長寿社会における保健・医療・福祉の一貫したサービス体制の整備と評価に関する研究 -脳卒中予防に始まり、寝たきり・痴呆の予防を中心に-

文献情報

文献番号
199700215A
報告書区分
総括
研究課題名
長寿社会における保健・医療・福祉の一貫したサービス体制の整備と評価に関する研究 -脳卒中予防に始まり、寝たきり・痴呆の予防を中心に-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
嶋本 喬(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 湊孝二(下館保健所)
  • 横山孝一(岩瀬町保健センター)
  • 山口晴道(明野町)
  • 横田紀美子(協和町保健センター)
  • 磯博康(筑波大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、保健・医療・福祉の一貫したサービス体制により、長寿社会における高齢者のADL、QOLの良好な保持、増進をはかることを目的として行った。そのために、茨城県下の産業構造や人口規模の似通った隣接3町を対象として、高齢者のADL、QOLの実態を調査し、3町の保健・医療・福祉のサービス体制の整備状況、老健法に基づく基本健康診査の諸成績、脳卒中発生率との関連を比較検討した。
研究方法
対象は茨城県西部の互いに隣接する3町(A町、B町、C町)である。3町とも主産業は農業である。A町は1981年以来、大学から技術指導、技術援助を得て、長期にわたり、組織的に強力な脳卒中対策を実施してきた地域であり、B町は同じく1981年以来、大学からの技術指導の下に同様に脳卒中予防に取り組んできた。C町は最近まで、老人保健法に基づく対策は一わたり実施してきたが、あまり組織立ったものではなかった。A町B町は各種施設、マンパワー等が比較的よく整備されているが、C町はA 町、B町のような保健活動を支える強力な住民組織や地域医療の拠点となる中心的病院が町内に存在せず、熱心な保健婦活動によって基本検診の受診率のみは比較的高率に保たれているというのが1995年の状況であった。・最初に3町の寝たきり・痴呆の実態を概括的に把握した。これには保健所の指導の下に3町の保健婦がそれぞれに工夫したその町の特性に応じた独自の調査方法で、しかし、共通の調査票を用いて、在宅、入所、入院の別なく、もれなく把握することに努めた。
・既存の資料を活用するため、3町の老人保健法による健康診査の受診成績を数年間にわたって合わせ集計、解析した。これは主として保健所が担当した。
・3町の脳卒中の実態を把握するため、3町の脳卒中発生者の調査を行った。A町、B町は従来から実施してきたが、大学、保健所の指導と援助の下にC町でも保健婦が中心となって行った。
・3町の65歳以上の在宅高齢者についてADLの状況を共通の質問紙法(都老健式)によって調査した。調査方法は3町の特性に応じて住民組織の協力を得て、工夫して行った。
・3町の65歳以上の在宅要介護者について、保健・医療・福祉の各種サービスの利用状況及びサービスについての希望を調査した。
・以上の調査研究事業を通じて、3町のサービス体制の整備の進渉状況を比較した。
結果と考察
1)脳卒中予防対策が進んだA 町は寝たきり・痴呆の年齢が高齢者に偏る傾向があったが、組織的な対策を開始したばかりのC町は、その逆であった。
2)3町の脳卒中発生率はA町が低く、C町で高かった。又、脳卒中による寝たきり者数は最近の15年間でA町での低下がB町よりも著しい。C町の状況は過去の成績が得られないため推移は不明である。
3)老人保健法の基本健康診査の受診成績を3町で比較すると、男女とも40歳代から70歳代にかけて最大血圧値、最小血圧値ともA町が最も低く、B町、C町はほぼ等しい。又、血清総コレステロールについてみると、比較的近代化の進んだ平地農村のA町、 C町がほぼ等しく、山間部を有し、伝統的な日本型のライフスタイルを比較的よく残しているB町が男女、何れの年齢層でも低い。
4)高齢者(65歳以上男女)のADL、QOLに関する調査の実施状況はA町 2,459人(回答率83%)、B町3,802人(86%)、C町1,627人(50%)であった。従来から、脳卒中予防対策の活動を通じて住民から健康教育を推進し、強固な住民組織を確立しているA、B両町では高い回収率を得たが、これらの実績のないC町では保健婦の努力にもかかわらず50%にとどまった。
上記の調査で日常生活動作に関する5項目のうち、少なくとも1項目に半介助又は全介助と答えた在宅の要介護者はA町67人、B町134人、C町98人であり、この全員について介護者から、地域の保健・医療・福祉のサービスの利用状況と入院・入所の希望の有無 を調査し得た。
5)3町とも半介助者約3%、全介助者約2%であった。
6)社会生活に関するADLに関しては、3町とも、いずれの項目も「いいえ」と回答した者がそれぞれ約2~3割であった。
7)現在の生活の満足度のQOLに関しては、3町とも3~7%に否定的な回答が見られた。
8)在宅の要介護者は3町とも、女が多く、男に比べ明らかに高齢に偏っていた。又、要介護者が男の場合は介護者は妻が7割、嫁が1割を占め、要介護者が女の場合は介護者は嫁が6~7割、夫が2割を占めた。
9)在宅の要介護者が女である場合、男に比べて介護者が入院、入所を希望する割合が明らかに高かった。
10)保健・医療・福祉サービスの利用状況のうち、3町で異なるのは入院・入所の割合(A町:6%、B町4%、C町3%)、通院・通所の割合(A町:67%、B町:64%、C町:87%)、在宅ケア、在宅療養の割合(A町:12%、B町7%、C 町:20%)である。
11)要介護者のサービス利用状況でも3町に差がみられ、 A町はデイケアや保健婦訪問が多く、B町はホームヘルパーや訪問看護が多く、 C町はすべて平均的で特徴がなかった。
本研究の対象となった3町は人口や地勢、産業構造が似通っており、かつ隣接している農村でありながら、従来からの脳卒中、高齢者に対する予防対策の取り組み方、保健・医療・福祉のサービス体制の違いが、その後の発展に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。
本研究では調査のみを目的とせず、この調査研究事業を通じて3町の特性に合った保健・医療・福祉のサービス体制を充実することを企図してきたが、おおむね、その目的は達成されつつある。
A町はこの事業の期間に地域ケアの在宅ケアの技術面に関する部分は保健センターが主導権をもって行うように改編し、そこに地域ケア推進協議会を作り、活発に活動している。さらに平成10年度には福祉部門がすべて保健センターに移管され、健康福祉課(保健センター長が健康福祉課長となる)となる予定である。
B町は逆に福祉主導の下に福祉課に保健センターが取り込まれるような形となって1本化された。
C町は元来福祉課の中に保健部分が組み込まれた形ではあったが、保健と福祉のバラバラの活動がようやく保健主導で1本化されつつある。3町における平成7年度からの保健機能の強化についてみると、自己申告であるため、3町間の客観的な比較は困難であるが、各町とも強化されたことがうかがえる。A町は従来から最も強化されていたが、17項目の中14項目まで「良く機能」と評価しており、「予定」「検討中」は皆無となった。B町、C町も「検討中」は皆無となり、大部分「機能」の状態となった。分担報告において、保健所長の目で見た客観的な評価と比較すると、 C町の自己評価は甘いと考えられる。従来、組織的な活動があまり行われて来なかったのが、本研究への参加により、地域活動が大きく前進したため、「良く機能」という自己評価が多くなったと思われる。しかし、調査票の回収率にみるように、実態としては未だA町、B町の域に到達していないと思われる。B町は活動の活発な割には「良く機能」という自己評価が少ないが、これは事務担当者主導であまりに早急な保健・福祉の一本化をはかったための保健・福祉の現場関係者の調整の苦労がこのような評価となったと思われる。
3町の3年間の調査活動及び調査成績を通じて結論されるのは、保健・医療・福祉の一貫したサービス体制の整備には技術力をもった専門職の育成と、自治体の首長、或いは担当課長のリーダーシップが不可欠である。
結論

公開日・更新日

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