粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバントに関する研究

文献情報

文献番号
200628003A
報告書区分
総括
研究課題名
粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバントに関する研究
課題番号
H16-新興-一般-032
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
清野 宏(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 竹田 潔(九州大学生体防御医学研究所)
  • 濱端 崇(国立国際医療センター)
  • 竹田 美文((株)シネサイエンス研究所)
  • 高木 広明((株)プロテインエクスプレス・ヒゲタ醤油)
  • 萩原 由加利((社)北里研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新興・再興感染症を引き起こす病原微生物は通常粘膜面から侵入する。粘膜免疫系は体内の免疫機構である全身性免疫の誘導・制御にも関わっており、粘膜を介した抗原特異的免疫誘導は病原微生物に対して二段構えの防御を誘導できる。その為に、次世代ワクチンとして「経口・経鼻ワクチン」開発が期待されている。そこで、本研究ではその要とも言える粘膜アジュバントと粘膜抗原デリバリー法開発に結びつく開発基礎研究を推進してきた。
研究方法
1)清野らはキメラ型mCTA/LTBのヒトへの応用を目指し霊長類での検討を開始する為の準備と次世代ワクチン抗原粘膜面送達法の開発への基礎研究を進めた。
2)萩原らは、二重変異型(ダブルミュータント)を作製し経口アジュバントとしての効果を検討した。
3)高木らはキメラ型の実用化に向けて工業的製造法確立を目指したシステムの立ち上げを進めた。
4)竹田・濱端らはキメラ型アジュバントの免疫賦活効果についての検討をした。
5)竹田潔らは次世代のアジュバント開発に向けてTLRを介したシグナル伝達系を標的とした免疫増強効果について検討を進めた。
結果と考察
当研究班で開発を進めてきた無毒化変異型(mCT)とキメラ型(mCTA/LTB)について、マウスでの検討結果を基盤としてヒトへの応用化を目指した霊長類での粘膜アジュバント効果(例、経口投与)と安全性の検討を開始する為に霊長類における粘膜免疫機構の解析を開始した。さらに、実用化に向けてキメラ型の工業的製造法の確立も進めた。二重変異型(dmCT)を作製し、その経口アジュバント有効性を示唆する結果を得ることが出来、経鼻だけではなく経口投与による免疫増強効果が示唆された。キメラ型によるアジュバント効果の詳細について検討を進め、mCTAとBサブユニット部位におけるアジュバント効果についてその両者の関与が示唆された。次世代粘膜アジュバント開発に向けてTLRを介したNF-kB依存性早期・遅期誘導型遺伝子発現系の存在が明らかとなり、それを標的とした免疫調節型アジュバント開発への基礎を提供することが出来た。
結論
最終年度に当たり、mCT 、mCTA/LTBの実用化に向けた研究成果を挙げ、次のステップに進める基盤が形成された。さらに、それを進化させた次世代粘膜アジュバントの開発(dmCT)とその有効性についても、進展を図る事が出来た。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200628003B
報告書区分
総合
研究課題名
粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバントに関する研究
課題番号
H16-新興-一般-032
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
清野 宏(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 竹田 潔(九州大学生体防御医学研究所)
  • 濱端 崇(国立国際医療センター)
  • 竹田 美文((株)シネサイエンス研究所)
  • 高木 広明((株)プロテインエクスプレス・ヒゲタ醤油)
  • 萩原 由加利((社)北里研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新興・再興感染症の殆どは呼吸器、消化器、生殖器粘膜を介した病原微生物の侵入から始まる。その粘膜面に巧妙かつ柔軟性に富んだ粘膜免疫機構が存在することが証明され、その機構を応用した「粘膜ワクチン」の開発が期待されている。すなわち「経鼻・経口ワクチン」の具現化に向けては、効果的で安全な「粘膜アジュバント」と「粘膜ワクチンデリバリー法」の開発が必須である。その目的達成に向けて、三本柱の研究体制で基礎から応用に向けて研究を推進してきた。

研究方法

1)CTを基盤とした無毒化変異型・キメラ型・二重変異型アジュバント開発
2)アジュバント大量発現産生システム開発
3)自然免疫を基盤とした次世代アジュバント研究
この三本柱の研究について計七機関の研究者が相補的・横断的研究を展開してきた。

結果と考察
コレラ毒素の粘膜免疫増強効果に着目し無毒化変異型(mCT)、第二世代のキメラ型(mCTA/LTB)そして第三世代として二重変異型(dmCT) アジュバントを開発し、その効果と安全性について評価・検討を進めてきた。一部に関してはヒトへの応用化もふまえてヒトに近い霊長類を使い、ウイルス抗原に対する抗原特異的免疫誘導経鼻アジュバント効果を確認することが出来た。さらに、病原細菌由来毒素(例、ボツリヌス毒素)に対する中和効果を有する抗原特異的抗体誘導増強効果があることがマウス実験系を使い確認出来た。つまり、毒素由来無毒化アジュバントにはウイルスと細菌感染両方に対する抗原特異的防御免疫誘導増強効果が明らかになった。キメラ型については大量産生システムが確立し、工業的製造法システムへの道が開けた。第三世代の二重変異型アジュバントについては、免疫増強効果はもとより安全性も確認された。経鼻アジュバント効果だけではなく、その汎用性に関して特に経口アジュバント効果を示唆する結果も得られ、今後の霊長類での検討が期待される。自然免疫系、特にTLRを介した免疫調節型アジュバント開発へ向けての基礎研究が進んだ。

結論

1.無毒化変異型(mCT)に関しては、細菌毒素由来に対するワクチンの粘膜アジュバント効果が確認された。
2.キメラ型(mCTA/LTB)のヒトへの応用を目指し、霊長類粘膜免疫システム解明を開始した。
3.二重変異型(dmCT)の粘膜アジュバント効果と安全性が小動物で確認された。
4.キメラ型大量発現・産生システムプロトコールが構築できた。
5.自然免疫を基盤とした次世代アジュバントの基礎研究が推進された。

公開日・更新日

公開日
2007-03-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2008-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200628003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
コレラ毒素(CT)の粘膜免疫増強効果に着目し、A1サブユニットのADP-ribosyltransferaseにアミノ酸置換を導入した無毒化変異型毒素(mCT)の開発を基盤に、大腸菌由来易熱性毒素(LT)とのキメラ型(mCTA/LTB)アジュバントの創出に成功し、その安全性と免疫増強効果を確認した。さらに、A2サブユニットに変異を導入し、経鼻投与の際に危惧される中枢神経系への影響を阻止した、より安全性を付与した二重変異型(E112K/KDEVとE112K/KDGL)アジュバントの開発にも成功した。
臨床的観点からの成果
新興・再興感染症の予防に向けて、粘膜ワクチンの実現化が期待されているが、その目標達成に向けて粘膜アジュバントの開発が必須である。その目標達成向けて粘膜免疫増強効果のあるコレラ毒素(CT)を無毒化するという斬新な戦略のもと、無毒化変異型毒素(mCT)、キメラ型(mCTA/LTB)、 二重変異型(E112K/KDEVとE112K/KDGL)の三種類を開発し、安全性と免疫増強効果を確認したことは、今後の臨床応用へ向けての基礎的基盤を形成した。
ガイドライン等の開発
粘膜ワクチン開発に向けて、粘膜アジュバントという新規なカテゴリーの安全性、評価基準などを今後考えていかなければならない。
その他行政的観点からの成果
粘膜アジュバントの開発は、既存の注射器・注射針を使ったワクチンではなく、経口・経鼻ワクチンという新しいワクチン接種による国民の健康増進に貢献する可能性がある。
その他のインパクト
平成18年9月22日、日本経済新聞に掲載。「鼻からワクチン」一般にワクチンは注射でないと病気の発症を抑える免疫の抗体が十分できないため、他の投与法は難しい。新技術は、抗体ができにくい半面、副作用の心配が少ない利点がある不活化ワクチンというタイプで可能にしたのが特徴だ。新技術は抗体ができるのを促す物質をワクチンに加えることで実現した。週一回、ネズミの鼻の粘膜にインフルエンザワクチンを垂らして実験、三週間後に十分な量の抗体ができた。今後、サルで安全性などを調べ、人での臨床試験を目指す。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
33件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Toshiyuki Owaki, Masayuki Asakawa, Sadahiro Kamiya, et al.
IL-27 suppresses CD28-medicated IL-2 production through suppressor of cytokine signaling 3.
The Journal of Immunology , 176 , 2773-2780  (2006)
原著論文2
Yukari Hagiwara, Yuki I. Kawamura, Kosuke Kataoka, et al.
A second generation of double mutant cholera toxin adjuvants: enhanced immunity without intracellular trafficking.
The Journal of Immunology , 177 , 3045-3054  (2006)
原著論文3
Satoshi Fukuyama, Takahiro Nagatake, Dong-Young Kim, et al.
Cutting edge: Uniqueness of lymphoid chemokine requirement for the initiation and maturation of nasopharynx-associated lymphoid tissue organogenesis.
The Journal of Immunology , 177 , 4276-4280  (2006)
原著論文4
Myoung Ho Jang, Nagako Sougawa, Toshiyuki Tanaka, et al.
CCR7 is critically important for migration of dendritic cells in intestinal lamina propria to mesenteric lymph nodes.
The Journal of Immunology , 176 , 803-810  (2006)
原著論文5
Tomonori Nochi and Hiroshi Kiyono.
Innate Immunity in the Mucosal Immune System.
Current Pharmaceutical Design , 12 , 4203-4213  (2006)
原著論文6
Jun Kunisawa, Satoshi Fukuyama and Hiroshi Kiyono.
Mucosa-Associated Lymphoid Tissues in the Aerodigestive Tract: Their Shared and Divergent Traits and Their Importance to the Orchestration of the Mucosal Immune System.
Current Molecular Medicine , 5 , 557-572  (2005)
原著論文7
Jun Kunisawa and Hiroshi Kiyono.
A marvel of mucosal T cells and secretory antibodies for the creation of first lines of defense.
Cellular and Molecular Life Sciences , 62 , 1308-1321  (2005)
原著論文8
Mayumi Ueta, Junji Hamuro, Hiroshi Kiyono, et al.
Triggering of TLR3 by polyI:C in human corneal epithelial cells to induce inflammatory cytokines.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 331 , 285-294  (2005)
原著論文9
Satoshi Nonaka, Tomoaki Naito, Hao Chen, et al.
Intestinal gamma delta T cells develop in mice lacking thymus, all lymph nodes, Peyer's patches, and isolated lymphoid follicles.
The Journal of Immunology , 174 , 1906-1912  (2005)
原著論文10
Mi-Na Kweon, Masafumi Yamamoto, Paul D. Rennert, et al.
Prenatal blockage of lymphotoxin beta receptor and TNF receptor p55 signaling cascade resulted in the acceleration of tissue genesis for isolated lymphoid follicles in the large intestine.
The Journal of Immunology , 174 , 4365-4372  (2005)
原著論文11
Ryoki Kobayashi, Tomoko Kohda, Kosuke Kataoka, et al.
A novel neurotoxoid vaccine prevents mucosal botulism.
The Journal of Immunology , 174 , 2190-2195  (2005)
原著論文12
Hiroshi Kiyono and Satoshi Fukuyama.
NALT-versus Peyer's-patch-mediated mucosal immunity.
Nature Reviews Immunology , 4 (9) , 699-710  (2004)
原著論文13
Mayumi Ueta, Tomonori Nochi, Myoung-Ho Jang, et al.
Intracellularly expressed TLR2s and TLR4s contribution to an immunosilent environment at the ocular mucosal epithelium.
The Journal of Immunology , 173 , 3337-3347  (2004)
原著論文14
Tomonori Nochi, Yoshikazu Yuki, Kazutaka Terahara, et al.
Biological role of Ep-CAM in the physical interaction between epithelial cells and lymphocytes in intestinal epithelium.
Clinical Immunology , 113 , 326-339  (2004)
原著論文15
Mari Ohmura-Hoshino, Masafumi Yamamoto, Yoshikazu Yuki, et al.
Non-toxic Stx derivatives from Escherichia coli possess adjuvant activity for mucosal immunity.
Vaccine , 22 , 3751-3761  (2004)
原著論文16
Masafumi Yamamoto, Mi-Na Kweon, Paul D. Rennert, et al
Role of gut-associated lymphoreticular tissues in antigen-specific intestinal IgA immunity.
The Journal of Immunology , 173 , 762-769  (2004)
原著論文17
Takashi Shikina, Takachika Hiroi, Kohichi Iwatani, et al.
IgA class switch occurs in the organized nasopharynx- and gut-associated lymphoid tissue, but not in the diffuse lamina propria of airways and gut.
The Journal of Immunology , 172 , 6259-6264  (2004)
原著論文18
Myoung Ho Jang, Mi-Na Kweon, Koichi Iwatani, et al.
Intestinal villous M cells:An antigen entry site in the mucosal epithelium.
Proceeding of National Academic Science , 101 (16) , 6110-6115  (2004)
原著論文19
Ayako Hino, Mi-Na Kweon, Kohtaro Fujihashi, et al.
Pathological role of large intestinal IL-12p40 for the induction of Th2-type allergic diarrhea.
American Journal of Pathology , 164 (4) , 1327-1335  (2004)
原著論文20
Naoto Yoshino, Fabien X.-S.Lu, Kohtaro Fujihashi, et al.
A novel adjuvant for mucosal immunity to HIV-1 gp120 in nonhuman primates.
The Journal of Immunology , 173 , 6850-6857  (2004)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-