網膜刺激型電極による人工視覚システムの開発

文献情報

文献番号
200627001A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜刺激型電極による人工視覚システムの開発
課題番号
H16-感覚器-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
田野 保雄(大阪大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 不二門 尚(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 澤井 元(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 太田 淳(奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科)
  • 近藤 峰生(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 平形 明人(杏林大学医学部)
  • 大路 正人(滋賀医科大学)
  • 八木 哲也(大阪大学大学院工学系研究科)
  • 小澤 素生((株)ニデック・視覚研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
107,717,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会を迎え、高齢者のQOL維持に大きな問題になっているが、視細胞の機能が喪失した網膜色素変性および陳旧性の加齢黄斑変性の症例に対しては、これまで有効な治療法がなかった。
 本研究では、このような失明眼の眼内に網膜刺激電極を埋め込み、網膜神経節細胞を電気的に刺激することで視覚機能再生を目指した、「網膜刺激型電極による人工視覚」の研究開発を行なった。
 H18年度は、残存する視細胞の画像診断法および電極による網膜賦活部位の機能的画像診断法の確立、中型動物での網膜色素変性モデルの確立を目標とした。
研究方法
非対称性パルスを用い、網膜を刺激した場合の組織損傷閾値を検討した。また、分散型刺激電極アレイを1ヶ月間の埋植した眼の組織像を観察した。
網膜の機能的イメージング法により、STS法により興奮する範囲を検討した。また、補償光学を用いた超高精度の眼底カメラを開発し、黄斑変性の症例の網膜の視細胞を計測した。
網膜下電極として、分散型刺激電極方式を新たに考案し,その基本実証を行った。体外装置から体内装置を経て16極で電流刺激ができるシステムを開発した。
網膜色素変性の原因となるPro347Le変異をウサギに導入した。
結果と考察
非対称性パルスの電流閾値は0.5mAで、対称パルスでの0.7mAを下回る結果となった。非対称性パルスを用いる場合には、電荷バランスを厳密にとる回路が必要であることが示唆された。分散型刺激電極アレイ周囲には炎症細胞が観察されたが、網膜に明らかな病的所見は観察されなかった。
視角約2°程度の網膜部位は、STS刺激で賦活される網膜部位であることが示された。また、補償光学眼底カメラにより変性部位において、視細胞の変性したが画像が得られ、人工網膜の移植部位を決定する上で有用と考えられた。
網膜電図の振幅が減少しており、世界で初めてウサギで進行性の失明動物モデルを作成することに成功したことが確認された。
結論
脈絡膜上―経網膜電気刺激方式(STS)の、有効性、安全性が確認された。今後は長期的に埋植可能なSTS方式によるトータルシステムを作成し、本研究期間に作成した網膜色素変性家兎を用いた慢性実験で確かめ、臨床的に用いることができるように研究を進める。

公開日・更新日

公開日
2007-08-21
更新日
-

文献情報

文献番号
200627001B
報告書区分
総合
研究課題名
網膜刺激型電極による人工視覚システムの開発
課題番号
H16-感覚器-一般-001
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
田野 保雄(大阪大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 不二門 尚(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 澤井 元(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 太田 淳(奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科)
  • 近藤 峰生(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 平形 明人(杏林大学医学部)
  • 大路 正人(滋賀医科大学)
  • 八木 哲也(大阪大学大学院工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会を迎え、高齢者のQOL維持に大きな問題になっている。これまで有効な治療法がなかった網膜色素変性や瘢痕期加齢黄斑変性の症例に対しても、網膜を電気刺激すると、擬似視覚を感じ得ることが明らかになってきた。本研究では、このような視覚機能再生を目指した、「網膜刺激型電極による人工視覚」の研究開発を行なった。
 本研究期間においては、本邦独自の方式である脈絡膜上―経網膜刺激方式(STS方式)で眼前指数弁程度の人工視覚を急性試験で獲得することを目標とした。
研究方法
研究は、コンソーシアムを組み、眼鏡に取り付けられた撮像装置(CCDカメラ)、画像処理システム、送信装置、送電装置(1次コイル)からなる体外装置と2次コイル、受信装置、パルス発生装置、脈絡膜上腔に置かれた刺激電極からなる体内装置の開発を工学側が行い、刺激電極の生体適合性、侵襲の少ない術式の開発、電極刺激により得られる視覚機能の評価、電気刺激による神経細胞の保護などの研究を医学側の研究者が、並行して緊密に連絡をとりながら行う方式をとった。
結果と考察
2004年には、フレキシブル刺激電極を開発し、家兎で有効性、安全性を示した。また、指数弁程度の分解能が得られることが確認された。また、経角膜的電気刺激の神経保護効果があることを見出した。2005年には、安全電流閾値は0.7mAであることを確かめた。また、失明した網膜色素変性患者に対して、STS方式による人工網膜を用いた急性臨床試験を行った。その結果、安全閾値下の電流で2点弁別が可能な人工視覚が得られることが確認された。2006年には、二相性刺激が高効率で低消費電力であることが示唆された。補償光学高精細眼底カメラでは、視細胞の変性を直接示す所見が得られた。光学的機能画像では、STS法により賦活部位が視角約2度程度に限局していることが示された。ロドプシン変異を導入した家兎で、網膜電図の振幅が正常の約半分に減少していることを確認し、世界で初めて網膜変性家兎モデル作成に成功した。
結論
STS法を用いて、動物で安全性と有効性が確認され、網膜色素変性患者においても、2点弁別可能な擬似光覚を誘起可能であることが確認された。このことは、本方式による人工視覚システムが実用化可能であることを示唆するものである。今後は実用機の完成を目指し研究を進める。

公開日・更新日

公開日
2007-08-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200627001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
非対称性パルスの電流閾値は0.5mAで、電荷バランスを厳密にとる回路が必要であることが示唆された。分散型刺激電極アレイ周囲には炎症細胞が観察されたが、網膜に明らかな病的所見は観察されなかった。視角約2°程度の網膜部位は、STS刺激で賦活される網膜部位であることが示された。また、補償光学眼底カメラにより変性部位において、視細胞の変性したが画像が得られ、人工網膜の移植部位を決定する上で有用と考えられた。網膜色素変性の原因となるPro347Le変異をウサギに導入し、網膜電図における振幅減少を確認した。
臨床的観点からの成果
高齢化社会を迎え、高齢者のQOL維持が大きな問題になっているが、本研究では、これまで有効な治療法がなかった網膜色素変性および陳旧性の加齢黄斑変性の症例に対して、眼内に網膜刺激電極を埋め込み、網膜神経節細胞を電気的に刺激することで視覚機能再生を目指した、「網膜刺激型電極による人工視覚」の研究開発を行なった。急性の臨床試験で、重症の網膜色素変性患者において、STS方式で2点弁別が可能な人工視覚が得られることが示さた。
ガイドライン等の開発
網膜障害をきたさない安全電流閾値が、対称パルスで0.7mA、非対称性パルスでは0.5mAであることを確認し、現在ガイドライン作成に向け、検討中である。また、光覚弁に視力低下したから10年以上経過した重症網膜色素変性患者の協力を得て施行した急性臨床試験の結果を踏まえ、レシピエント側のガイドライン作成も検討中である。
その他行政的観点からの成果
本研究は、現在治療方法がない網膜変性による視覚障害者に、復明の希望を与えるものであり、また臨床応用が実現して、これらの患者が自立した生活が送れる様になれば、介護に要する社会福祉の負担を軽減することにもなる。さらに、人工視覚システムが実用化し普及すれば、現在欧米中心の人工臓器技術に対して、わが国より発信できる新技術となるものと期待される。
その他のインパクト
体外撮像型の人工視覚の開発について報道された(日本経済新聞 2004年10月11日)。
網膜電気刺激が視細胞に対しても神経保護効果を持ち、眼疾患の進行抑制に効果が期待できることが報道された(日本経済新聞 2006年12月18日)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計8件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanda H, Morimoto T, Fujikado T, et al
Electrophysiological studies of the feasibility of suprachoroidal- transretinal stimulation for artificial vision in normal and RCS rats.
Invest Ophthalmol Vis Sci. , 45 , 560-566  (2004)
原著論文2
Sakaguchi H, Fujikado T, Fang X, et al
Transretinal electrical stimulation with a suprachoroidal multichannel electrode in rabbit eyes.
Jpn J Ophthalmol. , 48 , 256-261  (2004)
原著論文3
Nakauchi K, Fujikado T, Kanda H, et al
Transretinal electrical stimulation by an intrascleral multichannel electrode array in rabbit eyes.
Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. , 243 , 169-174  (2005)
原著論文4
Morimoto T, Miyoshi T, Matsuda S, et al
Transcorneal electrical stimulation rescues axotomized retinal ganglion cells by activating endogenous retinal IGF-1 system.
Invest. Ophthalmol. Vis Sci. , 46 , 2147-2155  (2005)
原著論文5
Fujikado T, Morimoto T, Matsushita K, et al
Effect of Transcorneal Electrical Stimulation in Patients with Nonarteritic Ischemic Optic Neuropathy and Traumatic Optic Neuropathy
Jpn J Ophthalmol. , 50 , 266-273  (2006)
原著論文6
J. Ohta, T. Tokuda, K. Kagawa, et al
Silicon LSI-Based Smart Stimulators for Retinal Prosthesis
IEEE Eng. Medicine & Biology Magazine , 25 (5) , 47-59  (2006)
原著論文7
Morimoto T, Fukui T, Matsushita K, et al
Evaluation of residual retinal function by pupillary constrictions and phosphenes using transcorneal electrical stimulation in patients with retinal degeneration.
Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol , 244 , 1283-1292  (2006)
原著論文8
Terasawa Y, Tashiro H, Uehara A, et al
The development of a multichannel electrode array for retinal prostheses
J. of Art. Org. , 9 (4) , 263-266  (2006)
原著論文9
J. Ohta, T. Tokuda, K. Kagawa, et al
Laboratory Investigation of Microelectronics-Based Stimulators for Large-Scale Suprachroidal Transretinal Stimulation (STS)
J. Neural Eng.  (2007)
原著論文10
Fujikado T, Kanda H, Kusaka S, et al
Evaluation of phosphene by extraocular stimulation in normals and by suprachoroidal - transretinal stimulation in patients with retinitis pigmentosa.
Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol  (2007)
原著論文11
Nakauchi K, Fujikado T, Kanda H, et al
Threshold suprachoroidal-transretinal stimulation current resulting in retinal damage in rabbit.
J Neural Eng. , 4 , 50-57  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-