内耳エネルギー不全の病態解析に基づいた突発性難聴の新規治療法開発

文献情報

文献番号
200627005A
報告書区分
総括
研究課題名
内耳エネルギー不全の病態解析に基づいた突発性難聴の新規治療法開発
課題番号
H16-感覚器-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井正人(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター )
  • 小川 郁(慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
18,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
突発性難聴は比較的発症頻度の高い難聴であるが、その病態は不明であり、発症後1ヶ月を過ぎて回復しない場合には治療法がない。本研究の目的は、我々の施設で開発した急性内耳エネルギー不全による突発性難聴モデル動物を用いて、これまで不明であった病態を分子レベルから解明し、その結果に基づいて有効な治療法を新規に開発することである。
研究方法
平成18年度は、a)蝸牛線維細胞の発生分化、b)蝸牛小胞体ストレス誘導による聴覚障害の病態、c)内耳エネルギー不全に続発する蝸牛外側壁の炎症反応・免疫反応、d)蝸牛感覚上皮細胞の再生メカニズム、e)急性内耳エネルギー不全におけるカスパーゼの役割と平衡障害の病態、f)内耳エネルギー不全モデルに対するアポトーシス阻害剤の内耳保護効果、g)蝸牛線維細胞と骨髄間葉系幹細胞の相互作用を解析した。
結果と考察
a)蝸牛線維細胞の各タイプは共通の前駆細胞を持ち分化した。
b)小胞体ストレスでは外有毛細胞を傷害し、急性内耳エネルギー不全の一部の病態にも関与した。
c)急性内耳エネルギー不全の炎症反応誘導に炎症性サイトカインや炎症細胞惹起物質が関与した。
d)生後、遺伝子転写が負に調節される遺伝子として支持細胞特異的に発現するPou3f3/Brn1を蝸牛上皮に見出した。
e)カスパーゼ阻害薬の予防的投与は急性内耳エネルギー不全モデルにおいて蝸牛外側壁を組織学的に保護し、さらに難聴を予防した。平衡障害は感覚毛の傷害が原因であった。
f)急性内耳エネルギー不全による永久的聴力閾値上昇モデルに対して、カスパーゼ阻害薬の難聴発症後の投与が聴覚回復効果を呈した。
g)骨髄MSCの上清は蝸牛線維細胞の増殖を促進し、蝸牛線維細胞の特異的マーカーの発現を減少し、間葉系幹細胞のマーカー陽性細胞を増加した。一方、蝸牛線維細胞培養上清は、骨髄MSCのNa-K-ATPase陽性細胞への分化を促進した。

結論
本年度の研究により、外側壁線維細胞の各タイプの共通の前駆細胞の存在、難聴の原因としての小胞体ストレスと炎症反応の強い関与、有毛細胞再生に関係しうる転写因子Pou3f3の同定、急性内耳エネルギー不全に対するカスパーゼ阻害薬の予防効果と治療効果、平衡障害の原因としての感覚毛障害、より効果的な移植あるいは薬剤治療開発のための骨髄MSCと蝸牛線維細胞の分化増殖の相互作用、について解明した。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

文献情報

文献番号
200627005B
報告書区分
総合
研究課題名
内耳エネルギー不全の病態解析に基づいた突発性難聴の新規治療法開発
課題番号
H16-感覚器-一般-006
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井正人(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター )
  • 小川郁(慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
突発性難聴の病態は不明であり、発症後1ヶ月を過ぎた難聴には治療法がない。最終的な病態としては内耳循環障害による急性内耳エネルギー不全が指摘されている。本研究の目的は、我々の施設で化学的アプローチを用いて世界で初めて開発した急性内耳エネルギー不全の突発性難聴モデル動物を用いて、その聴覚・平衡障害の病態を分子レベルから解明し、有効な治療法を開発することである。
研究方法
突発性難聴モデル動物を中心に、聴覚、組織、組織内ATP量、アポトーシスと再生と炎症、小胞体ストレス関連分子/シャペロン分子/サイトカインの発現と機能、蝸牛外側壁DNAマイクロアレイ解析、平衡機能障害と前庭組織、カスパーゼ阻害薬の予防・治療効果、骨髄間葉系幹細胞(MSC)移植による治療効果、蝸牛線維細胞とMSCとの相互作用、蝸牛線維細胞の発生分化様式を検討した。本研究では、動物実験を行なうため、「大学等における動物実験について」、「国立病院機構東京医療センター動物実験指針」を遵守して進めた。
結果と考察
突発性難聴モデル動物の難聴では蝸牛線維細胞の障害が主たる病変であった。これはカリウムイオンのリサイクル障害が本難聴の主たる病態であることを示唆する。蝸牛線維細胞にアポトーシスが生じ、その周囲の線維細胞で細胞増殖が認められ、それぞれ難聴発症と回復に関与していると考えられた。線維細胞障害に小胞体ストレス関連分子の関与を確認した。HSP70およびIL6の顕著な発現増強が防御機構としての作用を有すると推測した。カスパーゼ阻害薬の予防的あるいは治療的投与は、いずれも組織障害と難聴の顕著な抑制効果を認めた。内耳に移植されたMSCは、傷害部位へ生着し、聴覚改善を有意に促進した。MSCからの因子は未分化様蝸牛線維細胞の増殖を有意に促進し、蝸牛線維細胞からの因子はMSCの線維細胞への分化を誘導した。発生において各タイプ線維細胞の共通前駆細胞の存在が示唆された。
結論
循環障害による突発性難聴の病態を解明するために急性内耳エネルギー不全の難聴モデル動物を解析した。本内耳障害の病態を、器官レベルから分子レベルまで解明し、その結果に基づいた新規治療を本動物モデルで実施してその有効性を証明することができた。さらに効果を高めるための基礎的研究を推進して、治療効果の理解と臨床応用への可能性を高めた。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200627005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで急性内耳エネルギー不全の動物を長期生存させて解析することができなかったため、その分子病態は国際的な関心であるにも関わらず不明であった。今回、本病態の解析のために従来にない動物モデルを、分子レベルの研究情報と試薬が揃っているラットで開発できたことにより、分子メカニズムの解明を、世界に先駆けて大きく進めることができた。またその結果に基づいて線維細胞のアポトーシス抑制と幹細胞移植による治療の開発とその有効性を動物実験で示すことができた。
臨床的観点からの成果
急性内耳エネルギー不全の動物モデルで解明された難聴の病態に基づく新規治療を、本モデル動物で検討することにより、これまでステロイド投与以外に治療法がなかった突発性難聴に対して、急性期および慢性期に有効性を期待できる治療法を開発することができた。そして蝸牛線維細胞の発生あるいは再生という新しい観点からの研究から、新規治療の効果をより高めるために役立つ基礎的メカニズムを解明し、臨床応用への可能性を高めた。
ガイドライン等の開発
現時点で審議会等で参考にされた場合はない。ガイドラインに準ずる成果としては、アポトーシス阻害薬や幹細胞移植の治療を難聴発症後のどの時点で、どのような投与経路で行うと、聴覚回復に有効であるかを示すことができた。また急性内耳エネルギー不全による障害の分子メカニズムには、脳梗塞、心筋梗塞などの内耳以外の臓器の急性エネルギー不全による障害と多くの共通点が認められたことより、脳梗塞、心筋梗塞などに適応のある薬剤が、突発性難聴にも有効である可能性を示した。
その他行政的観点からの成果
現時点で審議会、行政施策に反映された成果はまだない。過去3年間に学会、論文、ホームページ等で本研究結果を発表、公開して、難聴、めまいの医学研究と医療の向上に役立てた。また、今後もまだ未発表、未公開の研究成果を発表、公開していく予定である。
その他のインパクト
国立病院機構東京医療センターで開催された以下のシンポジウムおよびワークショップにて本研究成果を発表した。
1)内耳液恒常性の障害に対する再生治療、第1回感覚器シンポジウム「内耳再生医療に向けてー基礎研究から治療戦略へー」2006年3月24日
2)難聴の遺伝子検査と再生医療における産官学連携、感覚器に関する研究発表会とワークショップ -産官学連携の展望-、2006年5月26日
3)内耳の再生治療、第2回感覚器シンポジウム、シンポジウムI 感覚器医学 最近の進歩
2007年2月24日

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hoya N, Okamoto Y, Kamiya K, et al.
A novel animal model of acute cochlear mitochondrial dysfunction
Neuroreport , 15 (10) , 1597-1600  (2004)
原著論文2
Okamoto Y, Hoya N, Kamiya K, et al.
Permanent threshold shift caused by acute cochlear mitochondrial dysfunction is primarily mediated by degeneration of the lateral wall of the cochlea
Audiology and Neurotology , 10 , 220-233  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-