ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の確立

文献情報

文献番号
200628001A
報告書区分
総括
研究課題名
ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の確立
課題番号
H16-新興-一般-030
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 病原微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 阿戸 学(国立感染症研究所 免疫部)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 高津 聖志(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病原性抗酸菌感染症は、若干の減少傾向を示しているものの未だに猛威を振るい続けている慢性感染症である。そのため、診断・治療・予防法の確立に向けた基礎研究情報を提供することを目的とした。
研究方法
非結核性抗酸菌症の簡易診断法の開発、臨床検体の簡便かつ安全な処理法・保存法の開発、ならびにリコンビナントBCGの初回免疫ワクチンとしての有用性および結核菌分泌タンパク(Ag85B)のブースターワクチンとしての有用性の検討、さらにマクロファージ内で薬剤標的となり得る抗酸菌遺伝子の同定を行った。
結果と考察
臨床検体の処理法として特殊化学処理を施したFTAカードが有用であり、等温遺伝子増幅法(LAMP法)と組み合わせることにより、発展途上国でも容易に遂行し得る迅速遺伝子診断法が確立された。同時に、FTAカードは検体の保存を容易とした。新しいリコンビナントBCG(BCG-SM)について、BCGが生体内で最も強い親和性を示すマクロファージをターゲットとして、その有用性について検討した。BCGは樹状細胞に感染すると極めて強くT細胞を活性化するが、マクロファージに感染した場合は、効率的にT細胞を活性化することができない。しかし、BCG-SMはマクロファージに感染してもGM-CSFの産生を誘導することで、その抗原提示能を増強し、タイプ1 CD4陽性T細胞を活性化した。同時に抗酸菌感染により誘導されるIL-10の産生を抑制した。従って、BCG-SMはT細胞を活性化するのみならず、免疫抑制性サイトカインIL-10の産生を抑制することで、メモリーT細胞が効率良く活性化され得る免疫環境を整備することも可能であった。Ag85Bの活性中心を担うPeptido-25は異種タンパクに対するキラーT細胞の産生能を増強するアジュバント効果を有していることを明らかにした。従って、Ag85Bはタイプ1CD4陽性T細胞のみならず、CD8陽性T細胞をも有効に活性化し得る分子であり、アジュバントワクチンとして有効であることが判明した。結核菌がマクロファージに感染した時のみに強発現し、良き薬剤ターゲットとなり得る遺伝子を同定するシステムを開発した。また、治療抵抗性非結核性抗酸菌の新たな薬剤ターゲットとしてGlycopeptidolipidの酵素群を解明した。
結論
非結核性抗酸菌症の迅速簡易遺伝子診断法の開発、抗酸菌症に対するワクチン開発、および有効新規薬剤ターゲット同定システムの開発を行った。

公開日・更新日

公開日
2007-03-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200628001B
報告書区分
総合
研究課題名
ツベルクリン検査、BCG等に代わる結核等の抗酸菌症に係る新世代の診断技術及び予防技術の確立
課題番号
H16-新興-一般-030
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 病原微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 阿戸 学(国立感染症研究所 免疫部)
  • 竹森 利忠(国立感染症研究所 免疫部)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 高津 聖志(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗酸菌感染症の診断・治療・予防方策の確立を図る。
研究方法
抗酸菌の病原性として、宿主防御機構からの逸脱や遅延型過敏反応の誘導機構を抗酸菌細胞膜に注目して検討した。非結核性抗酸菌は菌の同定に長時間を要し、迅速な遺伝子同定法をLAMP法を中心に解析した。ツベルクリン反応に代わる結核菌感染補助診断法を確立するため、抗酸菌共通遺伝子Ag85aを組み込んだアデノウイルスベクターを作製した。新しいワクチンとして、抗酸菌主要抗原MMP-IIを感染細胞内で分泌するリコンビナントBCG(BCG-SM)を作製した。Th1免疫応答を惹起しアジュバント活性を示すAg85Bの活性中心ペプチドPeptide-25とその修飾分子を用い、抗結核免疫増強法を検討した。Peptide-25とI-Abを認識するTCRを発現するTCR-Tgマウスを作出した。抗酸菌に対する新規抗結核薬の開発を目的に、マクロファージ内で発現が亢進する遺伝子の選択法を検討した。
結果と考察
抗酸菌の潜伏、組織破壊を伴う肉芽腫炎症の原因として、糖脂質や抗酸菌DNA結合蛋白質などの細胞壁表層分子が関与していた。特殊化学表面処理ろ紙を用いるとサンプル保存・移送が容易であった。さらに、等温遺伝子増幅法(LAMP)法を組み合わせた非結核性抗酸菌の迅速簡易検出法を開発した。Ag85B組み込みアデノウイルスを用いると、抗酸菌抗原特異的CD8陽性T細胞応答を測定する診断法の開発が可能性と示唆された。樹状細胞は、抗酸菌生体防御反応惹起に重要な役割を果たすが、その分化過程にIL-1βが作用すると、その機能を著しく低下させた。BCG-SM感染樹状細胞は、ナイーブT細胞を強く活性化し、マウス生体内でMMP-II特異的メモリーT細胞を効率良く産生した。さらに、生体内で最も親和性を有するマクロファージに感染しても、同様にT細胞を活性化した。その機序は、BCG-SMがGM-CSFの産生を誘導することにあった。ワクチンとして必須なナイーブT細胞からTh1への分化の運命づけには、TCR とPeptide/I-A分子間の強い親和性が重要であった。Peptide-25はアジュバント活性を示し、共免疫抗原に対するCTL生成を増強した。抗菌薬耐性を指標とした新規な網羅的選択法を構築し、結核菌がマクロファージ内で生存するために必須な遺伝子の同定を可能とした。
結論
抗酸菌の潜伏化に関与する分子の同定、新しいワクチンの開発、新規治療薬ターゲット遺伝子同定法の開発がなされた。

公開日・更新日

公開日
2007-03-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200628001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
臨床検体を用いた遺伝子検査は多くの工程を要するが、各過程の簡易・迅速化は、コストの削減と信頼性の向上に結びつき、開発途上国への応用に不可欠である。特殊化学処理した紙面を用いると核酸抽出が自動的に完了し、かつ安全にサンプルを輸送・保存することが可能であった。LAMP法を併用すると、60分で全ての操作が完了する。本診断法は、国内のみならず、開発途上国での応用が期待される。
臨床的観点からの成果
日本の結核対策は「中進国」と考えるのが妥当であり、多数の新規発症者を抱える現状では、新規BCGワクチンの開発は必要不可欠である。抗酸菌主要抗原を分泌するリコンビナントBCGは、樹状細胞のみならずマクロファージを介してもCD4陽性T細胞を活性化しIFN-γを産生させたことは、従来のBCGの持つ欠点を凌駕したものであり極めて意義深い。Ag85BとPeptide-25はTh1免疫応答とCTL精製を高めた。このシステムを活用した効率的Th1活性化システムは、抗結核免疫を増強するワクチン開発へとつながる。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
70件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
H. Kimura, Y. Maeda, F. Takeshita, et al.
Upregulation of T-cell-stimulating activity of mycobacteria-infected macrophages.
Scand. J. Immunol. , 60 , 278-286  (2004)
原著論文2
Y. Yamashita, Y. Maeda, F. Takeshita, et al.
Role of the polypeptide region of 33 kDa mycobacterial lipoprotein for efficient IL-12 production.
Cell. Immunol. , 229 , 13-20  (2004)
原著論文3
T. Tamura, H. Ariga, T. Kinashi, et al.
The role of antigenic peptide in CD4+ T helper phenotype development in a T cell receptor transgenic model.
International Immunology , 16 , 1691-1699  (2004)
原著論文4
T. Wada, S. Maeda, A. Tamaru, et al.
Dual-probe assay for rapid detection of drug-resistant Mycobacterium tuberculosis by real-time PCR.
J. Clin. Microbiol. , 42 , 5277-5285  (2004)
原著論文5
K. Aoki, S. Matsumoto, Y. Hirayama, et al.
Extracellular mycobacterial DNA binding protein 1 participates in Mycobacterium-lung epithelial cell interaction through hyaluronic acid.
J. Biol. Chem. , 279 , 39798-39806  (2004)
原著論文6
Y. Maeda, T. Mukai, J. Spencer, et al.
Identification of immunomodulating agent from Mycobacterium leprae.
Infect. Immunity , 73 , 2744-2750  (2005)
原著論文7
M. Makino, Y. Maeda, N. Ishii.
Immunostimulatory activity of major membrane protein-II from Mycobacterium leprae.
Cell. Immunol. , 233 , 53-60  (2005)
原著論文8
S. Matsumoto, M. Matsumoto, K. Umemori,et al.
DNA augments antigenicity of mycobacterial DNA-binding protein 1 and confers protection against Mycobacterium tuberculosis infection in mice.
J. Immunol. , 175 , 441-449  (2005)
原著論文9
S. Kitada, R. Maekura, N. Toyoshima, et al.
Use of glycopeptidolipid core antigen for serodiagnosis of Mycobacterium avium complex pulmonary disease in immunocompetent patients.
Clin. Diagn. Lab. Immunol. , 12 , 44-51  (2005)
原著論文10
Y. Miyamoto, T. Mukai, N. Nakata, et al.
Identification and characterization of the genes involved in glycosylation pathways of mycobacterial glycopeptidolipids biosynthesis.
J. Bacteriol. , 188 (1) , 86-95  (2006)
原著論文11
T. Mukai, Y. Miyamoto, T. Yamazaki, et al.
Identification of Mycobacterium species by comparative analysis of the dnaA gene.
FEMS Microbiol. Lettr. , 254 , 232-239  (2006)
原著論文12
M. Makino, Y. Maeda, T. Mukai, et al.
Impaired maturation and function of dendritic cells by mycobacteria through IL-1β.
Eur. J. Immunol. , 36 , 1443-1452  (2006)
原著論文13
M. Makino, Y. Maeda, K. Inagaki.
Immunostimulatory activity of Recombinant Mycobacterium bovis BCG that secretes Major Membrane Protein II of Mycobacterium leprae.
Infect. Immunity , 74 (11) , 6264-6271  (2006)
原著論文14
T. Kikuchi, S. Uehara, H. Ariga, et al.
Augmented induction of CD8+ cytotoxic T-cell response and antitumour resistanceby T helpertype 1-induing peptide.
Immunology , 117 , 47-58  (2006)
原著論文15
M. Makino, Y. Maeda, Y. Fukutomi, et al.
Contribution of GM-CSF on the enhancement of the T cell-stimulating activity of macrophages.
Microbes and Infection  (2007)
原著論文16
N. Fujiwara, N. Nakata, S. Maeda, et al.
Structural characterization of a specific glycopeptidolipid containing a novel N-acyl-deoxy sugar from Mycobacterium intracellulare serotype 7 and genetic analysis of its glycosylation pathway.
J. Bacteriol.  (2007)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-