在宅介護者におけるショートステイ利用の効果-携帯型生理機能測定装置を用 いた生理機能評価-

文献情報

文献番号
199700213A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅介護者におけるショートステイ利用の効果-携帯型生理機能測定装置を用 いた生理機能評価-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 一彦(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口康子(日本赤十字看護大学)
  • 西村ユミ(日本赤十字看護大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 保健医療福祉地域総合調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
1,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護時とショートステイ利用時(要介護者不在時)における夜間の循環機能変化を比較し、一時的な介護に伴う身体的・精神的ストレスからの開放が夜間の循環機能の変動にどのような変化をきたすか、臨床生理学的に測定し比較検討を行うことにより、高齢介護者の健康に対するショートステイの有用性を明らかとすることを目的とした。
研究方法
1.対象者:対象者の選択条件は1)60歳以上、2)一日の多くの時間を介護に費やしていること、3)要介護者は厚生省が提示している「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」のランクA~C(要援助~寝たきり)に相当する者、4)要介護者-介護者関係は配偶者または親子であり、原則として2人暮らしであること、5)ショートステイを利用していることとした。以上の条件を満たし研究承諾が得られた15名とした。
2.測定・調査方法:測定及び調査期間は平成8年9月~平成9年1月である。測定機器の取り付け場所は対象者の自宅とした。対象者である介護者の背景は構成的面接によって収集した。面接内容は、現病歴、既往歴、生活状況、介護状況、介護期間、ショートステイの利用方法、要介護者の状態などである。介護者の循環生理機能は、原則として17:00~翌朝10:00の15時間連続測定とした。1)携帯型連続血圧計を用いて、1時間毎に夜間血圧を自動測定した。2)携帯型心電図記録計を用いて夜間帯の心電図を記録した。心電図の誘導はV1 likeとCM5誘導を用い、心拍変化及び不整脈等につき解析した。以上の生理機能それぞれについて、介護時とショートステイ利用時とを比較した。測定日は、要介護者が自宅におり介護を要する1日とショートステイ利用中の1日の計2日間である。
結果と考察
1.対象者の特徴:介護者15例の平均年齢は68.5歳(56~84歳)、男性5名、女性10例。対象者の健康状態は、内科的疾患では高血圧6例(40%)、虚血性心疾患3例(20%)、糖尿病3例(20%)、高脂血症2例(13%)。腰痛症などの整形外科的疾患は8例(53%)、その他(耳鼻、眼科疾患を含む)6例(40%)であった(再掲含む)。疾患を全く認めない健常者はみられなかった。要介護者(在宅患者)の基礎疾患は、痴呆7例(47%)、加齢による機能低下5例(33%)、骨折4例(27%)、脳血管疾患3例(20%)、その他2例(13%)であった(再掲含む)。介護者と要介護者との関係は、親子8例(53%)、配偶者7例(47%)。介護期間は平均57.4ヶ月(最長172ヶ月~最短1ヶ月)であった。ショートステイの利用目的は、主に法事や結婚式などの公的な社会行事、地域の人や友人との付き合い、旅行などの積極的休養あるいは疲労回復を目的とした休養であった。1ヶ月に1週間、あるいは2ヶ月に2週間というパターンで定期的にショートステイを利用している者もみられた。
2.ショートステイ利用に伴う生理機能変化
1)夜間血圧:夜間平均血圧は介護時、ショートステイ利用時ともに睡眠中の血圧値を対象とした。夜間平均収縮期血圧は、介護時が118mmHg、ショートステイ利用時は116mmHgであった。介護時に比してショートステイ利用時に平均収縮期血圧が5mmHgを越えて低下した者は12例中5例(42%)、変化なしは6例(50%)、5mmHg以上の上昇は1例(8%)であった。夜間の平均拡張期血圧は、介護時が77mmHg、ショートステイ利用時は74mmHgであった。介護時に比してショートステイ利用時に低下した者は12例中4例(33%)であり、変化をみなかった者は6例(50%)、上昇は2例(17%)であった。2)夜間心拍数:夜間睡眠中の平均総心拍数は、介護時は21, 696拍、ショートステイ利用時は21,600拍であり、全例については差異は認められなかった。介護時に比してショートステイ利用時に夜間総心拍数が減少は14例中9例(64%)、増加は5例(36%)であった。増加例には、介護時と同じ時間にトイレに起きた者、家族との団らんを夜遅くまでしていた者、長時間のドライブに出かけた者などが含まれていた。夜間睡眠中の平均心拍数の平均値は、介護時、ショートステイ利用時ともに58拍/分であった。介護時に比してショートステイ利用時に夜間平均心拍数が減少した者は14例中8例(57%)、増加は5例(36%)であった。3)夜間心電図変化(心室性期外収縮Premature Ventricular Contraction:以下PVC):心電図変化は夜間睡眠中に出現したPVCの時間当たりの出現数と重症度の変化について分析した。時間当たり出現数が介護時に比してショートステイ利用時に減少した者は14例中5例(36%)、変化のなしは5例(36%)、増加は4例(29%)であった。増加した1例は、介護時に全く出現がみられなかったのに対し、ショートステイ利用時には時間当たり93個のPVCの出現がみられた。この介護者は、ショートステイ利用直前から非常に強い疲労感と拘束感を感じており、要介護者を施設に送り届けた日にはいままでよりも強い疲労感を感じていたと言っていた。また「食事や掃除をする気力もなくなり、今までの疲れが全部出てくる感じ。一日中横になり、ぼんやりとしているのが精一杯だった」とも言っていた。8例については、PVCの重症度をLownの分類を用いて評価し、介護時とショートステイ利用時とを比較した。介護時に比してショートステイ利用時に重症度の改善をみた者は8例中6例(75%)、変化しなかった者は1例(13%)、重症度が進展した者は1例(13%)であった。介護時においては、3例にLownの分類のタイプIVaのPVCが認められたが、ショートステイ利用時には全例がタイプIIICへと改善がみられた。
3.考察:平成10年3月の行政レポートにおいても主な介護者の平均年齢は60.4歳であると報告されており、社会構造が高齢化の一途をたどる今日において、この傾向は一層進展するものと考えられる。一方で、在宅介護は24時間におよぶ身体的・精神的に過度のストレス源であり、とりわけ夜間介護は、睡眠の中断による循環調節機能への悪影響などとなっているなどの特徴を有している。我国における在宅介護の責任は家族が負わざるを得ない状況にあり、その多くが慢性疾患や諸機能障害を有する高齢者である。我々はこれまでに、生理機能変化を評価し、一部の高齢介護者にとって在宅介護は個人の循環・呼吸
能力を超えるものであるという実態を明らかにしている。また、夜間介護は介護者の不整脈や著しい心拍変動を引き起こす誘因となったり、サーカディアンリズムを乱しうるものであることを報告してきた。一方、インフォーマルケア、特に介護者が配偶者であることが多い我が国では、ショートステイ、デイケア、ホームヘルスエイドおよび訪問看護などのリスパイトの利用が、要介護者のみならず介護者の負荷軽減に直接的に効果をもたらすものと期待されている。欧米の研究には、介護者の満足の助長とともに、主観的負担感の軽減をその効果としてあげているものもある。特に、ショートステイは夜間の介護による睡眠障害を解消する手段として有効であると報告されている。しかしながら、これまでの報告には、ショートステイ利用の効果を身体生理学的指標を用いで評価した研究はほとんどみられず、ショートステイ利用が介護時にみられる身体負荷を軽減し得るものであるのか、未だその実態は明らかにされていない。このように、高齢介護者に及ぼす身体負荷の客観的評価が不可欠となっている。本研究の結果から、ショートステイ利用は介護者の生理的なリズムの回復を導くものとして期待できる可能性が客観的に示された。 
結論
臨床生理機能測定の結果から、介護役割から開放されるショートステイ利用により、介護者の50~70%において、夜間平均収縮期、拡張期血圧の低下、夜間総心拍数あるいは夜間平均心拍数の減少、心室性期外収縮の出現数の減少と重症度の軽減をみた。以上の結果、ショートステイ利用は、介護者、とりわけ健康状態不良者の身体負荷軽減となり、介護に伴う身体的アクシデント予防に有用であることが示唆された。しかしながら、一部にはこれらの指標が不変~増悪を示す例を認めた。今後、利用のタイミングや日数の検討をはじめとして、介護者の身体状況および要望に対応した利用法を考慮する必要があろう。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)