網膜血管新生抑制機構の解明とその応用

文献情報

文献番号
200627003A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜血管新生抑制機構の解明とその応用
課題番号
H16-感覚器-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
細谷 健一(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 立川 正憲(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部 )
  • 笹岡 利安(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
10,120,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病網膜症は日本での成人中途失明原因の第一位となっているが、現在用いられているレーザー光や手術による治療法は網膜への侵襲が強く、治療薬の早期開発が望まれている。糖尿病網膜症における血管新生は、網膜血管の周囲にあるペリサイトの脱落から始まっており、網膜ペリサイトから分泌される因子が網膜血管内皮細胞の増殖を制御していると仮説を立てた。我々が樹立した条件的不死化網膜血管内皮細胞株(TR-iBRB)と網膜ペリサイト株(TR-rPCT)の共培養解析の結果、TR-rPCT細胞培養濃縮液をTR-iBRB細胞に添加すると増殖が著しく抑制されることを見いだした。さらに、網膜ペリサイトから分泌される網膜血管内皮細胞の増殖抑制因子として新規トロポミオシンおよびシンタキシン2Dを同定した。本研究では、これらの2つの因子の血管内皮細胞増殖抑制機構を解明することを目的とした。
研究方法
TR-iBRBおよびTR-rPCTはDulbecco’s modified Eagle’s mediumで培養した。TR-rPCT細胞のconditioned medium (rPCT-CM)はTR-rPCT細胞培養上清を限外濾過法によって濃縮した。TR-iBRB細胞における細胞周期制御タンパク質の発現変動は、Western blot法にて解析した。
結果と考察
TR-iBRB細胞に、10 microMの新規トロポミオシンを添加するとrPCT-CM と同様に、G1期からS期への移行を促進するcyclin-dependent kinase (cdk)4、cdk6およびこれら2つのcdkと複合体を形成して細胞周期促進するcyclin D1の発現を減少させた。さらにDNA-polymerase-delta associated proteinであるPCNAの発現も減少させた。一方、10 microMシンタキシン2Dの添加においては、cdk4の発現減少が示されたものの、他の細胞周期タンパク質には影響を与えなかった。TR-iBRB細胞に導入されているSV40 large T抗原の発現はいずれの条件下においても変化はなかった。
結論
本研究によって、新規トロポミオシンの内皮細胞増殖抑制機構として、cyclin D1、cdk4、cdk6の発現を減少させることで細胞周期のG1/S期の移行を制御していることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

文献情報

文献番号
200627003B
報告書区分
総合
研究課題名
網膜血管新生抑制機構の解明とその応用
課題番号
H16-感覚器-一般-004
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
細谷 健一(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 立川 正憲(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部)
  • 笹岡 利安(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部)
  • 登美 斉俊(国立大学法人富山大学大学院医学薬学研究部)
  • 寺崎 哲也(東北大学未来科学技術共同研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、網膜ペリサイトから分泌される網膜血管内皮細胞増殖抑制因子を同定し、網膜血管新生抑制機構を解明することを目的とした。
研究方法
網膜血管内皮細胞株(TR-iBRB)と網膜ペリサイト株(TR-rPCT)はDulbecco’s modified Eagle’s mediumで培養した。TR-rPCT細胞のconditioned medium (rPCT-CM)はTR-rPCT細胞培養上清を限外濾過法によって濃縮した。細胞周期制御タンパク質の発現変動は、Western blot法、遺伝子解析はGeneChip、RT-PCR法を用いて解析した。 rPCT-CM中の細胞増殖抑制因子の同定は、MALDI-TOFMS/PMF法を用いて行った。
結果と考察
rPCT-CMで処理したTR-iBRBのGeneChip解析から、growth arrest DNA damage-inducible 45 geneなど血管新生に関わっていると考えられる遺伝子候補を多数同定した。TR-rPCT由来の新規血管内皮細胞増殖抑制液性因子としてトロポミオシンの新規アイソフォームおよびシンタキシン2Dを単離、同定した。それぞれのタンパク質は網膜血管内皮細胞の増殖抑制活性を示した。rPCT-CMによる網膜血管内皮細胞増殖抑制メカニズムがPKC介在型p44/22MAPKシグナリング抑制であることを解明した。新規トロポミオシンの網膜血管内皮細胞増殖抑制機序は、rPCT-CMで見られる機序と同様であり、網膜ペリサイトの網膜血管内皮細胞増殖抑制効果の一部を担っていることが示唆された。網膜毛細血管内皮細胞には、中性アミノ酸トランスポーター(LAT)1が特異的に発現し、必須アミノ酸を輸送していることを見いだした。糖尿病網膜症における網膜虚血状態のin vitroモデルとしてグルコース枯渇条件下で網膜血管内皮細胞を培養した結果、LAT1 mRNA発現量の増加およびアミノ酸の取り込み速度の上昇、さらにLAT1遺伝子promoter活性の上昇が示された。
結論
本研究によって、内皮細胞増殖抑制因子として新規トロポミオシンが同定され、網膜血管新生阻害剤の有力な標的分子としてLAT1を提示することができ、血管新生抑制治療法の開発につながっていくことが期待される

公開日・更新日

公開日
2007-04-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200627003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血管内皮細胞増殖抑制因子を同定し、網膜血管新生抑制機構を解明することを第一の目的に行った。この目的に関しては、網膜ペリサイト由来液性因子が同定できたこと、および網膜ペリサイト培養液とトロポミオシンの新規アイソフォームによる網膜血管内皮細胞増殖抑制機構を解明したことで、研究目標の最も重要な部分は達成することができたと考えている。この成果をもとに、最終目標である糖尿病治療薬の開発は今後の研究で達成させたいと考えている。
臨床的観点からの成果
残念ながら、研究期間内では臨床開発まで達成できなかった。
ガイドライン等の開発
ガイドラインを開発する研究テーマではない。
その他行政的観点からの成果
これらの研究成果から、網膜血管内皮細胞増殖抑制因子として作製したリコンビナントタンパク質を用いた糖尿病網膜症治療薬の開発および網膜血管新生の分子メカニズムの解明に基づいた血管新生抑制遺伝子治療法の開発につながっていくと考えている。
その他のインパクト
今まで、優れたin vitro実験系が無く、網膜ペリサイトが網膜血管内皮細胞の増殖制御にどのように関わっているか解明されていなかったが、申請者のグループによりin vitro実験系を確立したこと、網膜ペリサイト由来液性因子を同定したこと、及び同定した因子による網膜血管内皮細胞増殖抑制機構を解明したことで、眼科領域並びに細胞生物学領域に貢献できたと考えている。さらに、我々が開発したin vitro実験系を用いた国際共同研究から新知見も見いだすことができ、国際学術貢献もできたと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特開2006-238844
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tomi M, Hosoya K.
Application of magnetically isolated rat retinal vascular endothelial cells for the determination of transporter gene expression levels at the inner blood-retinal barrier.
J. Neurochem. , 91 , 1244-1248  (2004)
原著論文2
Hosoya K, Tomi M.
Advances in the cell biology of transport via the inner blood-retinal barrier: establishment of cell lines and transport functions.
Biol. Pharm. Bull. , 28 (1) , 1-8  (2005)
原著論文3
Kondo T, Hosoya K, Hori S et al.
PKC/MAPK signaling suppression by retinal pericyte conditioned medium prevents retinal endothelial cell proliferation.
J. Cell. Physiol , 203 , 378-386  (2005)
原著論文4
Fukui K, Wada T, Kagawa S et al.
Impact of the liver-specific expression of SHIP2 (SH2-containing inositol 5'-phosphatase 2) on insulin signaling and glucose metabolism in mice.
Diabetes , 54 , 1958-1967  (2005)
原著論文5
Nakashima T, Tomi M, Tachikawa M et al.
Evidence for creatine biosynthesis in Muller glia.
Glia , 52 , 47-52  (2005)
原著論文6
Tomi M, Mori M, Tachikawa M et al.
L-type amino acid transporter 1-mediated L-leucine transport at the inner blood-retinal barrier
Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. , 10 , 2522-2530  (2005)
原著論文7
Nagase K, Tomi M, Tachikawa M et al.
Functional and molecular characterization of adenosine transport at the rat inner blood-retinal barrier.
Biochim. Biophys. Acta , 1758 , 13-19  (2006)
原著論文8
Katayama K, Ohshima Y, Tomi M et al.
Application of microdialysis to evaluate the efflux transport of estradiol 17-beta glucuronide across the rat blood-retinal barrier.
J. Neurosci. Methods , 156 , 249-256  (2006)
原著論文9
Minamizono A, Tomi M, Hosoya K
Inhibition of dehydroascorbic acid transport across the rat blood-retinal and -brain barriers in experimental diabetes.
Biol. Pharm. Bull. , 29 (10) , 2148-2150  (2006)
原著論文10
Nagira K, Sasaoka T, Wada T et al.
Altered subcellular distribution of estrogen receptor alpha is implicated in estradiol-induced dual regulation of insulin signaling in 3T3-L1 adipocytes.
Endocrinology , 147 , 1020-1028  (2006)
原著論文11
Tomi M, Terayama T, Isobe T et al.
Functional and regulation of taurine transport at the inner blood-retinal barrier
Microvasc. Res. , 73 , 100-106  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-