ペプチド抗体によるSARS(重症急性呼吸器症候群)診断の迅速化

文献情報

文献番号
200628011A
報告書区分
総括
研究課題名
ペプチド抗体によるSARS(重症急性呼吸器症候群)診断の迅速化
課題番号
H16-新興-一般-040
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
伊東 恭悟(久留米大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月 健彦(国立国際医療センター)
  • 七條 茂樹(久留米大学 医学部)
  • 切替 照雄(国立国際医療センター研究所)
  • 小松 誠和(久留米大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、1)昨年度までに同定したSARSウイルス構成タンパク質由来の3種類のペプチドを用いた迅速診断法の確立、2)患者抗体が認識するT細胞エピトープペプチドを同定することによりペプチドワクチン治療への応用を検討することを目的として研究を行った。
研究方法
血液:非感染者末梢血はインフォームドコンセントをとった上で採血した。リコンビナントタンパク質:切替分担研究者が作成したものを、本研究にも用いた。ウサギ抗ペプチド抗体:昨年度作成したウサギ抗S791抗血清を用いた。抗体の測定:急性期感染患者血清でのN161とS791に対する抗体の測定をELISAで行った。CTLの解析:健常人および前立腺がん患者末梢血から分離した単核球細胞をペプチドとともに培養する。CTL活性はIFN-ガンマー産生を指標にELISA法で検出した。さらに、細胞傷害活性は標的細胞を51Crで標識し、定法により測定した。遺伝子解析:ペプチド配列のホモロジー検索、および遺伝子の発現情報は、NCBIのホームページにより解析した。リアルタイムPCR: 遺伝子発現はABI PRISM 7000を用いて遺伝子を増幅して行った。
結果と考察
①本年度は切替らがリコンビナントタンパク質の作成に成功したことから、これらの抗原のイムノクロマトへの応用可能性についても検討した。その結果、強い交差反応性が認められたこと、難溶解性のため測定系の構築が困難であることが判明した。②N161とS791に対する抗体を中国人SARS-CoV急性期感染患者血清で測定し(Dr.Yanとの共同研究) N161は42%の陽性率にとどまったが、S791は測定した検体すべてが陽性だった。③感染者および非感染者ともに抗体価の高いK532-74ペプチドは非感染者末梢血を刺激することにより細胞傷害活性を有するT細胞(CTL)を誘導できることが分かった。
結論
S791に対する抗体が感染後6ヶ月採血血清では陽性率が約50%だったのが、中国との共同研究で急性期患者血清では高率に検出できることが分かった。また、CDS1由来HLA-A2拘束性ペプチド(K532-74(YLTFyFTNDV)によって非感染者末梢血リンパ球から非感染細胞に対する細胞傷害性T細胞を誘導することを明らかにした。このことから、感染者の一部で重篤な肺炎へ移行する機序の解析に重要な可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2007-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200628011B
報告書区分
総合
研究課題名
ペプチド抗体によるSARS(重症急性呼吸器症候群)診断の迅速化
課題番号
H16-新興-一般-040
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
伊東 恭悟(久留米大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月 健彦(国立国際医療センター)
  • 七條 茂樹(久留米大学 医学部)
  • 切替 照雄(国立国際医療センター研究所)
  • 小松 誠和(久留米大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
SARSウイルスの構造タンパク質由来抗体エピトープを同定する。2.ペプチドを用いた迅速診断法を確立する。3.抗体により認識されるT細胞エピトープペプチドを同定する。4.これらのペプチドを用いて非感染者末梢血からのT細胞誘導能を調べ、SARSの治療ワクチンの開発及び病因解明のための情報を得る。
研究方法
血清:SARS感染初期患者血清および感染後6ヶ月患者血清を入手した。リコンビナントタンパク質:切替分担研究者が作成したものを用いた。ウサギ抗血清:ペプチドを担体蛋白質に結合させ、100micloLずつウサギ背中6カ所に毎週、10回以上皮内注射し、耳朶より採血した。抗体の測定:抗体の測定は、Luminexを用いたflowmetryで行った。急性期中国感染患者血清でのN161とS791に対する抗体の測定をELISAで行った。イムノクロマト簡易キット試作品の評価:100倍希釈血清を200micloL滴下し、20分経過後展開確認窓が赤く発色していることを確認した。CTLの解析:健常人および前立腺がん患者末梢血から分離した単核球細胞をペプチドと共に培養する。CTL活性はIFN-gamma産生を指標にELISA法で検出した。さらに、細胞傷害活性は標的細胞を51Crで標識し、定法により測定した。遺伝子解析:ホモロジー検索、遺伝子の発現は、NCBIのホームページで解析した。リアルタイムPCR:遺伝子発現はABI PRISM 7000を用いて遺伝子を増幅して行った。
結果と考察
1.SARSウイルスの構造タンパク由来ペプチドのうち感染6ヶ月後に採血した患者血清で認識されるペプチド(S791, M207, N161)を 同定した。2.イムノクロマト簡易型診断キットの開発を行った。3. HLA結合モチーフを有する12種類のペプチドに対するIgG抗体が検出された。4.そのうち9種類で日本人健常者末梢血単核球よりCTL誘導が認められた。
結論
長期持続免疫抗体が認識するエピトープは、感染直後から惹起されることから、診断のための抗原としても有用であると考えられた。イムノクロマト法は設備がない地域での迅速検査が可能となるため、感染力が強く且つ致死的な感染症の感染拡大の抑止に効果的であると考えられる。感染者及び健常人でのT細胞エピトープの同定は、診断、病態機序の解明、および治療ワクチンへの応用に有用であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
200628011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新興感染症の検査方法は、迅速に確立する必要がある。合成ペプチドを用いた同時多検体処理によるエピトープ決定法はこの目的に合致することが分かった。また、SARS由来HLA結合性ペプチドのなかで非感染者も含めて広く抗体が存在し、且つ細胞傷害活性を有するT細胞(CTL)を誘導できるペプチドを同定した。SARS感染者の一部で、重篤な自己免疫性肺炎に移行する患者がいることが知られているが、その機序の一つにこれらの抗体やCTLの誘導が考えられた。
臨床的観点からの成果
スパイクタンパク質の791から805番目のペプチド(S791)は感染急性期から高率に抗体が産生され、6ヵ月後においても約50%の患者血清中に抗体が検出されるのに対してヌクレオカプシッドタンパク質の161から175番目のペプチド(N161)に対してはいずれの時期においても約40%の陽性率であった。このようにエピトープの違いによって患者個々人の免疫応答が異なる事から、これらの知見が診断法の開発や中和抗体の作製に重要であると考えられた。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
診断のための検査法としてはPCRによる遺伝子増幅、抗原測定のための抗体による測定法、など一般的であるが、一長一短ある。本研究で行った開発法は、合成ペプチドを用いた多検体同時測定法により、特に新興感染症の検査には迅速に対応可能な点で有用であると考えられる。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
Shichijo et al., Tissue Antigens, 2004, 64, 600-607.
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
免疫によって認識される重症急性呼吸器症候群コロナウイルス由来ペプチド、特願2004-044873(2004.8.18)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-