輸入真菌症等真菌症の診断・治療法の開発と発生動向調査に関する研究

文献情報

文献番号
200628005A
報告書区分
総括
研究課題名
輸入真菌症等真菌症の診断・治療法の開発と発生動向調査に関する研究
課題番号
H16-新興-一般-034
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
上原 至雅(国立感染症研究所生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井 克彦(千葉大学 真菌医学研究センター)
  • 菊池 賢(順天堂大学 医学部 大学院感染制御化学)
  • 槇村 浩一(帝京大学 医真菌研究センター)
  • 渋谷 和俊(東邦大学 医学部 病院病理学講座)
  • 杉田 隆(明治薬科大学 微生物学教室)
  • 上 昌広(東京大学 医科学研究所 探索医療ヒューマンネットワークシステム部門)
  • 鈴木 和男(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 新見 昌一(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸入真菌症並びに深在性真菌症の発生状況を調査し、輸入真菌症起因菌の迅速遺伝子診断法の開発を行うことを目的とした。また真菌の病原性解明と新規抗真菌薬の開発をめざした基礎研究を行った。
研究方法
輸入真菌症の国内発生状況は、文献検索を行い、全国の主要医療機関へ問い合わせて調査した。結核疑診患者の中に潜在的ヒストプラスマ症が混在する可能性を知るために抗ヒストプラスマ抗体検査を行った。深在性真菌症の国内発生動向については、悪性腫瘍患者の真菌症併発の実態を日本病理学会剖検輯報をもとに調査した。その他、診断法の開発、病原性発現機構、薬剤耐性に関する基礎研究を行った。
結果と考察
輸入真菌症については、コクシジオイデス症およびヒストプラスマ症の発症症例数が増し、パラコクシジオイデス症、マルネッフェイ型ペニシリウム症症例も見られた。結核疑診患者113例中9名(8.0%)が抗ヒストプラスマ抗体陽性を呈し、その内の1例は病理組織学的にヒストプラスマ症であった。コウモリグアノからヒストプラスマの国内検出を試みたが、菌は検出されなかった。深在性真菌症については、白血病患者のアスペルギルス感染頻度は高いが、真菌感染症を合併する患者実数は消化器癌や呼吸器癌患者の方が実際には多いことが分かった。ヒストプラスマ症診断のための新規抗原抽出法を確立し、病理細胞診検体にFISH法を応用してアスペルギルス属の菌種レベルでの判別が可能となった。真菌由来糖たんぱく質による血管炎には、サイトカインと連動した活性化好中球の活性酸素が血管傷害を起こすことが示唆された。モデル出芽酵母の薬剤排出ポンプPdr5pの機能解析を行い、阻害剤FK506に対する非感受性株を多数取得した。Pdr5pに生じたアミノ酸変異により、Pdr5pとFK506との相互作用部位を推定した。
結論
輸入真菌症並びに深在性真菌症の発生動向は今後も十分に注意する必要がある。コクシジオイデス症およびヒストプラスマ症の迅速遺伝子診断法の実用化が期待できる。また真菌の病原性解明と新規抗真菌薬の開発をめざした基礎研究も進展した。なお本年度は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のバンクーバー島東岸地方における病原真菌Cryptococcus gattii のアウトブレーク情報を入手し、厚生労働省健康危機管理調整室に健康危険情報として通報した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200628005B
報告書区分
総合
研究課題名
輸入真菌症等真菌症の診断・治療法の開発と発生動向調査に関する研究
課題番号
H16-新興-一般-034
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
上原 至雅(国立感染症研究所生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井 克彦(千葉大学 真菌医学研究センター)
  • 菊池 賢(順天堂大学 医学部 大学院感染制御化学)
  • 槇村 浩一(帝京大学 医真菌研究センター)
  • 渋谷 和俊(東邦大学 医学部 病院病理学講座)
  • 杉田 隆(明治薬科大学 微生物学教室)
  • 上 昌広(東京大学 医科学研究所 探索医療ヒューマンネットワークシステム部門)
  • 鈴木 和男(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 新見 昌一(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸入真菌症並びに深在性真菌症の発生状況を調査し、輸入真菌症起因菌の迅速遺伝子診断法の開発を行うことを目的とした。また真菌の病原性解明と新規抗真菌薬の開発をめざした基礎研究を行った。
研究方法
輸入真菌症の国内発生状況は、文献検索を行い、全国の主要医療機関へ問い合わせて調査した。結核疑診患者の中に潜在的ヒストプラスマ症が混在する可能性を知るために抗ヒストプラスマ抗体検査を行った。深在性真菌症の国内発生動向については、悪性腫瘍患者の真菌症併発の実態を日本病理学会剖検輯報に基づいて調査した。その他、診断法の開発、病原性発現機構、薬剤耐性に関する基礎研究を行った。
結果と考察
輸入真菌症については、過去3年間に症例数が増加する傾向にあった。そこで輸入真菌症診断・治療ガイドラインを作成し、医療関係者に配布して最新情報の提供に務めた。輸入真菌症の遺伝子診断法として、コクシジオイデス症起因菌に対する特異性の優れた遺伝子検出系を開発し、ヒストプラスマ症起因菌を臨床検体から検出するためのreal-time PCR系を構築した。ヒストプラスマ属菌の国内分離を試みたが、菌は検出されなかった。しかし、結核菌疑診患者を対象に、ヒストプラスマ症抗体検査を実施したところ、陽性者があり、うち1名(全体の0.9%)はヒストプラスマ症であった。従って、今後検体数を増やしさらに検討する必要がある。深在性真菌症については、悪性腫瘍患者の真菌症合併頻度をしらべ、患者実数では消化器癌や呼吸器癌患者に最も多く合併することが分かった。基礎的・応用的研究として、ヒストプラスマ症診断のための新規抗原抽出法を確立し、蛍光標識プローブによるアスペルギルス属菌の組織・細胞診の開発、真菌糖タンパク質によって惹起される血管炎の初期応答の解析、その他の病原因子の解析、薬剤耐性機構の解明とポンプ阻害剤の探索を行い、有意義な成果が得られた。
結論
輸入真菌症並びに深在性真菌症の実態が明らかになりつつあり、輸入真菌症の迅速遺伝子診断法の実用化が期待できる。また真菌の病原性解明と新規抗真菌薬の開発をめざした基礎研究も進展した。一方、カナダで発生した病原真菌Cryptococcus gattii のアウトブレークを健康危険情報として厚生労働省健康危機管理調整室に通報した。以上、真菌症研究に多角的に取り組み、確実に成果を積み上げている。

公開日・更新日

公開日
2007-04-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200628005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
真菌症の早期診断・治療は一般に困難である。本研究班は、コクシジオイデス症およびヒストプラスマ症起因菌に対するそれぞれ特異性の優れた遺伝子検出系を開発し、今後の臨床応用をめざしている。またヒストプラスマ症の血清診断のための新しい抗原抽出法を確立し、蛍光標識プローブによるアスペルギルス属菌の組織・細胞診断法を開発した。さらに基礎的研究として、真菌糖タンパク質によって惹起される血管炎の初期応答の解析、真菌病原因子の解析、薬剤耐性機構の解明とポンプ阻害剤の探索を行い、多角的な成果が得られた。
臨床的観点からの成果
輸入真菌症については、過去3年間に症例数が増加する傾向にあった。ヒストプラスマ属菌の国内分離を試みたが、菌は検出されなかった。しかし、結核菌疑診患者を対象に、ヒストプラスマ症抗体検査を実施したところ陽性検体があり、病理組織診断によりヒストプラスマ症と確定された症例もあった。従って、今後検体数を増やしさらに検討する必要がある。深在性真菌症については、悪性腫瘍患者の真菌症合併頻度をしらべ、患者実数では消化器癌や呼吸器癌患者に最も多く合併することが分かった。
ガイドライン等の開発
輸入真菌症のコクシジオイデス症が感染症法4類に規定されていることを知っている医療従事者は多くない。しかし、本症症例数は急速に増加しており、真菌症の中でも特に感染力・病原性が強く、正しい知識を持たなければ、医療従事者も感染事故を起こす可能性がある。国際交流が盛んな昨今、いつどの医療機関で本症に遭遇してもおかしくない状況にある。そこで過去に作成した輸入真菌症ハンドブックを大幅に改定した輸入真菌症診断・治療ガイドラインを作成し、全国の医療機関や関係学会に配布して最新情報を提供している。
その他行政的観点からの成果
真菌症に関するレファレンスセンターは、海外においては米国 CDCのように効率的に機能しているが、わが国においては端緒を開いたところである。本研究班は国立感染症研究所をレファレンスセンターとし、各研究分担者をブランチとした真菌症対策情報網の構築をめざしている。それにより真菌症に関する情報収集と提供を行い、輸入真菌症の診断と管理も可能となる。診断・治療が困難な真菌症対策は、一施設では力の及ぶ範囲は限られる。分担研究者との連携によって、徐々に真菌症レファレンスセンターとしての成果を表し始めている。
その他のインパクト
カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバー島における病原真菌Cryptococcus gattii のアウトブレーク情報を、健康危険情報として厚生労働省健康危機管理調整室に通報した。当地では1999年以降、健常人を含む100名以上が感染し6人が死亡している。2006年には観光で訪れたデンマーク人が帰国後に発症した。有効な抗真菌薬があり、早期診断・治療が肝要であるため、当地を訪れる旅行者に注意を喚起する必要があると判断した。この情報は日経新聞(2007年2月6日夕刊)でも紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
229件
その他論文(和文)
87件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
461件
学会発表(国際学会等)
131件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
コクシジオイデス症病原体検出のためのプライマー 耐性真菌とバイオマス
その他成果(施策への反映)
1件
輸入真菌症診断・治療ガイドラインを作成
その他成果(普及・啓発活動)
1件
Cryptococcus gattii のアウトブレーク情報を、健康危険情報として厚生労働省健康危機管理調整室に通報

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaneko A, Umeyama T, Utena-Abe Y, et al.
Tcc1p, a novel protein containing tetratrico peptide repeat motif, interacts with CaTup1p to regulate morphological transition and virulence in Candida albicans.
Eukaryotic Cell , 5 (11) , 1894-1905  (2006)
原著論文2
Holmes AR, Tsao S, Ong S-W, et al.
Inter- and intra-allelic functional variation in the Candida albicans efflux pump genes CDR1 and CDR2.
Molecular Microbiology , 62 , 170-186  (2006)
原著論文3
Umeyama T, Kaneko A, Niimi M, el al.
Repression of CDC28 reduces the expression of the morphology-related transcription factors, Efg1p, Nrg1p, Rbf1p, Rim101p, Fkh2p, and Tec1p, and induces cell elongation in Candida albicans.
Yeast , 23 , 537-552  (2006)
原著論文4
Umeyama T, Sano A, Kamei K,et al.
Novel approach to designing primers for identification and distinction of the human pathogenic fungi Coccidioides immitis and Coccidioides posadasii by PCR amplification.
Journal of Clinical Microbiology , 44 (5) , 1859-1862  (2006)
原著論文5
Umeyama T, Kaneko A, Watanabe H, et al
Deletion of the CaBIG1 gene reduces β-1, 6-glucan synthesis, filamentation, adhesion, and virulence in Candida albicans.
Infection and Immunity , 74 (4) , 2373-2381  (2006)
原著論文6
Shimokawa O, Niimi M, Kikuchi K, et al.
Relationship between MIC and minimum sterol 14α-demethylation-inhibitory concentration as a factor in evaluating activitites of azoles against various fungal species.
Journal of Clinical Microbiology , 43 (11) , 5547-5549  (2005)
原著論文7
Sugita T, Kikuchi K, Makimura K,
Trichosporon species isolated from guano samples obtained from bat-inhabited caves in Japan.
Applied and Environmental Microbiology , 71 (11) , 7626-7629  (2005)
原著論文8
Hanaoka N, Umeyama T, Ueno K, et al.
A putative dual-specific protein phosphatase encoded by YVH1 controls growth, filamentation, and virulence in Candida albicans.
Microbiology , 151 , 2223-2232  (2005)
原著論文9
Niimi M, Wada S, Tanabe K, et al
Functional analysis of fungal drug efflux transporters by heterologous expression in Saccharomyces cerevisiae.
Japanese Journal of Infectious Diseases. , 58 , 1-7  (2005)
原著論文10
Umeyama T, Kaneko A, Nagai Y,et al.
Candida albicans protein kinase CaHsl1p regulates cell elongation and virulence.
Molecular Microbiology , 55 , 381-395  (2005)
原著論文11
Wada S, Tanabe K, Yamazaki A, et al
Phosphorylation of Candida glabrata ATP-binding cassette transporter Cdr1p regulates drug efflux activity and ATPase stability.
Journal of Biological Chemistry , 280 (1) , 94-103  (2005)
原著論文12
Niimi M, Niimi K, Takano Y, et al
Regulated overexpression of CDR1 in Candida albicans confers multidrug resistance.
Journal of Antimicrobial Chemotherapy , 54 , 999-1006  (2004)
原著論文13
Kaneko A, Umeyama T, Hanaoka N, Monk BC,et al
Tandem affinity purification of the Candida albicans septin protein complex.
Yeast , 21 , 1025-1033  (2004)
原著論文14
Omuta J, Uchida K, Yamaguchi H et al
Histopathological Study on Experimental Endophthalmitis Induced by Bloodstream Infection with Candida albicans
Japanese Journal of Infectious Diseases , 60 (1) , 33-39  (2007)
原著論文15
Kim SW, Tanimoto TE, Hirabayashi N, et al.
Myeloablative allogeneic hematopoietic stem cell transplantation for non-Hodgkin lymphoma: a nationwide survey in Japan.
Blood , 108 (1) , 382-389  (2006)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-