新しい無侵襲的網膜機能計測法の開発および臨床応用

文献情報

文献番号
200627002A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい無侵襲的網膜機能計測法の開発および臨床応用
課題番号
H16-感覚器-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
角田 和繁(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 谷藤 学(理化学研究所脳科学総合研究センター脳統合機能研究チーム)
  • 東 範行(国立成育医療センター眼科)
  • 平形 明人(杏林大学医学部眼科)
  • 篠田 啓(独立行政法人東京医療センター眼科)
  • 楠城 紹生(株式会社ニデック医療事業部診断機器グループ診断機器開発チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
17,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、ヒト網膜の神経活動を、非侵襲的かつ簡便に可視化する画像診断システムを開発、臨床応用することを目的に置く
研究方法
網膜内因性信号測定法の研究計画は大きく分けて次の3つの段階から構成された。すなわち、①測定装置本体、周辺機器およびデータ解析ソフトウェアーの開発、②実験動物および正常ヒト眼底を用いた網膜内因性信号の基礎データの収集、③患者を対象とした臨床治験である。また、これらとは並列して、内因性信号計測法の原理および適応疾患を実際の疾患の立場から考案する目的で、成育医療センターおよび杏林アイセンターにおいて黄斑部網膜疾患の各種治療における黄斑部機能の詳細な検討を行った。さらに、慶應義塾大学において、視神経および網膜疾患の経角膜電気治療による視機能の影響を検討した。
結果と考察
主任研究者の角田は、錐体視細胞および杆体視細胞の密度分布に一致した神経活動のトポグラフィーを動物眼で記録することに世界で初めて成功した。また、その後の詳細な研究により、内因性信号の閾値がERGの暗順応b波と同等に低く、極めて感度の高い検査法であることも明らかになった。
さらに、視神経乳頭における内因性信号が、光刺激による血流変化を忠実に反映していることが明らかになった。すなわち、本法は網膜内層の神経活動にともなう血流変化をも捕らえていることが分かり、これにより緑内障、虚血性視神経症など、神経節細胞の異常を検出する検査法としての可能性も示された。
結論
社会の高齢化に伴い黄斑部を脅かす疾患の罹患者数が増加傾向にあるなか、黄斑部網膜の機能評価についてはその重要性がますます高まり、各国で激しい開発競争が行われている。本研究においては、新しい黄斑部機能の客観的評価法として、我々の開発する内因性信号計測法がとくに非常に優れた感度および安定性を持ち、臨床応用に向けた大きな可能性を持つものであることが示された。
視細胞の機能計測だけでなく、視神経機能計測・褪色変化計測等、様々な客観的機能計測のオプションが可能であることが示され、本研究の臨床応用における対象疾患が広がった。臨床現場に応用するには至っていないものの、一連の研究により内因性信号計測法の実用化への可能性は着実に高まった。眼底疾患の早期診断、治療効果判定における本計測法の臨床的価値は飛躍的に増大し、国民の健康福祉において更なる貢献が見込まれると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2007-08-21
更新日
-

文献情報

文献番号
200627002B
報告書区分
総合
研究課題名
新しい無侵襲的網膜機能計測法の開発および臨床応用
課題番号
H16-感覚器-一般-003
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
角田 和繁(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 谷藤 学(理化学研究所脳統合機能研究チーム脳統合機能研究チーム)
  • 東 範行(国立成育医療センター眼科)
  • 平形 明人(杏林大学医学部眼科学教室)
  • 篠田 啓(独立行政法人東京医療センター眼科)
  • 楠城 紹生(株式会社ニデック医療事業部診断機器開発グループ診断機器開発チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、網膜内因性信号計測技術を確立し、眼科臨床において網膜の神経活動を可視化することのできる黄斑部機能の新しい評価法を実用化に近づけることを目標とする。
研究方法
最終目標へのプロセスとして、①計測機器本体のハード、ソフト面の改良、②実験動物を用いた内因性信号の生理学的機構の解明、測定プロトコールの開発、③正常ヒト被験者における計測、④眼科臨床における内因性信号計測の適応疾患の選別、⑤さまざまな疾患を有する患者における計測、を計画した。具体的には、分担研究者と共同し研究計画は大きく分けて次の3つの段階から構成された。すなわち、1)信号の基本的性質および発生起源の解明のための研究を動物においておこない、あわせて測定精度の向上をはかる。2)ヒト正常被験者による網膜内因性信号の記録。測定プロトコールの改良。画質向上のためのハード、ソフト面での改良。3)臨床応用にむけた測定適応疾患の選択および測定プロトコールの決定のための各種網膜疾患における病態生理の解明、である。
結果と考察
動物における基礎的実験においては、錐体視細胞および杆体視細胞の密度分布に一致した神経活動のトポグラフィーを動物眼で記録することに世界で初めて成功した。また、その後の詳細な研究により、内因性信号の閾値がERGの暗順応b波と同等に低く、極めて感度の高い検査法であることも明らかになった(Hanazono et al, IOVS, in press)。さらに、内因性信号の信号起源は外層の光散乱変化、内層の血流変化など様々な反応の総和であり、刺激条件を変えることで、網膜神経活動を層別にマッピングできる可能性も開かれた。これは、本計測法が黄斑部網膜疾患だけではなく、緑内障、虚血性視神経症など、神経節細胞の異常を検出しうることが示された。
また、ヒトにおける計測においては、局所刺激によって網膜の刺激部位に一致した内因性信号を得ることができた。
また、病的網膜における機能評価については、成育医療センターにおいて未熟児網膜症、杏林大学において高度近視および視神経乳頭ピットに伴う黄斑剥離、慶應義塾大学において網膜血管閉塞性疾患の患者について、それぞれ今後の臨床応用を進めるうえで重要な新たな知見が得られた。
結論
網膜内因性信号計測法の臨床応用にむけて機器開発、生体基礎実験、基礎的臨床データ収集の各研究部門が大きな進展を見せ、総合的にも実用化に向けての意義ある進捗が得られた。

公開日・更新日

公開日
2007-08-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200627002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでの研究により、網膜内因性信号計測法が非常に感度の高い神経機能計測法であることが示された。また、観察光波長や刺激条件を変えることで、外層の①網膜外層の光散乱変化、②網膜外層の色素褪色変化、③網膜中・内層の血流変化等、発生起源の異なる数種類の網膜機能をマッピングすることが分かった。また、局所刺激を用いた研究では、内因性信号の優れた空間分解能が示されるとともに、将来的には、網膜の微小局所刺激による他覚的視野検査のような方法で臨床応用できる可能性も示唆された。
臨床的観点からの成果
ヒト正常被験者における計測では、輪状局所刺激に対する網膜の局所応答を明瞭に記録することができた。さらに可視光での計測にて、黄斑部で視反応にともなう吸光度上昇域が明瞭にみられたことは、実用化に向けた大きな進展と思われた。
各施設で得られた患者における網膜機能評価研究では、それぞれ未熟児網膜症、高度近視眼および乳頭ピットに伴う非裂孔原性網膜剥離、経角膜電気刺激療法について新たな知見が得られており、網膜内因性信号計測の適応疾患の選定、測定条件の検討にとって非常に有意義な資料となった。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
本研究の進捗により、黄斑部を含む様々な網膜疾患のスクリーング的評価、手術等の治療前後における網膜機能の客観的評価、検査の施行が困難な乳幼児における客観的網膜機能評価等について応用が可能であり、視覚的機能を的確に評価することによる眼疾患の早期発見、失明予防に大きく寄与しうる。これまでの研究で網膜内因性信号計測法の臨床応用にむけて機器開発、生体基礎実験、基礎的臨床データ収集の各研究部門が大きな進展を見せ、総合的にも実用化に向けての意義ある進捗が得られた。
その他のインパクト
網膜内因性信号計測法は、生体網膜の神経活動をリアルタイムで画像化する世界初の検査法である。このため、平成16年に本法が始めて論文発表された際には、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞において、「網膜疾患の早期発見を可能にする、新しい網膜活動の画像化技術」として広く国民に紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
29件
原著論文(英文等)
96件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
113件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計8件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hanazono, Tsunoda, Shinoda, et al
Intrinsic signal imaging in macaque retina reveals different types of flash-induce light reflectance changes of different origins
Investigative Ophthalmology & Visual Science  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-