SARSウイルス感染阻止化合物の探索

文献情報

文献番号
200628009A
報告書区分
総括
研究課題名
SARSウイルス感染阻止化合物の探索
課題番号
H16-新興-一般-038
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
菅村 和夫(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石坂幸人(国立国際医療センター難治性疾患研究部)
  • 服部俊夫(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、①SARSコロナウイルスの細胞への吸着及びその後の細胞内でのウイルスの複製・成熟過程を明らかにすること、②その成果に基づく抗ウイルス剤の開発を目的とする。
研究方法
(1)細胞内小胞輸送関連分子を標的としたSARSウイルス複製・成熟過程における阻害剤の開発(菅村)
ウイルスの細胞内への取り込みの過程の解明を行うために小胞輸送関連蛋白質の発現を阻害したノックアウト細胞とSARS偽ウイルスを作って、感染実験を行いこれらの蛋白質の役割の解明を試みた。
(2)抗SARS因子探索(石坂)
 精製したS蛋白質をELISAプレートに結合させたのちに部分精製したACE-2を作用させた。これを蛍光標識した抗ACE-2抗体を作用させ、蛍光プレートリーダーを用いて結合性をモニターした。さらにSまたはACE-2蛋白質をセンサーチップに結合させ、ビアコア(Biacore J)を用いて候補化合物エキス中の結合性を解析した。
新たにレンチウイルスを用いた感染システムの立ちあげと(インビトロジェン社製)、 ACE-2活性測定システムの導入も行った。
(3)漢方薬エキスの感染抑制効果の確認(服部)
昨年までに作成したHIV/SARS偽ウイルスの種種の細胞への感染性をスクリーニングしこれを用いて、桂皮と丁子の感染抑制効果を詳細に検討した。
結果と考察
小胞の酸性化に関与しているHrsの欠損した細胞ではウイルス感染が亢進すること、SARSウイルスの細胞内侵入にはACE2の発現のほか、クラスリン重鎖(CHC)の発現が相関する事が明らかになった。特に、小胞の酸性化に関与しているHrsの欠損した細胞ではウイルス感染が亢進した。これはHrs欠損によりMVB形成が肥大化したものと解釈している。
漢方薬エキスをスクリーニングし、桂皮エキスにSARSウイルス感染抑制効果のあることを確認した。さらに桂皮エキスはTNF-α分泌誘導に対しても抑制的に作用することを認めた。このことは桂皮エキスにSARS 感染によって引き起こされる呼吸器症状の重症化に対しても阻害効果を示す可能性が示唆された。
桂皮樹皮エキスと丁子エキスおよびそれらの画分の感染抑制効果を検討した。その結果、桂皮樹皮エキスのBuOH画分が強力な抑制効果を示した。桂皮が患者に投与されて効果を示したことと考え合わせると、この画分に抗SARS因子を含むと考えられる。
結論
SARSウイルスの感染と小胞輸送経路に関わる分子との関連を示し、桂皮エキスのブタノール画分に感染を協力に抑制する成分があることを示した。ACE2のシェディングという肺病変の増悪との関連を示唆する現象も発見した。

公開日・更新日

公開日
2007-05-07
更新日
-

文献情報

文献番号
200628009B
報告書区分
総合
研究課題名
SARSウイルス感染阻止化合物の探索
課題番号
H16-新興-一般-038
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
菅村 和夫(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石坂 幸人(国立国際医療センター難治性疾患研究部)
  • 服部 俊夫(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成16年度よりSARSウイルス感染阻止化合物の探索を目的とし、ウイルスの標的細胞の細胞内輸送体に関する研究、ウイルスS蛋白質の役割の解明、感染阻止化合物のスクリーニングを推進した。
研究方法
(1)標的細胞の細胞内輸送体に関する研究
エンドサイトーシス関連蛋白および小胞輸送関連蛋白の役割に着目、蛋白の発現を阻害したノックアウト細胞あるいはノックダウンを樹立し、感染実験でこれらの役割の解明を試みた。
(2)ウイルスS蛋白質の役割に関する研究
精製S蛋白質をELISAプレートに結合させ部分精製したACE-2、蛍光標識した抗ACE-2抗体を作用させ結合性をモニターした。SまたはACE-2蛋白質をセンサーチップに結合させ、Biacore Jでスクリーニングを行う系を構築した。
(3)感染阻止化合物のスクリーニング
上記ビアコア、偽ウイルス、野生株PUMC01 F5を用いて、海洋微生物エキスと漢方薬エキスのスクリーニングを実施し精製画分の感染抑制効果も検討した。
結果と考察
・clathrin依存的endocytosisの特異的阻害剤ChlorpromazineはSARS-CoV偽ウイルスの侵入を濃度依存的に阻害した。clathrin heavy chainに対するsiRNA処理は偽ウイルスの侵入を約40%阻害した。
・SARS-Cov/HIV偽ウイルス系でHepG2が最もSARS-Covの感染実験に適すること、本細胞株はcaveolinがなくウイルスの侵入はクラスリン依存性である事を示した。
・S蛋白質により標的細胞ACE2の細胞外ドメインが遊離する。この反応は宿主因子TNF-α変換酵素が必要である。TNFの産生を増強し、炎症を惹起すると思われる。
・海洋生物抽出エキスのスクリーニングを行い、偽ウイルス感染系も阻害する2種類を特定した。
・桂皮エキスとそのエタノール分画及び丁子がSHPと感染性SARSウイルス感染系を抑制した。
・桂皮エキスとそのエタノール分画はTfRの発現を増し、Tfrの取り込みを阻害することから桂皮がクラスリン依存性の経路を阻害する可能性がある。
・桂皮エキスはウイルス感染阻害効果だけでなく、TNF-α分泌誘導に対しても抑制的に作用する。
結論
SARS-CoV偽ウイルスが主にclathrin依存的に細胞に侵入し、桂皮と丁子がそれを阻害することを明らかにした。
ACE-2の遊離は、SARSウイルスの感染と呼吸器系症状の重症化がTACEを起点とした共通の分子基盤により誘導されていることを示唆する。
桂皮エキスのブタノール画分はSARSウイルス感染阻止化合物として有望である。

公開日・更新日

公開日
2007-05-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
200628009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
SARS-Cov/HIV偽ウイルス系によりHepG2が感染実験に最適な細胞株で、かつcaveolinがないことを明らかにした。
クラスリン依存エンドサイトーシスを特異的に阻害するChlorpromazineの効果は濃度依存的で、clathrin heavy chainに対するsiRNA処理は偽ウイルスの侵入を約40%阻害した。桂皮エキスとそのエタノール分画はTfrの発現を増し、Tfrの取り込みも阻害した。
これらによりウイルスの侵入はクラスリン依存性で、桂皮はその経路を阻害する可能性を示した。
臨床的観点からの成果
約4000種類の海洋生物抽出エキスで、S蛋白質とACE-2の結合検出を抑制し、偽ウイルス感染系も阻害する2種類を特定した。
桂皮エキスとそのエタノール分画及び丁子がSHPと感染性SARSウイルス(PUM01F5)を用いた感染系を抑制した。しかしこれらはVSV感染も阻止した。
ガイドライン等の開発
感染阻止化合物の探索というテーマであったため、ガイドラインの作成などは行わなかった。
なお、成果として上述のとおり海洋生物と漢方薬のエキスにSARSウイルスの感染を抑制する効果を見いだしている。
その他行政的観点からの成果
海洋生物や植物エキスから抗SARSウイルス活性を持つ成分を同定することにより、これらの資源が新薬の候補物質のリソースとして有望であることを示した。
その他のインパクト
医療従事者を対象とした雑誌に、漢方薬エキスのSARSウイルス感染抑制効果を紹介した(服部俊夫 ウイルス感染とバイオデフェンス Mebio 別冊 24,6-21,2007)。臨床医を対象にSARS等の新興感染症の病態や治療方法を解説した(服部俊夫 SARSを含む新興感染症(解説)日本内科学会雑誌94(9):1915-1920, 2005)。これらによりSARS対策に関する啓蒙を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
国内2件 米国1件 豪州1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
服部俊夫 日本内科学会東北支部主催 第47回 生涯教育講演会 最近の感染症診療の進歩 エイズ・SARS・結核.平成18年6月17日

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Y.Ishikawa, N.Tanaka K.Murakami, et al.
Phage C31 integrase-mediated genomic integration of the common cytokine receptor gamma chain in human T-cell line
The journal of gene medicine , 8 , 646-653  (2006)
原著論文2
K.Satoh, Y Kagaya M Nakano, et al.
Important role og endogenous erythropoietin system in recruitment of endothelial progenitor cells in hypoxia plumonary hypertension in mice
Circulation , 1442-1450  (2006)
原著論文3
T.Uchiyama, S. Kumaki, Y. Ishikawa et al.
Application of HSVtk suicide gene to X-SCID gene therapy: Ganciclovir treatment offsets gene corrected X-SCID B cells
Biochemical and Biophysical Research Communication , 341 , 391-398  (2006)
原著論文4
A. Nakamashima, N. Tanaka, K, Tamai et al.
Survival of parvovirus B19-infected cells by cellar autophagy
Virology , 349 , 254-263  (2006)
原著論文5
H.Tachikawa, M.Shimura, C.Nakai-Murakami
HIV-1 vprincuces double strand DNA breaks
Cancer research , 66 (2) , 627-631  (2006)
原著論文6
C, Nakai-Murakami, M.Shimura, M.Kinomoto et al
HIV-1 vpr induces ATM-dependent celluar signal with enhanced homolognous recombination
Oncogene , 26 , 477-486  (2007)
原著論文7
S.Hoshiono, B.Sun, M.Konishi et al
Vpr in plasma of HIV type1-positive patients is correlated with the HIV type 1 RNA titers
AIDS research and human retroviruses , 23 (3) , 393-399  (2007)
原著論文8
O.Usami, P.Xiao, H.Ling et al
Competitive study of monoclonal antibodies against the HIV-1 GP41 core structure
Microbiol. Immunol. , 50 (2) , 131-134  (2006)
原著論文9
D.Li, H-X.Gu, S-Y,Zhang et al.
YMDD mutations and genotypes of HBV in Northern China
Japanese Jounal of infectious diseases , 59 , 42-45  (2006)
原著論文10
H.Guio, H.Okayama, Y.Ashino et al
Method for efficient storage and transportation of sputum specimens for molecular testing of tuberculosis
International journal of tuberculosis and lung diseases , 10 (8) , 906-910  (2006)
原著論文11
I.Mizoguchi, Y.Ooe, S.Hoshion et al
Improved gene expression in resting macrophages using an oligopeptide derived from Vpr of human immunodeficiency virus type-1
Biochemical and biophysical research communications , 338 , 1499-1506  (2005)
原著論文12
M.Shimura, K.Tokunaga, M.Konishi et al
Premature sister chromatid separation in HIV-1-infected peripheral blood lymphocytes
AIDS , 19 (13) , 1434-1438  (2005)
原著論文13
J.Ashiono, Y.Ashiono, H.Saitoh et al
Low antibody response ahgainst tuberculous glycolipid(TBGL) in elderly gastrectomised tuberculosis patients
International journal of tuberculosis and lung diseases , 9 (9) , 1052-1053  (2005)
原著論文14
O.Usami, P.Xiao, H.Ling et al
Properties of anti-gp41 core structure antibodies, which compete with sera of HIV-1-infected patients
Microbes and infection , 4 , 650-657  (2005)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-