重症多形滲出性紅斑に対する眼科的治療法の確立

文献情報

文献番号
200627011A
報告書区分
総括
研究課題名
重症多形滲出性紅斑に対する眼科的治療法の確立
課題番号
H16-感覚器-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
木下 茂(京都府立医科大学視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 外園千恵(京都府立医科大学視覚機能再生外科学)
  • 橋本公二(愛媛大学医学部皮膚科)
  • 坪田一男(慶応大学医学部眼科)
  • 大橋裕一(愛媛大学医学部眼科)
  • 小泉範子(同志社大学研究開発推進機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
23,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多形滲出性紅斑の重症型であるStevens-Johnson症候群(以下SJ症候群)による重篤な視力障害を克服することを目的として、培養粘膜上皮シート移植(培養角膜上皮シート移植・培養口腔粘膜上皮シート移植)という新規の眼科的治療法を確立する。
研究方法
培養上皮シートの安全性向上のため、患者自己血清を用いた培養上皮シート作成を行い、組織所見と術中、術後経過を解析した。培養結膜上皮シートを家兎の瘢痕性角結膜上皮症モデルに移植し、経過解析と組織学的検討を行った。最重症患者を対象に、まず培養口腔粘膜上皮を用いた眼表面再建を行い、次に全層角膜移植を行う二期的手術を行い、臨床経過を解析した。基幹施設で作成した培養角膜上皮シートを分担施設へ移送して手術を実施する多施設研究を行った。SJ症候群患者のHLA遺伝子型を解析した。発症時の症状と治療を詳細に聴取し、視力との関連を検討、また皮膚科研究班と合同で症例検討を行い初期治療を検証した。
結果と考察
自己血清を用いた培養上皮シートは、組織所見、臨床経過ともに良好であった。家兎モデルに対する培養結膜上皮シート移植は、良好な角膜透明性と組織生着を得た。新しく開発した二期的手術により、これまで治療不可能であった最重症例患者で安定した視力回復を得た。多施設研究で上皮シート移送を安全に行うことができ、三施設で同等に良好な臨床成果を得た。今後国内で培養上皮シートを移送して、他施設で移植を行うことが可能と考えられた。SJ症候群患者ではHLA-A0206が有意に増加し、A1101が有意に減少していた。発症に何らかの患者素因が関与する可能性が高い。眼合併症を伴う患者では、発症時に眼充血が皮疹より先行する傾向があり、初期の眼局所ステロイド投与群において有意に視力予後が良好であった。このことより、発症初期の的確な診断と眼科治療が、視力予後改善のために重要と考えられた。
結論
SJ症候群の視力障害に対して、これまで視機能の回復を得る有効な治療法は皆無であっが、最重症例においても、二期的移植法により視機能の改善を得られることが明らかとなった。また従来再生医療で用いられてきた牛血清ではなく、患者自己血清を培養上皮シート作成に用いることができる。培養上皮シートを作成する際の細胞ソースとして結膜組織が使用できる可能性がある。本症候群の初期治療が視力に影響したことより、医療関係者に診断と治療を啓蒙する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2007-04-17
更新日
-

文献情報

文献番号
200627011B
報告書区分
総合
研究課題名
重症多形滲出性紅斑に対する眼科的治療法の確立
課題番号
H16-感覚器-002
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
木下 茂(京都府立医科大学視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 外園 千恵(京都府立医科大学視覚機能再生外科学 )
  • 橋本 公ニ(愛媛大学医学部皮膚科)
  • 坪田 一男(慶応大学医学部眼科)
  • 大橋 裕一(愛媛大学医学部眼科)
  • 小泉 範子(同志社大学研究開発推進機構再生医療)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多形滲出性紅斑の重症型であるStevens-Johnson症候群(以下SJ症候群)による重篤な視力障害を克服することを目的として、培養粘膜上皮シート移植を技術的に高度化して確立し、また本疾患の病態を明らかにして予後改善を行なう。
研究方法
患者の眼所見を客観的に評価し、視機能に影響を与える因子を検討した。培養粘膜上皮シート移植を実施し、長期経過を解析した。最重症患者に対する新規手術治療法を開発、検証した。患者自己血清の使用が培養上皮シート作成と移植に及ぼす影響を検討した。多施設スタディを実施した。培養粘膜上皮シートの新しい細胞ソースを検討した。患者HLAを解析した。自然免疫応答の異常の有無をGene Chipを用いて解析した。自然免疫破綻マウスの病態を解析し、本症候群との類似性を検討した。
結果と考察
角膜上皮幹細胞の疲弊・消失と眼表面の瘢痕性変化が眼合併症の特徴であり、これらが視力と相関した。培養角膜上皮シート移植は視機能改善に効果を示す一方で、長期経過ではアロ移植に伴う合併症として拒絶反応、感染症を生じ、一方で培養口腔粘膜上皮シート移植は合併症が少なく、19眼中12眼(63%)で2段階以上の視力改善を得た。最重症例において、培養口腔粘膜上皮シートを用いた眼表面再建を行い、次に全層角膜移植を行う二期的手術が有用であった。患者自己血清の使用は組織所見、術中術後経過に問題のないことを明らかにした。多施設スタディにおいて三施設すべてで、これまでの培養上皮シート移植と同等の良好な結果を得た。ヒト正常結膜細胞の中に角膜上皮に分化しうる細胞が存在し、また家兎モデルを用いた培養結膜上皮シート移植で良好な結果を得た。眼合併症を伴う本症患者でHLA-A*0206が有意に高頻度で認められた。患者の末梢血単核球は健常人(非発症者)と異なる自然免疫応答性を示し、また自然免疫破綻マウスがSJ症候群に極めて類似する眼表面の特異な炎症を発症し、易感染性を示した。
結論
SJ症候群眼病変の治療では角膜上皮幹細胞疲弊を補うための上皮移植が必要であり、その方法として培養角膜上皮シート移植また培養口腔粘膜上皮シート移植が有用である。最重症例においても二期的移植法により、視機能改善が可能であった。今後の新たな細胞ソースとして結膜組織が使用できる可能性がある。発症には個人的素因が存在し、病態には何らかの自然免疫応答異常が関与すると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200627011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、重症多形滲出性紅斑の眼合併症により高度の視覚障害に至った患者が外科的治療により安定した視力回復を得る方法を、国際的にも初めて確立した。本研究で作成した眼表面評価スコアは、瘢痕性角結膜上皮症の病態を客観的に把握する新たな方法であり、この領域の臨床研究に国際的に新たな視点を提案した。患者素因としてHLAの関与に民族による違いがあることを、日本人患者の解析により明らかとしたことは国際的にみても意義深い。 またその病態に、自然免疫応答異常が関与する可能性を世界で初めて指摘した。
臨床的観点からの成果
培養粘膜上皮シート移植を行った重症角膜疾患約100例の術後経過解析により、本治療法が重症多型滲出性紅斑の視力予後改善に有用であることが明らかとなった。これまで手術適応外とされた最重症例においても、培養粘膜上皮移植と全層角膜移植を二期的に行う新規術式により視力回復が可能となった。新しく開発した臨床スコアは、本疾患を代表とする角膜上皮幹細胞疲弊の客観的評価に大変有用であり、上皮移植の手術適応や術後の臨床評価に広く応用できる。
ガイドライン等の開発
本研究班は、皮膚科研究班(H16-難治-04 難治性疾患克服研究事業)と共同で重症多形滲出性紅斑(Stevens-Johnson症候群)の診断に必要な急性期所見を確定して診断基準2006を作成し、眼所見を副所見として記載した。平成18年11月厚生労働省発行の「重篤副作用マニュアル」においても、特徴的な眼所見と発症早期の眼科的治療について具体的に記載した。
その他行政的観点からの成果
薬害として急性発症し重篤な視力障害をきたす本症候群は、これまでに視機能回復のための有効な治療法がなかったが、今回開発した治療により視覚障害の等級が軽減した患者が多いことは注目に値する。視機能の改善により就業、就学が可能となることは、患者自身に恩恵があるのみでなく、社会的な貢献度も高い。本研究で発症初期の眼科治療が視力予後を左右することが示されたことより、今後は早期診断と早期治療を行うことで、視覚障害者の発生そのものを減らすことが可能になると考えられる。
その他のインパクト
平成16年12月22日朝日新聞1面にて、本研究による培養上皮移植により視力回復した本症患者が紹介された。平成18年1月18日日経産業新聞の1面および13面にて「先天技術」として本研究の培養移植技術が紹介された。平成18年11月、本研究に関する研究論文「再生医学による重症角膜疾患の新規治療法開発への戦略的研究」が第43回ベルツ賞の一等賞に選ばれ、広くマスコミで紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
128件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
64件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ueta M, Hamuro J, Yamamoto M et al.
Spontaneous Ocular Surface Inflammation and Goblet Cell Disappearance in IkappaBzeta Gene-Disrupted Mice
Investigative Ophthalmology & Visual Science , 46 (2) , 579-588  (2005)
原著論文2
Inatomi T, Nakamura T, Koizumi N et al.
Midterm Results on Ocular Surface Reconstruction Using Cultivated Autologous Oral Mucosal Epithelial Transplantation
American Journal of Ophthalmology , 141 (2) , 267-275  (2006)
原著論文3
Inatomi T, Nakamura T, Kojyo M et al.
Ocular Surface Reconstruction With Combination of Cultivated Autologous Oral Mucosal Epithelial Transplantation and Penetrating Keratoplasty
American Journal of Ophthalmology , 142 (5) , 757-764  (2006)
原著論文4
Nakamura T, Inatomi T, Sotozono C et al.
Transplantation of Autologous Serum-Derived Cultivated Corneal Epithelial Equivalents for the Treatment of Severe Ocular Surface Disease
Ophthalmology , 113 (10) , 1765-1772  (2006)
原著論文5
Leonard P. K. Ang, Takahiro Nakamura, Tsutomu Inatomi et al.
Autologous Serum Derived Cultivated Oral Epithelial Transplants for Severe Ocular Surface Disease
Archives of Ophthalmology , 124 , 1543-1551  (2006)
原著論文6
Minako Kaido, Murat Dogru, Masakazu Yamada
Functional Visual Acuity in Stevens-Johnson Syndrome
American Journal of Ophthalmology , 142 (6) , 917-922  (2006)
原著論文7
Ang LP, Sotozono C, Koizumi N et al.
A comparison between cultivated and conventional limbal stem cell transplantation for Stevens-Johnson syndrome
American Journal of Ophthalmology , 143 (1) , 178-180  (2007)
原著論文8
Ueta M, Sotozono C, Tokunaga K et al.
Strong association between HLA-A*0206 and Stevens-Johnson syndrome in the Japanese
American Journal of Ophthalmology , 143 (2) , 367-368  (2007)
原著論文9
Sotozono C, Ang LPK, Koizumi N et al.
A new grading system for the evaluation of chronic ocular manifestations in patients with Stevens-Johnson syndrome
Ophthalmology (in press)  (2007)
原著論文10
Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al.
Toll like receptor 3 gene polymorphisms in Japanese patients with Stevens-Johnson syndrome
British Journal of Ophthalmology (in press)  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-