健康診査の見直しは、チェック項目の再確認と経過観察の確立が重要である。
8。発達相談事業、母子通園事業は、健診の事後システムと連携してその機能する。
9。療育に関する社会的資源の乏しい小規模町村では、幼稚園、保育所での統合保育への理解とその実施、充実が不可欠である。
10。幼稚園、保育所との連携を密にするには、巡回相談事業の実施とその充実である。
11。学齢に達するまでの間、特に就学指導に向けての保護者への支援は、教育との連携のために今後とも充実させねばならない。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)